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気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 7

2021-10-17 21:47:00 | ストーリー
beautiful world  7





「じゃあ…僕も田中さん撮っても良い?」

そう言いながら鞄からカメラを取り出そうとした



えっ!?


「駄目?(苦笑)」

「良い、ですけど…」


嬉しい!!
けど照れる…


「何年ぶりだろうなぁ〜 女性を撮るの(笑)」


ーー “女性” 


先生には私がちゃんと女性として見えているんだ… 


胸の辺りがふわふわする



「あ、じゃあ海近いし海岸に行ってみようか。」


海岸で普通に歩いてみてと言われて歩いてみる

ぎこちない動きになっちゃう!



「ふはははははっ!(笑)」

先生が豪快に笑った


「そ〜んなに緊張する〜?(笑)」

先生がカメラ越しに私を見てると思うと そりゃ緊張しますよ…



「そういや田中さんの下の名前聞いてなかったね?」


え?そっか


元生徒だとバレないよう言ってなかったんだった


でももう完全に覚えてないのはわかったから教えてもいいか…



「奈生(なお)です。」

「漢字は?」

「奈良の奈に生きるです(笑)」

「OK!奈生ちゃんね(笑)」


“奈生ちゃん”!?

名前を呼ばれて顔から火が出そうになった



カシャッ


「ふふっ(笑)」

「あっ、変な顔撮りましたね!?」

「変じゃない全然(笑)」

と言いながら連写で撮られた



「もっと良い顔撮ってくださいよぉ!」


カメラから顔を離した


「自然体の良い顔じゃない(笑) じゃあ奈生ちゃんの“良い顔”、してみて(笑)」



あらためてそう言われると…
照れる…


カシャッ


「良い表情(笑)」

「だから、不意打ちやめてくださいよ〜!」

「奈生ちゃんはコッソリ撮っただろう?(笑)」


確かに…(苦笑)


「緊張は溶けた?(笑)」


そっか

緊張してたから和ませてくれたってことなんだ…


「そうですね…(笑)」


カシャッ


「ね、今恋してるならその相手のことを 思い出してみて。」


あなたが好きだから
言えません…



「好きな人なんて… いません… 」


カシャッ 


「…… 」

先生が何か呟いたような気がした


「えっ?」


カメラを下ろし私に優しく微笑んだ


先生はずっと笑顔で私に話かけながら
私をカメラに収めてくれた




「人物撮影、得意なんですか?」

「いや全然(笑) 人物写真は彼女ぐらいかな。昔はよく撮ってたけどね(笑)」


先生の口から出た“彼女”という言葉に胸が詰まった


「へぇ… 彼女さんですか…」

「昔付き合ってた彼女ね(笑) でももっぱら街並みや自然の風景ばかり。あ、星とかも時々撮りに行くよ?」


どんな彼女だったんだろう…


「早見先生の今まで撮影した写真見てみたいなぁ〜、、なんて(笑)」

「僕の写真かぁ。うん、良いよ!(笑)」


…やった!
先生んちに行ける!


「次会う時に適当に持って来るよ(笑)」


…あれ? 持ってくる?


「ですよね(笑) 先生の家で見られるのかな〜なんて勝手に思っちゃいました(笑)」

「僕んち?」

私ったら勘違いも甚だしい



「あぁ~。確かにその方が沢山見られるのか… ならウチ来る?」


へ?
いいの!?


「ほんとに良いんですか?」

「写真の量 結構あるからねぇ。その方が良いかもね(笑)」

「ほんと嬉しいです!(笑)いつならご都合いいですか!?」

「そうだねぇ…」

先生が手帳を取り出した




何でも言ってみるもんだなぁ♪
こんなにラッキーなことが続くなんて夢みたい

「えーっと… ね。直近だと次の土曜の夕方か再来週の、」

「次の土曜で!!」


食い気味に返事をした私に先生は少し圧倒されたような表情をした

「そう、、なら土曜で(笑)」



先生の部屋に行ける!
あ~ほんと言ってみて良かった!


