気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Stay With Me 16

2019-08-23 22:10:00 | ストーリー
Stay With Me 16






あんなことがあっても
中野さんは “いつも通り” だった


硬い挨拶に 
余計な会話も無い




眼鏡を取ったらもっと理奈ちゃんに似ていることを知ってから

ついチラチラと目が追ってしまう



中野さんは普段からあまり人と関わりを持たないないから

ついついチラ見してしまう僕にも気付かない








「中野さんが気になるんスかー?」

西野くんから声をかけられた



「え?いや?そんなことは。」


「そだ!(寺崎さん知ってます?中野さんのプライベート!) 」


えっ!?


「プライベートとは?」



「 (前から謎だなーと思ってたんスけど、俺 見ちゃったんですよね) 」



「何を… 」



「 (なんと!クラブで踊ってるとこ!) 」



クラブ!?


一瞬 あの公園での出来事を見られたのかと思った



「 (でね、はじめは中野さんだってわかんなかったんスよ!会社でのイメージと違いすぎて!) 」



別人のようだったと?



「 (じゃあ人違いじゃないのか?) 」


「 (俺も自分の目を疑ったんスけどね!コレ!) 」


ポケットからスマホを取り出して画像を見せてきた


肩と背中ががっつりと開いたセクシーな女性の横顔の画像 ーー




「 (これ、盗撮画像じゃないのか? ダメだろ!) 」


「 (すんません…(笑) でもでもほら!ココ見てくださいよ!) 」



画像を大きくして女性の首筋を指差した



このホクロは…

中野さんの方を見たら
彼女にも同じ位置に特徴的な大きめのホクロがある




「 (ほらね!!中野さんでしょ?) 」



「 (まぁ… 彼女だってクラブに行くことだってあるだろ) 」



「 (あの中野さんっスよ?しかもセクシーでしょ!ほんとイケてますよね~!今度食事とか誘おっかなー(笑) 俺、年上 全然OKなんで!) 」


「 (あーもう、わかったから、仕事に戻れ!) 」


「 (はーい(笑)) 」




なんて言ったものの…

普段はあんな感じなんだ



西野くんの言うとおり
セクシー系だったことが意外だ

また中野さんの違う一面を見た




西野くんと同様に
僕もそんな中野さんを見てみたいと一瞬思ってしまった




いやいや、、
彼女は理奈ちゃんじゃないんだから


小さく首を振った




僕にも
僕だけが知っている理奈ちゃんがいる

僕だけに見せる表情とか…



つい口元が緩んでしまう





でも最近僕に触れられるのを避けている


ーー僕への気持ちが冷めたのだろうか



いやいや、そんなはずは無い





今日は理奈ちゃんの誕生日デートだ


今夜は良いホテルで宿泊の予約をしてある


心に残るような日にしたいと思ってる




「寺崎さん。」


「なに、理奈ちゃ… 」

声の方に振り向くと


あっ、中野さん!




「こちらチェック済みです。確認よろしくお願い致します。」



書類を渡された



「 (コホン!)わかった、、」


気付かれなかったことにホッとした




「彼女さんですか。」


「え?」


「リナさん。」

しっかり聞き取られてる!



「まぁ、うん。じゃあこれ見ておくよ、、」


「そちら、確認し終わったら一声かけてください。」


「わかった。」



理奈ちゃんのことを考えていた時に

声まで似ている中野さんから声をかけられ
つい反射的に反応をしてしまった



仕事中にいらぬ事を考えたら駄目だな





ーーー





定時になり

退社のため机の上を片付け始めた僕に


西野くんが話しかけてきた





「あれ?今日は定時上がりっスか? 」


「大事な予定があってね。」


「明日休みでしたよね?彼女とデートっスかー?」


「まぁ、、そんなこところ(笑)」


「良いっスね(笑)楽しんできてくださいね(笑)」


西野くんの想像通り
楽しい夜にしたいところだけど…




「じゃあ、、お先に。」


ニヤニヤ顔で見送られてしまった


ちょっと 恥ずかしい…





理奈ちゃんの会社は大きな商業ビルの中に入っている


ビルのロビーには入館証を手にした人々が出入りしていた




ここで待つのは久しぶりだな

初めてここで待った時は
野村という若い後輩と一緒に現れた


あの時の僕は
心中穏やかではなかった


平静を装っていたけどね(笑)



エレベーターを降りてきた理奈ちゃんが僕に気付き小走りしてきた



「ごめん、待った?」


「お疲れさま(笑)今来たところだよ。」



理奈ちゃんの荷物を僕が持ち
一緒にその商業ビルを出た



「その服とてもよく似合ってるよ。初めて見る。」



「えへっ(笑) ありがと(笑)」



照れ笑いをする僕の可愛い婚約者さんと

駅に向かって並んで歩く




「行さんはどんな時でも素敵だもんね(笑)
いつも爽やか。寝起きでも。ふふっ (笑)」



「寝起き?寝癖がついてても?(笑)」



「ははっ(笑) たまに朝 寝癖で髪が跳ねててもそれも良いなぁ(笑)」


「あれが!?(笑)」


「ほんとだよ? パジャマ代わりにしてる首が伸びたTシャツを着てるのも可愛いなーって(笑)

だから不思議な人だなぁと思ってる(笑)」


「40過ぎて可愛いなんて(笑)」



伸びたTシャツ、捨てておこう...


