22:00PM、海星高校校門前。
近くをパトロール中だった新人警官の山岸雄太は、
目の前に突如として現れた巨大な影に思わず腰を抜かしそうになった。
「だ、誰だっ!」
懐中電灯を向けると、作業着姿の大男が眩しそうに目を細め、
「なんすか?」
と、ハスキーだがよく通る低音の声で答えた。
身長は180センチ程で、均整の取れた重厚なガタイをしている。
頭に巻いたタオルの下からこちらを見下ろす目は鋭く、ただものではない威圧感があった。
――相手を威嚇してはダメだ。落ち着け、落ち着いて職務質問すれば何の問題もない。
山岸は小刻みに震える手足を必死に抑え、落ち着き払ったように静かに尋ねる。
「こんなところで何をしてるんですか」
「忘れ物したんで取りに来ただけです」
「忘れ物?」
「はい」
「仕事関係の何かですか?」
「いや、俺ここの生徒なんすけど」
「へっ?」
改めて男を見ると、しっかりとした顔つきではあるものの、肌の質感などは確かに10代に見える。
山岸は内心ほっとした。いくら治安維持が職務とはいえ、やっかいな相手に関わるのはなるだけ避けたい。
この若さで殉職なんてまっぴらごめんだし、命あっての物種だ。
――それにしても、疑問が残る。
「何で作業着を着てるの?」
「これは……特に意味はないっす……」
「意味はないって、君ここの生徒なんだよね? 学生証持ってる?」
「持ってないです」
――こいつ、怪しい!
山岸は声に出してそう叫びたいのをグッと堪え、
「とりあえず名前と住所を教えてくれるかな?」
「べつにいいっすけど、忘れ物取りに来ただけなのに何か問題あるんすか?」
男は若干ふてくされた声で答え、ただでさえ鋭い目つきに拍車をかけて山岸を射抜く。
「うっ、ううん、問題はないけど一応ね、一応。これも職務のうちだから。ごめんね」
男は名前と住所を言い終わると、メモを取っている最中の山岸などお構いなしに、
「もういいっすよね? じゃ帰ります」
そのまま立ち去ろうとする。
「あぁ! ちょっと待って!」
「明日も学校だから早く帰って寝たいんすけど」
「君、忘れ物取りに来たんじゃないの?」
「もう取ってきました。失礼します」
これ以上引き止めるとどうなっても知らないぞ。
男の声がハッキリとそう告げていた。……ように聞こえた。
山岸雄太26歳。彼は何故警察官という職業を選んだのだろうか。
遠い昔、初めて母親に買ってもらったおもちゃがパトカーだったからか。
思春期を過ぎ、高校を卒業してからもそのパトカーが大切な宝物だったからか。
定職に就かず、アルバイト生活で遊んで暮らしていた頃、ふと目についたあのパトカー。
彼は何かに目覚めたように一念発起で勉強し、努力の末に国家資格を取得した。
そしてついに子供の頃から憧れだった警察官になったのだ。
適した能力、資質があったかどうかは別にしても。
去って行く男の背中を見送りながら、山岸雄太は「へへっ」と、妙な声で笑った。
それは重い責任から逃れたい時、ついつい出てしまう悪い癖だった。
「警察学校の鬼教官も顔負けの威圧感だったな、あいつ。へへっ」
このとき彼は、決して見逃してはならない最も重要なことを見落としていた。
去って行く男の手が、
真っ赤に染まっていたことに……。
**********
ダイヤは興奮のせいか無意識に貧乏ゆすりをしていた。
さっきから10分以上もカタカタと神経質な音を聴かされている隣の女生徒が、いい加減痺れを切らし、
「ねぇ、ちょっとそれやめてくれない? 授業に集中できないんだけど」
ダイヤは舌打ちして相手を睨み付ける。もちろんカタカタは鳴りやまない。
女生徒は汚物でも見るような目をダイヤに向け、そのまま黙った。
すると、
「おい、やめてやれ」
斜め後ろから虎男の声。
ダイヤはすぐに貧乏ゆすりを止めた。
――ふんっ、せいぜい最後のアルジを楽しめ、クソ野郎。
約束の一週間が過ぎ、今日が最終日だった。
いつも通りマメ柴のチビを負かし、チクワドーナツサンドをゲットすれば、晴れて俺は自由の身だ。
時刻は正午を迎えようとしている。ダイヤは掛け時計の秒針を食い入るように見つめ、心の中でカウントダウンを始めた。
――10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!