「田中さんは本当に写真好きなんだねぇ(笑)」


また“田中さん”呼びに戻ってる
さっきのは撮影中の限定だったんだな...(苦笑)



「そうだ、だったら僕の師匠が来月写真の個展を開くから良かったらそれも一緒に見に行ってみる?」


先生の師匠さん?

スマホで個展の案内情報を送ってくれた



あれ
この方…



「“矢野導信”って知ってる?」


えっ!!
あの有名な写真家の!?


「もちろん知ってます!!」

先生は巨匠と言われている矢野導信から少し学んだと話し始めた


きっかけは一人で撮影旅行に行った時 

先生がまだ大学生になったばかりの頃

無鉄砲にも大御所の矢野導信に声をかけたらしい



「今思うと無謀にもよく話しかけたもんだ(笑) 今なら絶対に声なんてかけられないよ(苦笑)」


若さ故の身の程知らずというか
無鉄砲さが逆に矢野導信から気に入られ

時々レクチャーを受ける仲になったと笑いながら話してくれた



先生の写真がどこか違うと感じてたのはそういうことだったのかも…




「それまではただ写真を撮ることが好きだったけど、写真の奥深さを知って世界が広がってもっと好きになったんだよ(笑)」


先生の幸せそうな微笑みに
本当に写真が好きなんだと感じる


「個展、是非ご一緒に行きたいです(笑)」

「ん(笑)」




それから鎌倉のお土産物店の通りをお互いに撮影した

先生の撮った画像を見せてもらうと


「なんで?どうして?」


同じ風景を撮影しているはずなのに
やっぱり全く違う趣きの風景になっている


別世界を映しているように印象的な映像

やっぱり先生は凄いんだと実感した



ーーー


帰りの電車は混んでいて
先生との距離が密着した


「やっぱりこの時間帯は混んでるね(苦笑)僕に掴まってて良いよ。」

先生の腕に初めて触れた…


心臓がドクドクしてるのがバレちゃいそう


先生の腕の筋肉 凄いな
柔道してるから?


電車に揺られていると

今頃になって寝不足の影響と疲れが出てきて立っているのに凄く眠い…



「眠い??」

「は…ぁ… 」


“…田中さん?”


先生の声が遠のく…






ーーーーーーーーーー

beautiful world 6

2021-10-17 12:50:00 | ストーリー
beautiful world  6





早見先生と約束をしている日曜日がとうとうやってきた!


いろんなことを考えてると頭が冴えて結局一睡もできなかった



カーテンを開くと…


ーー めっちゃ快晴




葉山さんは

“大雨にでもなればいいのに”

なんて言ったけどめっちゃ晴れてますよっ♡ 




ふと葉山さんの別れ際の悲しげな表情が頭に浮かんだ




気にしない 気にしない!

今から先生と会えるんだもの




待ち合わせの場所に着いて15分
1分毎に緊張が増していく気がする…


寝不足なはずなのに全然そんな感じがしない


腕時計を確認すると待ち合わせの時間になった

顔を上げると先生が軽快に走って現れた


わぁ… き、来た…
先生だ…!!



「田中さんこんにちは(笑) えーっと… 僕 遅れてないよね?」

先生は自分の腕時計を確認した



「こんにちは(笑) 大丈夫です、時間ピッタリです!」


うわぁ、心臓がバクバクしてきた
なんかデートの待ち合わせみたい


今日は先生と初めてのお出かけだから少し大人っぽいワンピースにしてみた


先生は朝からほんと暑いねぇ!とタオルを首にかけた




高校生の頃

学校で見かける先生はいつも首からタオルをかけるスタイルだった


なんだか懐かしいな… (笑)


私の視線に気付いたのか

「あ、つい、いつもの癖で(苦笑) 」

タオルを首から取ってしまった
そのままでも良いのに(笑)



