気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 7

2019-01-05 00:43:00 | ストーリー
Stay With Me 7





部屋を出てから3ヶ月が過ぎた


今日の仕事を終え、職場のデスクを片付けて挨拶をし会社を出た


スマホをチェックするのが無意識の習慣になっていた


寺崎さんからのメールはやっぱり来ていない

部屋を出てからずっとメールさえも来ないのがずっと気になっていた

私から出たんだから彼は私からの連絡を待っているのかもしれない

エレベーターに乗りこむと野村くんが走りこんできた


「セーフ!(笑)」
エレベーターのドアが閉まった

エレベーターは二人きり


並んで立っている野村くんが私にぴったりくっついてきた


「ちょっと、近い、、」
私は野村くんから少し離れた


「二人きりなんだからこれくらいいいでしょ? 」
拗ねるように少し口をとがらせた


野村くんは私と付き合ってると思ってるんだろうか

エレベーターは1階に着いて扉が開いた


先にエレベーターを降りると野村くんが私の後ろからついてきた


一緒に食事しようと何度もねだっていたから

根負けして食事に行く了承をした



あのチョコレート専門店の通りに曲がる


店の前でガラス越しに店内を見ながら入ることに躊躇するシャイな寺崎さんの姿を今でも思い出す



寺崎さん…
今頃どうしてるのかな

彼のことを思い出すたび
胸が苦しくなる


野村くんは向かい合わせに座って楽しそうに喋ってる


「前から言おうと思ってたんだけど。私をからかうのやめてくれないかな。」


真剣な表情に変わった

「俺からかってなんかないよ。どうすれば俺が本気だってわかってくれるの?」


真っ直ぐ私の目を見るその眼差しを直視できなくて目を反らした

一緒に食事することを了承したことを後悔した


「やっぱり私は野村くんのこと恋愛対象とは思えないよ… ごめん。」

「どうしても…?」


悲しそうに微笑んだ

ズキッと胸が痛んだ



ーーー




店を出て駅まで一緒に歩く

野村くんのゆっくり歩く歩調に名残惜しい気持ちが伝わってくる


「俺…やっぱフラれたのかなぁ(笑) 」

精一杯 明るく振る舞う野村くんに罪悪感を感じてしまう



「ごめん。」

それしか言えない…


視線を向けた向かいの通りに見覚えのある人が立っていた


あれは…

寺崎さん!




久しぶりに見た彼の姿



すれ違う人よりも背が高く
見覚えのあるダウンにマフラーを巻いて


無造作に伸びた前髪が
出会った頃の彼に見えた


彼は誰かを待っている様子だった


「野村くん、ごめん。私寄るところあるから…



「え?じゃあ俺も付き合う。」

「一人で行きたいから…」


彼から視線を外せない…




「…そっか。じゃあ…また月曜に、、」

野村くんは悲しそうに微笑んだ



ごめん…
やっぱり私…



遠目から彼を見つめた
彼は私に気づかずスマホを見ていた



ーー 少し痩せたように見えた



この距離が今の私達の距離を表しているようで切なくなった

また彼の優しさや温かさが恋しくて
私はスマホを取り出そうとした瞬間


スラッとした綺麗な女性が彼に親しげに声をかけた


…え?


二人は顔見知りのようで
その女性と少し言葉を交わし

彼は女性の背中に一瞬手を触れ
二人は並んで歩きだした


私は二人を追うことができなくなった


胸が締め付けられながら二人の後ろ姿を見送った


だって

二人がとてもお似合いだったから
お似合いの恋人同士に見えたから




ーー 3ヵ月

3ヵ月前までは彼の隣には私がいて
彼の微笑みは私にだけに向けられていた


この3ヵ月間で彼の心はもう完全に離れてしまったのだろうか

もう私達は本当に終わってしまったのだろうか



いつもの彼の“あの癖” …

背中に触れるあの人の癖が
私の心を傷つけた


私から部屋を出たんだ
彼から離れたのは私
彼を傷つけたのも私なのに…

私は本当に自分勝手だ ーー






帰宅したら恵美がビールを飲みながらテレビを見ていた

「おかえりー!今夜は誰とご飯行ってたのー?」


恵美の顔を見たら急に涙が溢れてきた

「なになに?どうしたの?」



ーーー



「なんで追いかけて行かなかったの… 」

私から部屋を出たのに今更…

彼が私のために心を込めて作ってくれたお茶碗を手に取った

あの部屋を出てからこのお茶碗はずっと使わずしまっていた




寺崎さん…

これを手にした時の感動や彼の照れた表情が昨日のことのように鮮明に思い出して

その思い出も私の心を辛くさせた



距離を置こうと言って部屋を出た
別れようと言った訳じゃない ーー


だけど連絡ひとつもしなかった

その結果がこれ…



切なくて胸が痛くて苦しい

私は本当に馬鹿だ…




このお茶碗 ーー

これを初めて手にした時
私は彼に愛されていた


「もぅ。そんなに辛いなら電話ぐらいしてみなよ。」


私は今までのLINEの会話を見返していた



『今夜遅くなる?』

『僕は定時で帰れそうだよ。何か買って帰ろうか? 』


そんななんでもない日常の中に幸せがあったんだ…


『今夜仕事が終わったら迎えに行くからデートしようよ。』



デート…
あの女性とはデートだったのかな


考えたところで答えの出ないことをずっと考えてしまう

悩むよりも連絡を取って会って話せばいいことだと頭ではわかってるのに

その勇気が出ない



もし
決定的な言葉を彼から言われたら…

傷つくのが恐くてLINEさえできない




「アタシが代わりに電話してあげようか?