キーン♪
チャイムのイントロに瞬時に反応して足を踏み出すダイヤ。
その時、
「あっ」
隣の女生徒が消しゴムを床に落とし、それを拾おうとしてダイヤの前に身を乗り出したのである。
「ばっ!」
反射的に身をひるがえしたダイヤはバランスを崩し、近くの机をなぎ倒して床に転がった。
女子が大げさな悲鳴をあげ、
「おい、大丈夫か!?」
虎男が慌てて駆け寄る。
転んだ拍子に机脚に頭をぶつけたダイヤは、痛む頭を押さえながら立ち上がると、
「消しゴムくらいで必死こいてんじゃねえよブスが!!!」
それだけ叫んで教室を飛び出した。
廊下へ出ると数メートル先を走るマメ柴の姿。
――野郎ッ!!!
全速力で走り出したダイヤの足音に気づいたマメ柴が、こちらを振り返って勝ち誇ったように叫ぶ。
「中村ダイヤ! 敗れたり!」
「……っ! ふざけんなバカ野郎!!!」
ダイヤは鬼の形相で全力疾走するのだった。
**********
「はい、2個限定のチクワドーナツサンド、2個で300円ね」
嘘だろ……こんなのありえねぇ……。
「ありがとうおばちゃん! これすっごく食べてみたかったんだよね!」
「あらそうなの。ありがとねえ。また買いにいらっしゃい」
「はーい!」
嬉しそうにチクワサンドを手にしたマメ柴を、ダイヤは放心状態で眺めた。
終わった……何もかも……。
真っ暗な舞台に一つのスポットライトが灯る。
照らされたのは白装束に身を包んだ中村ダイヤ。海星高校二年B組み、十六歳である。
手には短刀を持ち、顔面蒼白でぼーっと一点を見つめている。
「ええ~! あいつってホモだったの!? きっんも~!」
後ろから突然女の声がした。
驚いて振り向くと、さきほどダイヤの貧乏ゆすりを注意した女生徒が顔を歪めて笑っている。
ダイヤが激しい怒りと屈辱にワナワナ震えていると、ガシャッ、ガシャッ、ガシャガシャガシャガシャガシャッ!
次々と照明のスイッチが入り、明るくなった舞台の上にクラスメイトが勢揃いした。
皆が歪んだ笑みを浮かべ、バケツリレーのように虎男の携帯を回し見していく。
「やだ何この写真!? 気持ちわる~! おえっ!」
「あははははははっ! ほんとだぁ~! 何これ馬鹿じゃないのぉ~!」
「ぶははっ! おいおい、こいつ学校のトイレでオナニーしてたのかよ! 普通するかぁ!? そんなこと!」
「しかもスマホでホモ動画見ながらって、マジキモイんですけどぉ~!」
「つーかチンコの先から精子垂れてんじゃんこいつ! マジ笑えるんだが!」
「ほーんと、クソホモのくせによくも今迄うちらにブスだの何だのと偉そうに言ってくれたよ! 死ねばいいのに!」
「ちょっと顔がいいからって調子乗ってた天罰だな! ざまぁねえっつーの! 死ね! バーカ!」
日頃ダイヤが馬鹿にしていたクラスメイト達が、口々に言いたいことを言ってくる。
そして、ガシャッ!