電車に乗り込んで隣に座った先生に緊張して心臓がドクドクしてる…


「田中さんはいつもどんな写真撮ってるの?」


「えっ、あ、風景が多くて人物は撮ってないです(笑)」


先生を撮らせてもらえないかなぁ…


「人物って案外難しいからね。でも良く撮れたものはずっと眺めてしまうんです(笑)」


私も先生に撮ってもらいたい… なんて図々しいかな



鎌倉に到着し
先生の案内で神社に回ったり
土産物の通りを撮影してみた


先生はデジカメだから撮影した映像が直ぐに見られる


どうしてこんな風に撮れるの!?と驚くほど印象的な映像に撮れている



何故? どうして? 
私となにが違うんだろう…



「田中さんはフイルムだから出来上がりが楽しみだね(笑)」


あ、高原での写真!

「高原の、現像した写真見ますか?」


「お、そうだね(笑) じゃあ昼飯行こうか。そこで見せてもらおうかな(笑)」




蕎麦屋さんに入って注文し
待っている間に写真を見せた


良いね…と優しく微笑みながら呟く先生は学校で見ていた先生より優しい表情で

ドキドキしながらもつい凝視してしまう



「今まで撮った早見さんの写真、見てみたいです(笑)」


「今度持ってこようか?って… これは同じ趣味の友達ができたって事で、、いいのかな(笑)」


ーー “友達”

嬉しい...!

また一歩近づけた気がした



照れくさそうな先生に胸がキュンとしながら距離が縮まっていく幸福感に満たされた


「もちろんです!あの、質問してもいいですか?」


「うん。何かな?」


「早見…さんは どんな人が好みのタイプですか?」



それは高校生の頃からずっと気になってた質問のひとつだった



先生はキョトンとした後 微笑んだ

「はははっ(笑) 写真の質問が来ると思ってた(笑)」



あっ、なんか恥ずかしい…

いきなりこんな質問おかしかったのかな



「タイプ、ねぇ?」

腕組みして悩んでいる姿もキュンキュンして困るんですけど



「綺麗な人… かな?」



え?美人ってこと??


まさか先生が
美人が好みだなんて言うとは微塵も想像していなかった...

私は… 
お世辞にも美人とは言えない…


「そ、そうですか(苦笑)」


もう撃沈しちゃった…



「綺麗と言っても一般的に言う顔の造りが綺麗って事じゃなくて… んー。なんというか空気感?」



空気感???


「何かに打ち込んでる姿や生き生きしている人を直感的に“綺麗だな”と感じる。

また会いたい、もっと知りたいという欲求が強く湧いてきた時にはもう完全に心を奪われてる、かな。」





先生の心の内側にはそういう“想い人”がいて

その人を想い浮かべながら話してるように見えた




そうだよね…

先生にだってそんな女性がいてもおかしくない



胸が痛い…



「じゃぁ〜田中さんは?どんな男が好み?」



聞き返される事は考えてなかった


“先生が好きなんです”なんて言えないし …


「誠実で…穏やかで…爽やかで...大人で…ガッチリした人で...」



「なるほど(笑)それはイイ男だね(笑)」


他人事のように笑ってるけど先生のことです…



「は、早見さんも、そんな感じですよねっ?」


ドキドキしながら“あなたですよ”的に匂わせてみた



「僕が?いやいや(苦笑)」


小さく手を振って否定した


そんなヒーローみたいな男じゃないと先生は困ったように笑った




先生の写真を撮らせて欲しいとお願いしてみたら

先生は自分が被写体になるのは初めてだけど良いよと了承してくれた



勇気を出して良かった…!


「ありがとうございます、先生!(笑)」


「僕は先生と呼ばれるほど(写真)の腕はないよ(笑)」



つい“先生”と口走っていたことに気付いた


「が、学校の先生でもありますし…あ、もう着きそうですね!」



電車を降り
前を歩く先生の後ろ姿を撮った


肩や腕、背中まで筋肉がついているガッチリとした先生の後ろ姿は


高校の時に遠目から眺めていた姿のまま


ついて来ていない私に気付いて振り向いた瞬間にまたシャッターを切った


「あれっ!?もう撮ってるの?(笑)」

カシャ!


