「佐々木先輩!」
「……駄目だ、繋がらない。呼び出し音は鳴ってるんだけど」
「もぉー! 何やってんだよ新ちゃん!
もしかして来ないつもりなのかなぁ~……」
大吾達は荷物を積み終わったトラックの前で新太郎を待っていた。
あと10分もすれば出発の時刻になってしまうのに、
新太郎が姿を見せる気配はなかった。
そのとき、
「あっ! あれっ!」
不意にマメ柴が叫んだ。
遠くから誰かが歩いてくる。
「山本か!?」
大吾は高鳴る胸を押さえ目を細める。
徐々に近づく姿。それは――
「榎本……」
「ほんとだ、榎本先輩じゃん!」
「何だ、榎本か」そう呟いた佐々木に目を向けて舌打ちすると、
榎本は不貞腐れたような顔で大吾の前まで歩いて行き、
「お前、ほんとに行っちまうんだな」
「あぁ」
「…………」
「何だよ」
「まぁ…頑張れよ」
「おう」
佐々木が榎本の肩を小突き、
「最後なんだからちゃんと言えよ」
「うるせぇな! 前のことはとっくに謝ってるからいんだよ!
だいたいなぁ大吾! 俺はこの佐々木のアホがキャンキャンうるさいから来ただけで、
そうじゃなきゃべつにお前の見送りなんか――」
「来てくれてありがとな、榎本」
「はっ!?……ま、まぁとにかく、お前みたいなしぶとい奴は何があっても大丈夫だ。
向こう行ってもせいぜい頑張れ。それだけだ」
「あぁ」
「ったく素直じゃないなぁ~」
「ほんと、そんなだから相澤真知子みたいな悪魔に騙されるんだよ」
「なっ!? チビ助てめぇこの野郎!」
「うわっ! 暴力反対!」
大吾は騒がしい二人に苦笑しながら、道の向こうに新太郎の姿を探す。
出発時刻は迫っていた。佐々木は携帯電話を取り出し、
「大吾、俺もう一回山本に電話してみるよ」
「ありがとう、頼む」
その時、一服していた引越し業者の男がトラックの運転席から降りてきた。
「すみません、そろそろ出発の時間なんですけど」
暴れていたマメ柴と榎本が動きを止める。
大吾はほんの一瞬顔をしかめ、佐々木に目をやった。
佐々木は携帯を耳に当てたまま首を左右に振る。
「あの、あと10分くらい待ってもらえませんか?」
「う~ん、まぁ10分くらいならいいですけど、一応こちらにも予定がありますんで、
9時10分には出発ということでよろしいですか?」
「はい。すみません、無理言って」
マメ柴は大吾に駆け寄ると、
まるで子供が母親に甘えるように、大吾の体に抱きついた。
「先輩……」
大吾はそんなマメ柴の頭を優しくなでて、両手を肩に置く。
「マメ柴、今までありがとな。お前が柔道部にいてくれて本当によかった」
「あんまり役に立てなくてすいませんでした……」
「そんなことない。言っただろ、お前は強くなれる。
今だってそうだ。初めて会ったときより随分逞しくなってる」
「ほんとに?」
「あぁ、心も体も強くなった。ずっと一緒に居た俺が言うんだから間違いない」
マメ柴は今にも流れそうな涙を袖で拭い、
「先輩、ときどき手紙書いてくださいね! 僕もそうするから!」
「もちろん。――佐々木、お前にもいろいろ世話になった。ありがとう」
「気にすんな。なんつったってお前は将来有望な柔道家だからな。
今のうちからツバつけとかないと。
で、俺が将来記者になったら独占取材させてもらう。いいだろ?」
「はは。わかった、覚えとく」
榎本が大吾の前に立った。
何か言いたそうにするが、落ち着きなく視線を彷徨わせ口を開かない。