「どんな気分だ? シモベ」
一際明るい照明を受けた進藤虎男がやってきて、
ダイヤの襟首を掴んで猫を持つように体を持ち上げる。
「アルジの命令を遂行できなかったらどうなるか、よぉ~くわかったか? あ?」
「……せ」
「なに? 聞こえねえ」
「……殺せ」
「死にたいのか?」
「お前だったら……こんなことされても生きていけんのかよ……」
「よく言うぜ。お前は今まで多くの大人達に同じような思いをさせてきたんだろ」
「違う! それとこれとは全然違う!」
「何がどう違う? ホモだってバラしてやる! これはお前の十八番じゃねえか」
「違う……俺はただ……」
「ただ、なんだ?」
その時、ダイヤは自分の手に短刀が握られていることを思い出した。
瞬時に思考し、結論を出す。
――こいつをぶっ殺して俺も死ぬ。
ダイヤは目にも留まらぬ速さで短刀の鞘を抜くと、
次の瞬間、虎男の腹に刃を突き立てた。
「ぐっ……!」
虎男は目を見開いて口を大きく開けたが、喉から微かな息が漏れただけだった。
襟首を掴まれていた手が放れ、ダイヤは床に崩れ落ちる。
虎男もゴツっと音を立てて頭から仰向けに倒れた。
ダイヤは驚愕の表情を顔に貼り付けたまま動かなくなった虎男の腹から短刀を引き抜くと、血が滴る刃先をクラスメイト達に向ける。
女子が一斉に悲鳴をあげた。
「テメェらもよぉーく覚えとけ、俺は絶対お前らを許さない。地獄の底から呪い殺してやる。覚悟しとけ!」
ダイヤは自分の喉に短刀を当て、そのまま一気に力を込めた。
「……っ!!!」
「あ……あのぉ~……大丈夫? 君」
「えっ?」
目の焦点が合うと、自分の顔を覗き込むマメ柴が見えた。
今の映像は何だったんだ? 夢とは思えないくらい鮮明だった。
俺が進藤を殺して、自殺する……?
「あ、あのさぁ、そんなにこのパン好きなら、一口くらい食べてもいいよ。はい」
申し訳なさそうに微笑んでチクワサンドを差し出すマメ柴に、
「そういう問題じゃねんだよ、チビ」
ダイヤはそれだけ言って場を後にした。
つづく。
近くをパトロール中だった新人警官の山岸雄太は、
目の前に突如として現れた巨大な影に思わず腰を抜かしそうになった。
「だ、誰だっ!」
懐中電灯を向けると、作業着姿の大男が眩しそうに目を細め、
「なんすか?」
と、ハスキーだがよく通る低音の声で答えた。
身長は180センチ程で、均整の取れた重厚なガタイをしている。
頭に巻いたタオルの下からこちらを見下ろす目は鋭く、ただものではない威圧感があった。
――相手を威嚇してはダメだ。落ち着け、落ち着いて職務質問すれば何の問題もない。
山岸は小刻みに震える手足を必死に抑え、落ち着き払ったように静かに尋ねる。
「こんなところで何をしてるんですか」
「忘れ物したんで取りに来ただけです」
「忘れ物?」
「はい」
「仕事関係の何かですか?」
「いや、俺ここの生徒なんすけど」
「へっ?」
改めて男を見ると、しっかりとした顔つきではあるものの、肌の質感などは確かに10代に見える。
山岸は内心ほっとした。いくら治安維持が職務とはいえ、やっかいな相手に関わるのはなるだけ避けたい。
この若さで殉職なんてまっぴらごめんだし、命あっての物種だ。
――それにしても、疑問が残る。
「何で作業着を着てるの?」
「これは……特に意味はないっす……」
「意味はないって、君ここの生徒なんだよね? 学生証持ってる?」
「持ってないです」
――こいつ、怪しい!