笑顔の先生もらった!(笑)



「もちろんです!沢山撮らせてもらいます(笑)」


「撮る時は一言言って欲しいよ(苦笑)」


先生が照れくさそうに笑った

キュン死しちゃうかも♡

本当にデートみたいで本当に幸せ…






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beautiful world 5

2021-10-12 22:04:00 | ストーリー
beautiful world  5





「先生さよならー!」

「真っ直ぐ家に帰れよー」


今日も部活指導が終わり
生徒達は自転車置き場に向かって行った


今年は団体戦で県3位 ーー

優勝候補だったため3位という結果は不本意だった

エースの主将が大会直前に怪我をし主将抜きの戦いだったが皆よく健闘したとも思っている

体育館に鍵をかけ職員室に戻り
帰り支度をしていると

まだ残っていた男性教諭の鈴木先生が一杯行きませんか?と僕に声をかけてきた

お互い独り身同士
33歳という年齢も僕と近いし体育系の部活動を受け持っていたのもあってたまに帰りに飲むことがある

「次の主将候補に悩んでましてねぇ。」

鈴木先生は陸上部の受け持ちだ


「早いですねぇ。もう今年もそういう時期ですからね。」

「歳取るのも年々早く感じます(笑)」

「全くです(笑)」


今まで鈴木先生との話はもっぱら部活動や生徒の話

「ところで、鈴木先生はご結婚の予定はないんですか?」

こういう私生活の話をしたことは殆どない


全くないですねと笑った

「この仕事で女性との出会いはそうそう無いですもんねぇ(笑)」と答えた時

ふと、田中さんの顔が浮かんだ

そういや昨日知り合ったばかりだったな


「早見先生は?」

「僕も予定は全く…(笑) 女性とどう付き合ってたかもすっかり忘れてしまいましたよ(苦笑)」

「僕も似たようなもんです(苦笑) できれば年上の彼女が欲しいですが…」

鈴木先生は僕とは違って細身の高身長
生徒にも人気がある教師だ

成人女性から見ても魅力のある人だと思うんだが…


「一緒にいて落ち着く方で40代後半とか50代の女性が良いですね。いつも子供達ばかり見てるからでしょうかね(苦笑)」

へぇ…
随分と年上が理想なのか


「それは… 生徒の親世代ですね(笑)」

そうなんですよと残念そうに笑った


鈴木先生と店を出てまた明日と挨拶を交わし家路に向かった



“出会い”  “彼女” … か



昨日…

高原で田中さんが手にしていたライカ(カメラ)に釘付けになった

あのアンティークなモデルの現物を見たのは初めてだったからだ 

それで思わず声をかけてしまったが
あんな若い女の子によくまぁ声をかけたもんだ(苦笑)