「榎本、たまには素直になれ。俺も自分にそう言い聞かせる。
俺達は素直じゃないせいでいろいろ損をしてきた。そうだろ?」
「ふんっ、偉そうに」
榎本は大吾に背を向け、
「……いろいろ悪かった。元気でな」
大吾は小さく笑った。
トラックから運転手の男が出てきて、「すいません、時間です」
「山本……来なかったな」
「あぁ、そうだな……」
「先輩……」
大吾は無理に微笑んでみせた。
それからみんなに別れを告げ、トラックに乗り込む。
エンジンがかかり、トラックは動き出した。
バックミラーに映った三人がどんどん遠ざかる。
そうしてゆるやかな坂道を上り、下ってしまうと、
マメ柴たちの姿は完全に見えなくなった。
――新太郎……。
大吾は目をきつく閉じ、心の中で何度も新太郎の名前を呼んだ。
必ず来てくれる。そう信じていた。でも新太郎は来なかった。
――これも俺自身がやってきたことの結果なのかもしれない。
大吾は切ない胸の痛みに拳を握り、今にも泣き出しそうな自分を抑える。
その時、微かに声が聴こえたような気がした。
「……っ!」
「……れっ!」
「……まれっ!」
「ん? 何だあれ」運転手がルームミラーを見て呟いた。
大吾も目を開いてミラーを見ると、
「とまれーっ!!!」
榎本が叫びながらトラックを追いかけてくる。
「あれ君の友達だよね?」
大吾は驚いて後ろを振り向く。
榎本は途中で片方の靴を脱ぐと、それをこちらに向かって投げた。
「とまれっつってんだろこの野郎!!!」
大吾は慌てて運転手に、
「すみません! 止めてもらえますか!」
「は、はい!」
トラックは急停止した。
榎本も50mほど離れた場所で立ち止まる。
大吾は車の窓を開けて顔を出すと、
「どうした榎本!」
榎本は苦しそうに肩で息をし、何も言わずにその場に座り込んだ。
次の瞬間――
大吾はほとんど無意識にトラックから降りていた。
そしてまばたきをするのも忘れ、ただ前を見つめる。
視線の先に新太郎がいた。
坂の向こうから突然現れた新太郎が、自転車をこいでこちらに向かってくる。
どんなに遠くても、大吾には一瞬でそれが新太郎だとわかった。
二人の距離はどんどん縮まる。新太郎は途中で自転車を乗り捨てて走り出した。
背中に背負ったリュックを片手で押さえながら、苦しそうに足を踏み出す。
そしてとうとう大吾の目の前までやってくると、
「遅くなって…はぁ…はぁ…すいません……」
新太郎がリュックを地面に置いてファスナーを開くと、
甲高い鳴き声をあげながらコロンが飛び出してきた。
コロンは大吾の足元で嬉しそうに飛び跳ね何度も吠える。
大吾はそんなコロンを抱きあげ頭を撫でてやる。
「新太郎……」
「これ……どうしても渡したくて……」
新太郎が絵を挟んだクリアファイルを差し出す。
大吾はコロンを下ろしてそれを受け取ると、描かれた自分の姿をじっと眺めた。
柔道着で腕を組み、誇らしげに微笑む自分の姿がそこにあった。
そして一つの違和感に気づく。
「髪型が違う」
「それは未来の先輩です」
「そうなのか」
「そう。――でも、足りないものがあるでしょ?」
「足りないもの?」
そのとき、トラックのドアが開き、
引越し業者の男が申し訳なさそうに、
「あの~、すいません。ここでトラック止めたままだとまずいんですよね……」
「すいません! すぐすみますから!」
