お昼のツネ師匠の送別会及び年度末の慰労会はワイワイ楽しく中華料理を堪能した。社長も上機嫌で小林旭を数曲歌い、お偉いさんも、自らの贔屓にしているプロ野球チームの応援歌を歌った。
一定の盛り上がりを見せ、予定の1時間を20 分程度オーバーした時だった。社長はツネ師匠に話しを振った。
『ツネ、一曲いけ。』
ツネ師匠は断ったが、社長は、この前歌った あれ聞かせてくれよ、とおねだりし、一曲だけならとマイクを握った。
彼は静かに美空ひばりの愛燦燦を歌った。
とても静かな歌い方でサビの部分も抑揚はつけず、最初から終わりまで一定のトーンで歌い上げた。
派手さを好まない彼らしい歌い方だった。
ツネ師匠が歌い終わると大きな拍手がおこった。
そして社長が言った。
『良いねツネ、お前の歌良いよ。』
そしてひと呼吸おいて社長は続けて言った。
『皆んな盛り上がっているところ悪いが、予定を30分オーバーしていて、店員さんに怒られちゃうんで、今日はとりあえずお開き。又近いうちにやろうな。では解散。ツネは話しあるから残れ。』
私達はお腹いっぱいで、すっかりリラックスムードでゾロゾロと会社に向かった。
そんな中、社長とツネ師匠は最後の別れを惜しむかのように話していた。ツネ師匠の瞳に光るものが見えた。