青春を謳歌している生徒達みたいに田中さんの目はキラッキラしていたから本当にカメラが好きなんだなと思った



ーーー


帰宅してスケジュールを確認し
田中さんにメールを送ったら直ぐに返事が返ってきた

まるで僕の連絡を待ってたかのような嬉しそうな返事に

“ああ、あれは社交辞令じゃなかったんだ” と安堵した


それに撮った写真の出来は僕も楽しみだ


たった一度

ほんの半時間ほど一緒にいただけのただのおっさんの僕にえらく親しみを感じてくれたもんだな

これも縁なのかな



ーーー


それから時々 田中さんからメールが来るようになった

僕が高校教師をしていると言うと
体育教師っぽいと返ってきた

僕は一応数学を教えているが
このガタイからきっと体育教師だと思ったのだろう

小学一年から柔道を始めて
大学に入っても柔道を続けていた

大会で優勝したことも何度かあるけれど柔道を仕事にできるほどでもなく

教員免許を取得して教師になり
その柔道経験を生かし柔道部顧問になった

今でも休日には道場に通っている

思い返すと僕の人生はずっと柔道に携わってきたな

そろそろ結婚も考える年齢だけど
結婚がしたいという思いはない

結局 柔道や写真があるから独り身でもそれなりにリア充だし友人もみんな独身者ばかりで焦りもない

でも中には彼女がいる奴もいて
お互い旅行が趣味だからかよく旅行に行っているようだ

同じ趣味って良いよなぁ…



彼女と一緒にいろんな所に行って
綺麗な景色見て一緒に写真撮って
美味いもの食って

一緒に感動して…


昔の彼女を思い出した

あの頃は楽しかったな ーー



バス停でバスを待っているとスマホに受信が鳴った

田中さんからだった


スマホのカメラで撮った
雨上がりの朝の町の風景の画像が添付してあった


“早見さん こんばんは。昨日まで雨が降ってましたが今日は晴れましたね!”

この太陽の光が水滴に反射した煌きが良い感じ

スマホの撮影も上手だと返すと
スマホのカメラ性能が良いだけです(笑)と返ってきた


“早見さんに早く写真見てもらいたいです!”

きっと写真の出来が良かったんだろうな(笑)

“そうですか。僕も見てみたいですね。”

“鎌倉への撮影も待ち遠しいです!それと。気になることがあるんですけど。”

ん?

“何でしょう?”

しばらく返信が来なかった

なんだろう…


帰宅して風呂から出たら返信が来ていた

付き合っている人はいるのかと聞いてきた

何故そんなことが知りたいのか
意図はわからんが“いない”と答えると良かったと返ってきた

良かった?
あ、そうか

彼女がいたら二人で撮影をしに行くのは気が引けるからだろうか

律儀なんだな(笑)


最後に付き合った舞とは5年前に別れた

海外で仕事をすることになったと 舞は言った

遠距離恋愛という選択肢はないと言った


僕は“わかった”とだけ応え
あっけなく僕達の関係は終わった


それが舞の夢だったし
その夢に向かって歩む舞の想いは尊重したかった
 

“ごめんね。陽太 ”

あの時の舞の表情を
今でも時々思い出す


今も元気で頑張ってるだろうか…



また…
あの時のように

また誰かを愛せたら

今度は一緒に歩んで行きたい ーー







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beautiful world 4

2021-09-19 21:05:00 | ストーリー
beautiful world  4





それから2日後

出勤してきた葉山さんは風邪を引いている様子はなく私は内心ホッとした

風邪を引いてたとしたらきっと私のせいだっただろうから(苦笑)


でも…
なんか元気なかったな


今日はいつもみたいに厳しく言われなかった

会社から駅に着いて電車に乗り込んだ


座ってスマホを開いたけれど
今日は先生からメールは来ていなかった


先生とのメールのやり取りを眺めた



早く日曜が来ないかなぁ…


「はぁ…先生… 」


「センセ?」



ハッとして見上げると葉山さんが目の前に立っていた


周りを見渡すと沢山空席がある

なんでわざわざ私の前に立ってるの!?


「なっ、なんです!? 空いてる座席に座らないんですか?」


というか

同じ時間の電車に乗った事に気づかなかった



「降りるの次の駅だし。で、なんのセンセイ?」


「葉山さんには関係ないですっ。」


スマホをバッグに入れた


「その“センセイ”のことが好きなのか?」



言い当てられて顔が急に熱くなった

「こ、個人的なことはノーコメントです。」


「そういや傘。」


あ、借りてた傘は自分のロッカーの引き出しに入れたままでまだ返してなかった上にお礼も言えてなかったんだった!


「傘、貸していただき ありがとうございます。今、会社のロッカーに入れてありますので明日お返しします。」


「飯。」


「は?」


「礼の代わりに飯奢ってよ。」


奢るのは構わないけど葉山さんと二人きりだなんて罰ゲーム?


「…わかりました。」


電車が減速し葉山さんが降りる駅に到着した


「今から。」


「は?今から!?」


葉山さんが駅で降りかけて
ついてこいと言うように振り返ったから渋々一緒に電車を降りた


いつもなら降りない駅
見慣れない風景 ーー



「どこ行くんです?何が食べたいんですか?」


「美味いラーメン屋があるから。」

奢るのラーメンでいいんだ?