それだけ言うと、新太郎は大吾を見つめた。
日差しを浴びてきらきらと輝く大吾の瞳を、一生忘れないように刻み付けたかった。
伝えたいことが次から次へと浮かんだが、どれ一つ言葉にすることができなかった。
しかし、この時の二人には多くの言葉など必要なかったのかもしれない。
そうしてただ見つめあうだけで、新太郎の想いは大吾へ伝わり、
大吾の想いは確かに新太郎へと届いていた。
「先輩、ありがとうございました!」
新太郎は大声で叫び、深々と頭を下げた。
すると、大吾が徐に手を差し出す。
顔を上げると大吾の優しい笑顔があった。
――あの日と同じだ。
新太郎は大吾の手を握った。
思った通り、大吾は痛いくらいに強い力で握り返す。
――俺達が初めて会った日と同じように。
「ありがとう、新太郎」
新太郎は笑顔で大きく頷いた。
そうして二人の握手は解けた。
大吾は地面に座り込んだままの榎本に手を上げ、
榎本も面倒くさそうに手を上げた。
「じゃあな、新太郎。行ってくる!」
「はい!」
大吾の乗ったトラックはあっという間に遠ざかり、やがて見えなくなった。
その瞬間、新太郎は地面に膝をつき嗚咽した。
あとから追いついたマメ柴達がやって来て、
「新ちゃん、ちゃんとさよなら言えた?」
腕で顔を隠した新太郎が静かに頷く。
「よかったね」
マメ柴が新太郎の頭を撫でてやると、
新太郎は突然マメ柴に抱きつき、大声をあげて泣いた。
まるで子供のように、人目もはばからず泣きじゃくった。
「なんだ、引越しくらいで女みたいにビービー泣きやがって。悪いけど俺は先に帰るぜ」
榎本はそう言って去っていく。
佐々木も新太郎の肩を叩き、
「またいつでも会えるって。だからあんまりクヨクヨすんなよ。じゃあ、俺も先に帰るな」
新太郎はしばらくマメ柴に抱きついたまま泣き続けた。
「それ、さっきの友達が描いてくれたんですか?」
「そうです」
「すごいねえ。そっくりじゃないか」
「はい。――でも髪型だけ違うんです」
「あっ、ほんとだ。前はそういう髪型してたの?」
「いえ、これ未来の俺らしいです」
「へぇ~。面白いねえ」
「未来の俺は……こういう髪型……してるらしい……」
「えっ…あ……あの、ごめんね……」
「いえ……」
大吾の目から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。
つづく。
「……駄目だ、繋がらない。呼び出し音は鳴ってるんだけど」
「もぉー! 何やってんだよ新ちゃん!
もしかして来ないつもりなのかなぁ~……」
大吾達は荷物を積み終わったトラックの前で新太郎を待っていた。
あと10分もすれば出発の時刻になってしまうのに、
新太郎が姿を見せる気配はなかった。
そのとき、
「あっ! あれっ!」
不意にマメ柴が叫んだ。
遠くから誰かが歩いてくる。
「山本か!?」
大吾は高鳴る胸を押さえ目を細める。
徐々に近づく姿。それは――
「榎本……」
「ほんとだ、榎本先輩じゃん!」
「何だ、榎本か」そう呟いた佐々木に目を向けて舌打ちすると、
榎本は不貞腐れたような顔で大吾の前まで歩いて行き、
「お前、ほんとに行っちまうんだな」
「あぁ」
「…………」
「何だよ」
「まぁ…頑張れよ」
「おう」
佐々木が榎本の肩を小突き、
「最後なんだからちゃんと言えよ」
「うるせぇな! 前のことはとっくに謝ってるからいんだよ!