今日の彼女は楽しそうでホッとした ーー





ーーー






「行さんと このお店に来る時はいつも記念日だね。」


初めて一緒に来た時に
僕はここで交際を申し込んだ



「そうだ!君は眼鏡男子が好きなんだったね?」



「あはっ(笑) まだそう思ってたんだね!

あの時、眼鏡をかけてる行さんが素敵って意味で言ったんだよ?(笑)

眼鏡男子が好きって訳じゃないからね?」



そうなの?

「僕はずっと勘違いしてたってこと?(笑)」


「うん(笑) 家でいる時以外は眼鏡かけないよね?残念(笑)」


「残念なの?じゃあコンタクトやめようかな(笑)」


「ふふっ(笑)どっちも好きだよ(笑)」




君から“好き”なんて言葉が出るのが 久しぶりで…

少しくすぐったい



なのに

どうしても何となく感じている不安が拭えない



「あ、これ、理奈ちゃん。お誕生日おめでとう(笑)」



27歳の誕生日プレゼントはカーデガンを贈った



暑がりの僕に気を使って
自分はクーラーで身体が冷えているのに寒いと言わない


気付いたから設定温度を上げてるけれど

君はまた僕に気を使って設定温度を下げる





「わぁ… 嬉しい!綺麗な色だし肌触りも凄く良い。あ、これシルクだね!