店に入るともうカウンター席しか空きがなかった


カウンター席に座って注文を待つ間 葉山さんはラーメンができるのを集中して見ている


凄く真剣に見ているもんだからラーメンの食べ歩きとか研究とかしてるんですか?と冗談で言ったら“なぜわかった!?”とばかりにギョッとして眉間にシワを寄せ私の方を見た



目の圧っ!!
恐いから!!


でもこの人
嘘つけないんだろうね(笑)


ラーメンを食べて約束通り私が支払いをして店を出た


ラーメン研究家?の葉山さんが言ってた通り本当に美味しくて内心また来ようと思いながら


「じゃあ、ここで。」と帰ろうとした

「ご馳走さま。珈琲奢るし。あっちな。」


駅とは反対方向を指差した


は?もう帰れると思ったのに

それになんでいつもそんなに強引なのよぉ…


普通は“行かない?”とか尋ねない?と内心イラッとした


「私、もう帰りますから。」


「あの看板の店。近いだろ。」


違う!距離の問題じゃないっ!

腕時計を見るとまだ7時
遅い時間じゃないけど…


これで最後最後…と渋々ついていった


雰囲気の良いカフェでお客さんは女子とカップルばかり


「なんでこの店に誘ってくれたんですか?」


無言で返事を考えてる

考えること?



「…前を通るだけで入れなかったから。」


ん?
“入れなかった“?


「男一人で来る店じゃない。」



え? あぁ〜
女子ばかりで入りづらかったってことね

「意外… 」

少しムッとした顔をした



「すみません…(苦笑)」

意外にシャイ?気が小さい?
会社ではそんな素振りはないけど


しかもあんなに女性社員に人気あるのに

葉山さんファンが聞いたらギャップに萌えるんじゃない?(笑)


私は全然萌えないけどねっ!



「彼女と来ればいいじゃないですか。」

いないだろうけど(笑)



「居れば君とは来ない。」

そりゃそうだ
「ふふふっ(笑)」



オーダーを取りに来た若い女の子に葉山さんは

「ブレンドとハニーワッフル。」と伝えたことに驚いた


「私はブレンドで。」


さっきボリュームのあるラーメンを食べて今度は甘いワッフル?


しかも辛口の葉山さんが甘いワッフルって…


「くくくっ(笑)」

笑いを抑えたけど堪らなくなった


「なんだよ。」

表情を変えず水を飲んだ


「よく食べるんですね(笑) しかもワッフル…ふふっ(笑)」


「ここはワッフルが美味いらしいんだよっ。」


またムッとした

この人のこの不機嫌な表情を今まで恐いなぁと思ってたけど

こういう一面を知ったら不思議と全然恐くなくなった



「今度は葉山さんファンと来てあげれば良いじゃないですか?」


「ファンって… ?」


え?自分にファンがいることに気づいてない?


「いや、いいです(笑)」


「‥... 」


真顔で私の顔をずっと眺めている



「なんです?あまり見ないでくださいよっ」


「その“センセイ”のことが好きなのか?」


センセイ?
まだそれ聞く!?


「葉山さんは好きな人いないんですか?」


「だから。センセイが好きなのかって。」


もう!しつこいな!

話を変えようとしたけれど答えないとそればっかり聞いてきそう


「好きですよっ。それがなにか?」


答えましたよっ
これで良いですか?



「そうか。」

少し不機嫌そうに歌を組んで窓の外に視線を移した


「何度も聞いてきてそれだけですか?」


ほんと何考えてるのかわかんない

オーダーしたコーヒーとワッフルが運ばれてきた



「わ、美味しそう… 」

と私が呟いたからか



「すみません、皿とフォークください。」
と葉山さんは店員さんに声をかけた



自分の分はほんの少しだけ残し殆どは私にと差し出した


「俺は味がわかればそれで良い。」


結局 葉山さんはあまり語らず店を出た



「駅まで送る。」


「いいですよ、道覚えてますから(笑)」


そういったのに葉山さんは駅に向かって歩きだした


相変わらず人の話を聞かないな...