だいたいなぁ大吾! 俺はこの佐々木のアホがキャンキャンうるさいから来ただけで、
そうじゃなきゃべつにお前の見送りなんか――」
「来てくれてありがとな、榎本」
「はっ!?……ま、まぁとにかく、お前みたいなしぶとい奴は何があっても大丈夫だ。
向こう行ってもせいぜい頑張れ。それだけだ」
「あぁ」
「ったく素直じゃないなぁ~」
「ほんと、そんなだから相澤真知子みたいな悪魔に騙されるんだよ」
「なっ!? チビ助てめぇこの野郎!」
「うわっ! 暴力反対!」
大吾は騒がしい二人に苦笑しながら、道の向こうに新太郎の姿を探す。
出発時刻は迫っていた。佐々木は携帯電話を取り出し、
「大吾、俺もう一回山本に電話してみるよ」
「ありがとう、頼む」
その時、一服していた引越し業者の男がトラックの運転席から降りてきた。
「すみません、そろそろ出発の時間なんですけど」
暴れていたマメ柴と榎本が動きを止める。
大吾はほんの一瞬顔をしかめ、佐々木に目をやった。
佐々木は携帯を耳に当てたまま首を左右に振る。
「あの、あと10分くらい待ってもらえませんか?」
「う~ん、まぁ10分くらいならいいですけど、一応こちらにも予定がありますんで、
9時10分には出発ということでよろしいですか?」
「はい。すみません、無理言って」
マメ柴は大吾に駆け寄ると、
まるで子供が母親に甘えるように、大吾の体に抱きついた。
「先輩……」
大吾はそんなマメ柴の頭を優しくなでて、両手を肩に置く。
「マメ柴、今までありがとな。お前が柔道部にいてくれて本当によかった」
「あんまり役に立てなくてすいませんでした……」
「そんなことない。言っただろ、お前は強くなれる。
今だってそうだ。初めて会ったときより随分逞しくなってる」
「ほんとに?」
「あぁ、心も体も強くなった。ずっと一緒に居た俺が言うんだから間違いない」
マメ柴は今にも流れそうな涙を袖で拭い、
「先輩、ときどき手紙書いてくださいね! 僕もそうするから!」
「もちろん。――佐々木、お前にもいろいろ世話になった。ありがとう」
「気にすんな。なんつったってお前は将来有望な柔道家だからな。
今のうちからツバつけとかないと。
で、俺が将来記者になったら独占取材させてもらう。いいだろ?」
「はは。わかった、覚えとく」
榎本が大吾の前に立った。
何か言いたそうにするが、落ち着きなく視線を彷徨わせ口を開かない。
「榎本、たまには素直になれ。俺も自分にそう言い聞かせる。
俺達は素直じゃないせいでいろいろ損をしてきた。そうだろ?」
「ふんっ、偉そうに」
榎本は大吾に背を向け、
「……いろいろ悪かった。元気でな」
大吾は小さく笑った。
トラックから運転手の男が出てきて、「すいません、時間です」
「山本……来なかったな」
「あぁ、そうだな……」
「先輩……」
大吾は無理に微笑んでみせた。
それからみんなに別れを告げ、トラックに乗り込む。
エンジンがかかり、トラックは動き出した。
バックミラーに映った三人がどんどん遠ざかる。
そうしてゆるやかな坂道を上り、下ってしまうと、
マメ柴たちの姿は完全に見えなくなった。
――新太郎……。
大吾は目をきつく閉じ、心の中で何度も新太郎の名前を呼んだ。
必ず来てくれる。そう信じていた。でも新太郎は来なかった。
――これも俺自身がやってきたことの結果なのかもしれない。
大吾は切ない胸の痛みに拳を握り、今にも泣き出しそうな自分を抑える。
その時、微かに声が聴こえたような気がした。
「……っ!」
「……れっ!」
「……まれっ!」
「ん? 何だあれ」運転手がルームミラーを見て呟いた。
大吾も目を開いてミラーを見ると、
「とまれーっ!!!」
榎本が叫びながらトラックを追いかけてくる。
「あれ君の友達だよね?」
大吾は驚いて後ろを振り向く。
榎本は途中で片方の靴を脱ぐと、それをこちらに向かって投げた。
「とまれっつってんだろこの野郎!!!」
大吾は慌てて運転手に、
「すみません! 止めてもらえますか!」
「は、はい!」
トラックは急停止した。
榎本も50mほど離れた場所で立ち止まる。
