母のダンスパートナーである紳士は、お嬢様によると、明らかに、ふらつきのあった日から元気がなくなったという。
社交ダンス教室帰宅後の、入浴、ビールを飲みながらの夕食。というルーティンをせず、ふらつきのあった、その日はすぐに寝てしまった。
その後、数時間眠ると紳士は起き出し、一人台所で、お湯を沸かしていたという。
お嬢様が声をかけると、お腹がすいたので、ラーメンを作ろうとしたとのこと。
お嬢様は夕飯があると食事の用意をした。
紳士は、遅い夕飯を食べながら、表情はとても硬かったという。
『もう年だ、80歳超えて社交ダンスなんて、無理かなぁ?』
寂しそうに紳士は、お嬢様に問いかけた。お嬢様は即座に否定したが、無理はすることはないと伝えた。
そして翌週の水曜日の午後3時。
30分くらい前から元気に教室に入ってくる紳士の姿は、その日社交ダンス教室にはなかった。
代わりに、お嬢様が教室の隅に静かに訪れていた。