すると
突然腕を引き寄せられ驚いた



背後から自転車が走ってきたことに気づかなかった



「あ、ありがとう、ございます… 」


あぁ、びっくりした!

というか腕を握るこの手を離して欲しいんですけど、、


「…あのさ、」

握る手に力がこもった



「俺、田中さんには…」

「はい…?」

掴んでいた手がやっと離れた



「…いや、すまない…」


それから駅までずっと黙ったままでなんとなく居心地が悪かった

言いかけてやめられると気になる



駅に着くと

「また、明日。」といつもの様子で葉山さんは背を向け歩きだした


「なんだったの…?」




ーーー



金曜の夜

一週間の業務を終えた




日曜には早見先生と会える

それだけで私の心はウキウキしていた

仕事が終わってデスクの片付けを終えロッカーから荷物を取り出した

そうだ!今日こそ葉山さんの傘を返さなくちゃ


傘を持って部署に戻ると葉山さんも帰る所だった


「これ、長くお預かりしていてすみません。ありがとうございました(笑)」


「いや。」

傘を受け取りその傘を見つめた


「...葉山さん?」


「帰る。」

傘を鞄にしまった



今一瞬何か考えてた

いつもの事だけどほんと思っていることを言葉にしない人だな


葉山さんはやっぱり私の隣に座り
ずっと無口だった


次は葉山さんが降りる駅か...



「明後日の日曜だったよな… その、、“センセイ”と会うの。」


なんで知って…
あ、前にスマホ見られたんだった



「よく覚えてましたね(苦笑)」


「大雨にでもなればいいのに。」


「なんでですかっ」

ほんと意地悪!



「じゃあ、な。」


私と視線を合わすこともなく電車を降りた




さっきの
降りる時の一瞬の表情…


なんであんなに悲しそうだったんだろう



“大雨にでもなればいいのに”

あんなこと言われて悲しくなるのは私の方なのにーー





ーーーーーーーーーー


beautiful world 3

2021-08-03 02:21:00 | ストーリー
beautiful world  3






ーー 月曜日の夜


あ、先生からメール…!!


“こんばんは 早見です。田中さん今日も一日仕事お疲れ様です。ところで昨日話しました写真を撮りに行く日にちの件なんですが。”


教師としてじゃない早見陽太としてのプライベートメール


あぁ
貴重です...


来週の日曜はどうかと提案してくれた
もちろん私の返事はたとえ予定が入っていたとしても

“その日空いています!是非お願い致します!” 

そう返信するよね(笑)



はぁ…
先生とデート…♡


違う!
先生から見たらデートじゃない


でもつい先生とデートをしている想像をしてしまう...


私のこと好きになってくれないかなぁ…



ーーー


今日が火曜日だからまだ10日以上もある

いつもなら一ヶ月くらいあっという間に過ぎちゃうのに

とてつもなく一日一日が長く感じる



もう私は高校生じゃないし社会人で “大人” 

恋人にだってなれるかもしれない

私が25ってことは先生は34



あ…
そもそも先生はまだ独身なのかな

あの時は舞い上がってて確認する余裕なんてなかった

彼女くらいいてもおかしくない

だって先生は昔と変わらず素敵で誠実で優しかったもの…



「はぁ… 」


でも撮影に付き合ってくれるんだからパートナーはきっと居ないよね?

うん、きっといない!



視線を感じて顔を上げると
向かいの席の葉山さんと目が合った


「ねぇ。君、やる気あんの?」


「すみません… 」



いつもこの人恐いんだよなぁ

葉山さんは2歳年上の男性
いつも無表情で笑わない


他の社員さんはそんな葉山さんのことを
クールなイケメンだとか言ってたけど

イケメン?
私は全くそうは思わない

クールというより
鉄仮面って感じじゃない?