大吾は車の窓を開けて顔を出すと、
「どうした榎本!」
榎本は苦しそうに肩で息をし、何も言わずにその場に座り込んだ。
次の瞬間――
大吾はほとんど無意識にトラックから降りていた。
そしてまばたきをするのも忘れ、ただ前を見つめる。
視線の先に新太郎がいた。
坂の向こうから突然現れた新太郎が、自転車をこいでこちらに向かってくる。
どんなに遠くても、大吾には一瞬でそれが新太郎だとわかった。
二人の距離はどんどん縮まる。新太郎は途中で自転車を乗り捨てて走り出した。
背中に背負ったリュックを片手で押さえながら、苦しそうに足を踏み出す。
そしてとうとう大吾の目の前までやってくると、
「遅くなって…はぁ…はぁ…すいません……」
新太郎がリュックを地面に置いてファスナーを開くと、
甲高い鳴き声をあげながらコロンが飛び出してきた。
コロンは大吾の足元で嬉しそうに飛び跳ね何度も吠える。
大吾はそんなコロンを抱きあげ頭を撫でてやる。
「新太郎……」
「これ……どうしても渡したくて……」
新太郎が絵を挟んだクリアファイルを差し出す。
大吾はコロンを下ろしてそれを受け取ると、描かれた自分の姿をじっと眺めた。
柔道着で腕を組み、誇らしげに微笑む自分の姿がそこにあった。
そして一つの違和感に気づく。
「髪型が違う」
「それは未来の先輩です」
「そうなのか」
「そう。――でも、足りないものがあるでしょ?」
「足りないもの?」
そのとき、トラックのドアが開き、
引越し業者の男が申し訳なさそうに、
「あの~、すいません。ここでトラック止めたままだとまずいんですよね……」
「すいません! すぐすみますから!」
それだけ言うと、新太郎は大吾を見つめた。
日差しを浴びてきらきらと輝く大吾の瞳を、一生忘れないように刻み付けたかった。
伝えたいことが次から次へと浮かんだが、どれ一つ言葉にすることができなかった。
しかし、この時の二人には多くの言葉など必要なかったのかもしれない。
そうしてただ見つめあうだけで、新太郎の想いは大吾へ伝わり、
大吾の想いは確かに新太郎へと届いていた。
「先輩、ありがとうございました!」
新太郎は大声で叫び、深々と頭を下げた。
すると、大吾が徐に手を差し出す。
顔を上げると大吾の優しい笑顔があった。
――あの日と同じだ。
新太郎は大吾の手を握った。
思った通り、大吾は痛いくらいに強い力で握り返す。
――俺達が初めて会った日と同じように。
「ありがとう、新太郎」
新太郎は笑顔で大きく頷いた。
そうして二人の握手は解けた。
大吾は地面に座り込んだままの榎本に手を上げ、
榎本も面倒くさそうに手を上げた。
「じゃあな、新太郎。行ってくる!」
「はい!」
大吾の乗ったトラックはあっという間に遠ざかり、やがて見えなくなった。
その瞬間、新太郎は地面に膝をつき嗚咽した。
あとから追いついたマメ柴達がやって来て、
「新ちゃん、ちゃんとさよなら言えた?」
腕で顔を隠した新太郎が静かに頷く。
「よかったね」
マメ柴が新太郎の頭を撫でてやると、
新太郎は突然マメ柴に抱きつき、大声をあげて泣いた。
まるで子供のように、人目もはばからず泣きじゃくった。
「なんだ、引越しくらいで女みたいにビービー泣きやがって。悪いけど俺は先に帰るぜ」
榎本はそう言って去っていく。
佐々木も新太郎の肩を叩き、
「またいつでも会えるって。だからあんまりクヨクヨすんなよ。じゃあ、俺も先に帰るな」
新太郎はしばらくマメ柴に抱きついたまま泣き続けた。
「それ、さっきの友達が描いてくれたんですか?」
「そうです」
「すごいねえ。そっくりじゃないか」
「はい。――でも髪型だけ違うんです」
「あっ、ほんとだ。前はそういう髪型してたの?」
「いえ、これ未来の俺らしいです」
「へぇ~。面白いねえ」
「未来の俺は……こういう髪型……してるらしい……」
「えっ…あ……あの、ごめんね……」
「いえ……」
大吾の目から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。
つづく。