それにそんなにモテる男?私のイメージは地味で奥手なおっさんなんだけど?(笑)」


「直ぐに彼女ができてもおかしくないもん…
あぁ、やっぱり彼女なのかなぁ」



また涙がこみ上げてきた

背が高くスタイルの良い美女


お似合いってああいう二人のことを言うんだろう


こんなに辛いなんて

私やっぱり彼が好きなんだな…




ーーーー





部屋を出てから
もうすぐ4ヵ月が経とうとしている ーー

彼が勤める店の前で立ち止まった


彼は裏方の仕事だから表に出てくることはないと言っていたから

きっと彼と会うことはないだろうと思いつつ店内に入った


やっぱり
いないよね…


私なんで来たんだろう


もし彼が現れたら…

今更会ってどうする?
何を話す?


そのまま店を出ようとした時



「寺崎を呼びますね」
寺崎という言葉にドキッとした

男性客が店員に寺崎さんを呼んで欲しいと頼んだようだった

店を出ようか迷っている内に寺崎さんが出てきて私はとっさに商品棚の影に隠れた


「お久しぶりです(笑)」
お客さんとは親しい様子だった

久しぶりに聞いた彼の声


彼はお客さんとパソコンの専門的な話をしているようで

話の内容は私には理解できなかったけれどずっと笑顔だった



4ヵ月程前まで一緒に暮らしていた人 ーー

胸がいっぱいになってきた



やっぱり痩せてる…
でも笑顔が見られて良かった


ーー 私は気付かれないようそっと店を出た


もうあの綺麗な女性と付き合ってるのかな




ーーー



その日の夜遅く
突然 彼からLINEが来た


『久しぶり。理奈ちゃん。

今日、君が店から出ていく姿を見かけたから。

このメールも送ろうか凄く悩んだけどやっぱり気になって。

もしかして僕のこと気になって店に来てくれたのかなって。

僕の自惚れかもしれないけど もしそうだったら嬉しいなと思って。』

はにかみながら頭を掻く彼の姿が目に浮かんだ


緊張しながら返事を送った



『寺崎さんこんばんは。黙って伺ってごめんなさい。』


そのメッセージを送った直後
電話の着信が来た

スマホの画面には彼の名前 ーー



心臓が高鳴る


呼吸を整え 電話に出た



『あ… 理奈ちゃん、久しぶり、、』


ああ、寺崎さんの声だ…



『いきなり電話してごめんね。やっぱり君の声が聞きたくなって、』



“君を愛してる”


私の心の中に直接
そう語りかけてきた気がして

涙がこみ上げてきたーー



『君に会いたかった… ほんとに凄く 、、』

優しい声…

言葉は少ないけれど想いが伝わってきた



「連絡もしないで店に伺ってごめんなさい。」


『いいんだ。嬉しかったよ。後ろ姿で直ぐに君だとわかった。

君から来てくれたことが本当に嬉しくて、こうしてまた声が聞けることも嬉しい。』


声もかけず帰った私に何故なのかと問うこともなく素直に心から喜んでくれている ーー



『僕から連絡をする勇気がなかった。君に完全に嫌われたのかもしれないと思ってた…

凄く寂しかったけど、この時間はお互いに冷静に色々考える時間になったと思う。』

「そうだね… 」

『それで… 理奈ちゃんの中で… 答えは出たかな。』

「答え…」

別れるのかどうかって意味?


『理奈ちゃん... 君が別れたいなら僕はいつだって別れる覚悟はできたよ。

だから君がどんな決断をしても受け入れるつもりでいる。君が幸せになれる選択をすればいいと思ってるよ。』


別れた方があなたにとって都合が良いの?


胸が… 痛い



「会って、話せませんか…」

『えっ… 会ってくれるの?ほんとに!?』



沈んでいた声が突然明るい声に変わった


『それはいつ!?今からじゃダメ!?5分でも、いや1分だけでも良い、会いたいよ!

場所を教えてくれたら今から向かうから!』


興奮気味に嬉しそうな声の彼にドキドキした



「でも…今夜はもう遅いし…」

隣にいた恵美が小声で話しかけてきた

“今からでも会ってきなよっ”



『ごめん… そうだね。今からじゃ遅いよね。つい嬉しくて…いつなら会えるかな、、』


恵美が“早く!会うと言え”とジェスチャーをしてきた


「あの、じゃあ明日休みだし…今から会いましようか、、」

『いいの!?ありがとう!!今から直ぐに向かうから!どこに行けば良い!?』


いつも落ち着いている彼が
嬉しくてはしゃいでいるなんて初めて


私も彼に会えることが嬉しい

彼の嬉しそうな声が恵美にも聞こえたのか恵美が微笑んだ

この部屋の裏にある公園で待ち合わせることになった


「明日は休みなんだし今夜はもう帰って来なくていいよっ。言いたいことや聞きたいこと、いっぱいあるでしょ?全~部素直に話してきなよ?(笑)」


恵美が笑顔で背中を押してくれた






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