山岸は声に出してそう叫びたいのをグッと堪え、
「とりあえず名前と住所を教えてくれるかな?」
「べつにいいっすけど、忘れ物取りに来ただけなのに何か問題あるんすか?」
男は若干ふてくされた声で答え、ただでさえ鋭い目つきに拍車をかけて山岸を射抜く。
「うっ、ううん、問題はないけど一応ね、一応。これも職務のうちだから。ごめんね」
男は名前と住所を言い終わると、メモを取っている最中の山岸などお構いなしに、
「もういいっすよね? じゃ帰ります」
そのまま立ち去ろうとする。
「あぁ! ちょっと待って!」
「明日も学校だから早く帰って寝たいんすけど」
「君、忘れ物取りに来たんじゃないの?」
「もう取ってきました。失礼します」
これ以上引き止めるとどうなっても知らないぞ。
男の声がハッキリとそう告げていた。……ように聞こえた。
山岸雄太26歳。彼は何故警察官という職業を選んだのだろうか。
遠い昔、初めて母親に買ってもらったおもちゃがパトカーだったからか。
思春期を過ぎ、高校を卒業してからもそのパトカーが大切な宝物だったからか。
定職に就かず、アルバイト生活で遊んで暮らしていた頃、ふと目についたあのパトカー。
彼は何かに目覚めたように一念発起で勉強し、努力の末に国家資格を取得した。
そしてついに子供の頃から憧れだった警察官になったのだ。
適した能力、資質があったかどうかは別にしても。
去って行く男の背中を見送りながら、山岸雄太は「へへっ」と、妙な声で笑った。
それは重い責任から逃れたい時、ついつい出てしまう悪い癖だった。
「警察学校の鬼教官も顔負けの威圧感だったな、あいつ。へへっ」
このとき彼は、決して見逃してはならない最も重要なことを見落としていた。
去って行く男の手が、
真っ赤に染まっていたことに……。
**********
ダイヤは興奮のせいか無意識に貧乏ゆすりをしていた。
さっきから10分以上もカタカタと神経質な音を聴かされている隣の女生徒が、いい加減痺れを切らし、
「ねぇ、ちょっとそれやめてくれない? 授業に集中できないんだけど」
ダイヤは舌打ちして相手を睨み付ける。もちろんカタカタは鳴りやまない。
女生徒は汚物でも見るような目をダイヤに向け、そのまま黙った。
すると、
「おい、やめてやれ」
斜め後ろから虎男の声。
ダイヤはすぐに貧乏ゆすりを止めた。
――ふんっ、せいぜい最後のアルジを楽しめ、クソ野郎。
約束の一週間が過ぎ、今日が最終日だった。
いつも通りマメ柴のチビを負かし、チクワドーナツサンドをゲットすれば、晴れて俺は自由の身だ。
時刻は正午を迎えようとしている。ダイヤは掛け時計の秒針を食い入るように見つめ、心の中でカウントダウンを始めた。
――10、9、8、7、6、5、4、3、2、1!
キーン♪
チャイムのイントロに瞬時に反応して足を踏み出すダイヤ。
その時、
「あっ」
隣の女生徒が消しゴムを床に落とし、それを拾おうとしてダイヤの前に身を乗り出したのである。
「ばっ!」
反射的に身をひるがえしたダイヤはバランスを崩し、近くの机をなぎ倒して床に転がった。
女子が大げさな悲鳴をあげ、
「おい、大丈夫か!?」
虎男が慌てて駆け寄る。
転んだ拍子に机脚に頭をぶつけたダイヤは、痛む頭を押さえながら立ち上がると、
「消しゴムくらいで必死こいてんじゃねえよブスが!!!」
それだけ叫んで教室を飛び出した。
廊下へ出ると数メートル先を走るマメ柴の姿。
――野郎ッ!!!
全速力で走り出したダイヤの足音に気づいたマメ柴が、こちらを振り返って勝ち誇ったように叫ぶ。
「中村ダイヤ! 敗れたり!」
「……っ! ふざけんなバカ野郎!!!」
ダイヤは鬼の形相で全力疾走するのだった。
**********
「はい、2個限定のチクワドーナツサンド、2個で300円ね」
嘘だろ……こんなのありえねぇ……。
「ありがとうおばちゃん! これすっごく食べてみたかったんだよね!」
「あらそうなの。ありがとねえ。また買いにいらっしゃい」
「はーい!」
嬉しそうにチクワサンドを手にしたマメ柴を、ダイヤは放心状態で眺めた。
終わった……何もかも……。
真っ暗な舞台に一つのスポットライトが灯る。
照らされたのは白装束に身を包んだ中村ダイヤ。海星高校二年B組み、十六歳である。
手には短刀を持ち、顔面蒼白でぼーっと一点を見つめている。
「ええ~! あいつってホモだったの!? きっんも~!」
後ろから突然女の声がした。
驚いて振り向くと、さきほどダイヤの貧乏ゆすりを注意した女生徒が顔を歪めて笑っている。
ダイヤが激しい怒りと屈辱にワナワナ震えていると、ガシャッ、ガシャッ、ガシャガシャガシャガシャガシャッ!