行さん、、本当にありがとう(笑)」




「喜んでもらえたなら嬉しいよ(笑)」




気を使いすぎる君にせめて

“君を守るもの” をあげたかった




「ほんとに、嬉しい(笑)」

頬がピンク色になっている



花が咲いたようなこの笑顔を見るのが好きだ



三年間

未だにこんな風に想えることは幸せなことだ



でも 最近の君は…




「なに?」

「いや、早く二人きりになりたいな(笑)」

「…そうだね(笑)」




一瞬 眉尻を下げ戸惑った表情をしたことを僕は見逃さなかった




ーー まただ


はじめは気のせいか?と思っていたけれど



“今日はアレだから” と拒否することがあって

それはそれで受け入れてきたけれど



日にちを置いても

疲れてるからとか
その場しのぎの理由で交わされてきた


ただ僕はハグがしたくて君の肩に触れただけでも

直ぐに僕から離れてしまう

そんなことが多くなって


いつの間にか
触れることさえ許されなくなってしまった





それでも僕はーー




「ね、理奈ちゃん。僕はいつも君とこうして一緒に過ごすだけで幸せだからね。」



少し驚いた表情で僕の顔を見た



「だから、君が幸せそうに笑ってくれているだけで嬉しい。」


「…あ、ありがと」

困ったような表情で笑った



それでも何故か
嫌われてる感じはしない




ーーー





行さんは本当に優しいな… 

然り気なく気遣ってくれる




こういう所に
この人の優しい人柄を感じる



だからこそちゃんと言わなきゃ…





先月
急にお腹に激痛がして

午後から会社を早退させてもらい
そのまま病院に向かった


生理の出血も多くなって気になっていたところだった


検査を受けた結果
子宮と卵巣の病気になっていたことがわかった



医師に

妊娠はしにくいと宣告されてしまった




ーー 凄くショックだった






行さんは小さい子供を見ると
“僕達も子供欲しいね” と言っていた


私も当前のように結婚すれば自然と妊娠、出産して家族が増えるものだと思っていた


そんな当たり前と思っていたことが当たり前じゃなくなったことが


...辛かった




子供が欲しい行さんにどう伝えればいいだろうと


毎日毎日悩んで

言うのが恐くて

これからどうしようと
どう言えばいいのかと

結婚のご縁なんて
そもそもなかったのか と


いろんなことが頭の中でぐるぐる回って

どんなに考えても結局は同じ答えにたどり着いてしまう


早く言わなきゃ、言わなきゃ、と気持ちは焦ってばかりで

結局言えないままになっている





この三年間

全然変わることなく私に優しく愛情を注いでくれるこの人に

辛い思いをさせてしまう

この事実をどう伝えればいいのだろう



罪悪感に近いこの苦しみで
行さんから つい避けてしまっていた





「ね、理奈ちゃん。僕はいつも君とこうして一緒に過ごすだけで幸せだからね。」



その言葉にハッとした



「だから、君が幸せそうに笑ってくれているだけで嬉しい。」



私が言えずにいたことの全てを理解してくれているような

その優しい言葉に泣きそうになる




「…ありがとう」


嬉しいのに 胸が痛む





ーーー





行さんはホテルの部屋のドアを開いた


広い部屋…

しかもこんな高級な部屋を用意してくれたなんて


お姫さまでもなったみたい


行さんは腕時計を外しドレッサーに置いた


ネクタイを緩めジャケットを脱ぎ
シャツの袖のボタンを外しながら私に視線を向けた


そういう
ひとつひとつの所作も格好良い



「ここ。夜景が綺麗なんだよ。」


ネクタイを外して薄いカーテンを開いた







凄い夜景 ーー








「あのね、」


「ん(笑)」


「話があるの。」



ジャケットをハンガーにかけ始めた行さんに話しかけた



「話… ?」


視線を
合わしてくれない…


「あのね、行さん、」


「その前に飲み物でも頼もうか。」


「え?うん 、、」



内線でワインにレーズンバター
他にも幾つかオーダーをしている


私の話を避けてるようにも見えるその横顔

やっぱり何が気づいてたのかもしれないな…



だとすると
聞きたくないってこと、だよね




「私、先にシャワーに行ってもいいかな。」


「あぁ、うん。そうだね(笑)」

ホッとした表情になった






ーーー



私がシャワーから出た時には
もうワインが届いていた




「ごめん、先に飲んでた(笑)」



ビールも後から追加で頼んだのか

空になったグラスがテーブルに置いてあった





「ちょっと酔った(笑)ふふっ(笑)」


ビールは直ぐに酔うと言ってたから
酔わないと聞けないということだろう




グラスにワインを注いで差し出した

一口飲むとグラスをテーブルに置いて深い呼吸をした


「話があると言ってたけど、何かな。」



覚悟を決めたような表情に変わった



バクバクと音が聞こえそうなくらい
自分の心臓の鼓動が大きく感じる



これから話すことは

行さんを傷つけるのは間違いないから


胸が痛い ーー






病院に行って

医師が話したことを全て彼に話した

不妊のことも




行さんは一言も言葉を発することなく
真剣視線で私を見つめながら黙って相槌を打ち私の話を聞いていた


すると
次第に悲しい表情に変わっていった




「ごめんなさい」

「なぜ謝る?君が悪いことをした訳じゃないだろう。

今 身体痛くない?

酒飲んだらダメだったんじゃ、、治療は、、 」


「病院には通ってる。お酒は少々なら大丈夫だよ(笑)」


また深い呼吸をした


「僕は…」

何かを言いかけ言葉に詰まった彼の目は

今にも波が溢れそうなほど潤んできた




胸が痛くて思わず視線を落とした



「まずは病気を治そ?子供のことはそれから考えればいい。

僕がずっと傍にいるから。」



行さんならきっとそう言うと思ってた

だから 
その優しさが私には辛かった




「それ、なんだけど…結婚、どう、しよっか。」



「 …どうしようとは?完治するまで式は延ばそうよ。」



「そうじゃなくて、、初めから無かったことに、」




一瞬で空気が変わった気がした




「…無かったことって、つまり君は … 結婚したくなくなった…てこと?」

動揺で声が少し震えていた

「違うよね?違うよね?」


私の肩を掴んで目を覗きこんだ



ズキズキと胸が痛む
呼吸ができなくなるくらい






「理奈ちゃん、、違うよね?冗談だよね?」


行さんの言葉一言一言が胸に突き刺さるようだった



「やっぱり、赤ちゃんのこと考えると、ね、、」



彼はソファの背もたれにもたれ大きく息を吐いた



「なんだよ… ははっ(笑)脅かさないでよ、ほんと、ははっ(笑)」


えっ…?


「僕のこともう嫌いになったのかと思ったよ(笑)ほんと良かった(笑)」



思ってもみなかった反応をした彼の表情は

安堵の表情に変わっていた





「でも申し訳なくて… 」



「もう愛してないから結婚しないなんて言われてたら一生立ち直れないところだったよ(笑)」



病気のことも
妊娠が難しいことも話をした上で

受け入れてくれた





「なんで申し訳ないなんて思うんだ。

それにその診断結果を何故直ぐに僕に言ってくれなかった?

妊娠できないかもしれないからってなんでそんな極端な考えになるんだ?

僕達の信頼はそんなに脆弱なものだったのか?」


「ごめんなさい…」


「いや。謝るのは僕だ。ごめんな。気付かなくて。ほんと鈍感で情けない。」



そんな…



「もっと僕に甘えて欲しいよ。

君は僕に頼み事もしてこないし一人で抱え込んで何も話さない。

何も求めてくれないだろう?

あ、それは、、いろんな意味で、ね (笑)」


手で口元を覆って目を反らした



「いろんな意味って…」


「色々だよ。僕もシャワー浴びてこうかな。そう、いろんな意味、ははっ(笑)」



不自然な笑い方をして
シャワールームに入って行った




行さんはずっと私に優しいし
愛してくれている



子供を楽しみにしていた彼に

私のせいで子供を諦めてもらわなければいけないことが

彼への罪悪感として残った





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