一日の業務が終わり会社を出た


帰りに服でも見て帰ろうかな♪
先生とのデート用として♡


スマホに先生からのメールが来ていないかチェックした

やっぱり来てないなぁ

だよねぇ…


一応  “知り合ったばかり”  
だもんね…


「はぁ… 」



「お疲れ。」

背後から声がして振り返ると葉山さんだった


わっ!
葉山さんだ


「お疲れさまです、、」


私のことほんとは嫌いだろうに
なんで声をかけてくるのかなぁ…



「あのさぁ。」


「はっ、はいっ!?」


「そんな萎縮されるようなこと、俺してる?」

ムッとした表情をした


「そんなことは、、」

と言ったものの

常にそんなイヤ〜な顔をされると誰でも萎縮するよ


このまま一緒に駅まで歩くのヤダだなぁ…


「仕事中に上の空はやめてよね。ミスでもされたらこっちが迷惑なんだ。」


苦手だけど言ってることは正論だから反論できない


「すみません、以後気をつけます。」


「… なんかさぁ。」


「はい!?」


まだ何か言われる!?

「田中さん、今日ずっと変だったけど、」


え?

「なにがですか、、」


「時々ボーッと考え事してたし、」


わかってますってば!
仕事に集中しろって事ですよね!


「彼氏でもできたの?」


「は!?」


まさかプライベートな事を聞かれるとは思わなかったから驚いた



「できてませんけどっ!」


「…ふぅん。」

興味なさそうな返事をした


何でそんなこと聞くかな!

というか
葉山さんこそ仕事中ずっと私を監視してたんですか?


駅で同じ電車に乗り込んだ



ちょっ、ちょっと!!

他にも沢山席が空いてるのになんで真横に座るの!?

しかもガッツリ腕当たっちゃってるし!


不自然にならないようほんの少し離れた


バッグに入れていたスマホにメールが入って見てみると

“早見先生”の表示だった


先生からだ♡♡


“来週の日曜なんですけど、鎌倉に行ってみませんか?お気に入りの場所があるんです。”


もう先生となら何処でも良いですよ〜♡

「ふふっ♡」


“もちろんかまいません!鎌倉良いですね!楽しみです!”   と、送信!


コホン!と咳払いが聞こえた

いつもの不機嫌そうな表情で葉山さんが私のスマホに視線を落としていた

私は慌ててスマホの画面を隠した


「な、なんですかっ」


「男から?」



人のスマホ勝手に覗いてなんでそんな顔されなきゃならないのっ

しかも仕事外ですけど!!


「勝手に見ないでくださいよっ」

葉山さんは不機嫌そうに顔を背けた



ーー ん?

車窓に雨粒が当たっていることに気づいた


えっ、雨!?

朝の天気予報では晴れだったよね?
傘持ってないよ

「はぁ…」

次第に雨が強くなっていく


葉山さんは鞄から紺色の折りたたみ傘を取り出した


今日はずっと晴れの予報だったのに
なんでこの人 傘持ってるの!?


いつも傘持ち歩いてるの?



電車が駅に着いた瞬間葉山さんは立ち上がり手に持った傘を私の膝に置いた


「使え。」

と一言だけ言って足早に電車を降りて行った


へ?
なんで?


私が傘を持って来なかった事まで見透かされたってこと?

なんで自分の傘を貸してくれたの?
まさかいつも傘2本持ち歩いてるとか… それは流石にないよね



自宅近くの駅で電車を降り
葉山さんの傘を開いた



もしかして別に葉山さんに嫌われてなかったのかな

だって嫌いな人に自分用の傘を貸したりしないもんね


でも あの不機嫌そうな表情は…


うーん…
本当によくわからない人だ

でもちゃんとお礼は言わないと




翌日 葉山さんに傘を返そうと思っていたら
葉山さんはまだ出勤していなかった


いつも私より早く出社する葉山さんがまだだなんて珍しい


「葉山くん、なんか体調崩して休みらしいよ」


えっ…

まさか私が傘を私が取っちゃったせいとか!?

いやいや、無理矢理 傘を奪ったとかじゃないけど

私のせい?





ーーーーーーーーーー