次々と照明のスイッチが入り、明るくなった舞台の上にクラスメイトが勢揃いした。
皆が歪んだ笑みを浮かべ、バケツリレーのように虎男の携帯を回し見していく。
「やだ何この写真!? 気持ちわる~! おえっ!」
「あははははははっ! ほんとだぁ~! 何これ馬鹿じゃないのぉ~!」
「ぶははっ! おいおい、こいつ学校のトイレでオナニーしてたのかよ! 普通するかぁ!? そんなこと!」
「しかもスマホでホモ動画見ながらって、マジキモイんですけどぉ~!」
「つーかチンコの先から精子垂れてんじゃんこいつ! マジ笑えるんだが!」
「ほーんと、クソホモのくせによくも今迄うちらにブスだの何だのと偉そうに言ってくれたよ! 死ねばいいのに!」
「ちょっと顔がいいからって調子乗ってた天罰だな! ざまぁねえっつーの! 死ね! バーカ!」
日頃ダイヤが馬鹿にしていたクラスメイト達が、口々に言いたいことを言ってくる。
そして、ガシャッ!
「どんな気分だ? シモベ」
一際明るい照明を受けた進藤虎男がやってきて、
ダイヤの襟首を掴んで猫を持つように体を持ち上げる。
「アルジの命令を遂行できなかったらどうなるか、よぉ~くわかったか? あ?」
「……せ」
「なに? 聞こえねえ」
「……殺せ」
「死にたいのか?」
「お前だったら……こんなことされても生きていけんのかよ……」
「よく言うぜ。お前は今まで多くの大人達に同じような思いをさせてきたんだろ」
「違う! それとこれとは全然違う!」
「何がどう違う? ホモだってバラしてやる! これはお前の十八番じゃねえか」
「違う……俺はただ……」
「ただ、なんだ?」
その時、ダイヤは自分の手に短刀が握られていることを思い出した。
瞬時に思考し、結論を出す。
――こいつをぶっ殺して俺も死ぬ。
ダイヤは目にも留まらぬ速さで短刀の鞘を抜くと、
次の瞬間、虎男の腹に刃を突き立てた。
「ぐっ……!」
虎男は目を見開いて口を大きく開けたが、喉から微かな息が漏れただけだった。
襟首を掴まれていた手が放れ、ダイヤは床に崩れ落ちる。
虎男もゴツっと音を立てて頭から仰向けに倒れた。
ダイヤは驚愕の表情を顔に貼り付けたまま動かなくなった虎男の腹から短刀を引き抜くと、血が滴る刃先をクラスメイト達に向ける。
女子が一斉に悲鳴をあげた。
「テメェらもよぉーく覚えとけ、俺は絶対お前らを許さない。地獄の底から呪い殺してやる。覚悟しとけ!」
ダイヤは自分の喉に短刀を当て、そのまま一気に力を込めた。
「……っ!!!」
「あ……あのぉ~……大丈夫? 君」
「えっ?」
目の焦点が合うと、自分の顔を覗き込むマメ柴が見えた。
今の映像は何だったんだ? 夢とは思えないくらい鮮明だった。
俺が進藤を殺して、自殺する……?
「あ、あのさぁ、そんなにこのパン好きなら、一口くらい食べてもいいよ。はい」
申し訳なさそうに微笑んでチクワサンドを差し出すマメ柴に、
「そういう問題じゃねんだよ、チビ」
ダイヤはそれだけ言って場を後にした。
つづく。