『鬼になりたかった男2』
<設定> 大野 智 火付盗賊改の同心。平蔵の部下。二十歳過ぎくらい。母と二人暮らしで剣の腕は一流。年の近い櫻井と組まされている。翔とは肉体関係もある。 櫻井 翔 火付盗賊改の同心。大野の同僚で一つ年下。潤とは幼馴染で、遊び仲間でもあった。父は与力で平蔵の腹心。なんだかんだいってお坊ちゃん。櫻井家の跡取り息子。 相葉 雅紀 潤の幼馴染の剣術仲間で遊び仲間。翔より年下で潤より年上。面倒見がよくて潤のことをいろいろ心配している。父は火付盗賊改の与力で平蔵の部下。 二宮の和也 元盗人で今は平蔵の密偵(犬)男。ふらふらと遊び歩いている潤のことが心配で、つい面倒をみてしまう。犬を飼っていて、その犬に会いにきた潤を自分の家に連れ込んではご褒美を強請る。潤の犬にしてくれと懇願中。 長谷川 潤 火付盗賊改方長官・長谷川平蔵の長男。父を尊敬しており自慢にも思っているが、その分、重責に押しつぶされそうになっている。父のようになりたいと思いながら、父のようにはなれないという屈折した思いを抱えており、鬱憤を夜遊びで晴らしていた。犬好きで自宅では飼えない分、和也の犬に会いに頻繁に足を運ぶ。和也とは微妙な関係。
<立読み>
その日、翔が火付盗賊改に配属されてからはじめての大きな捕り物があった。 いつもとは比べ物にならない数の同心が集められる。 火付盗賊改の仕事は交代制だ。 全ての同心が一度に集まることはない。 だが、その日はほとんどの同心が取り締まりのために集められているように見えた。 翔は初めての大捕り物に始まる前から気持ちが昂ぶる。 きょろきょろと辺りを見回した。 そして、一人の男に目を止める。 場違いな町人がいた。 その場には同心だけではなく、十手持ちもいる。 十手持ちは町人だ。 この場には侍と町人が入り乱れている。 だが男は十手持ちには見えなかった。 一人だけ、異質さを感じる。 翔は年嵩の先輩同心に声をかけた。 「あの男、なんなんですか?」 男の正体を尋ねる。 男は小柄で目つきが鋭かった。 堅気には見えない。 「ああ、あれは犬だ」 先輩同心は答えた。 「犬?」 その言葉が密偵をさすことは翔も知っている。 捕り物には内通者が不可欠だ。 盗賊に潜入し、情報を流し、手引きをする。 鬼平と呼ばれる長官が何人も犬を飼っていることは翔も知っていた。 だが見たのは初めてだ。 「長谷川様の犬だから顔は覚えていた方がいい」 先輩同心は親切に教えてくれる。 間違って斬り捨てたら大変だ。 翔は男の顔を覚える。 「名前はなんて言うんです?」 ついでに尋ねた。 「名前か?」 先輩同心は首を傾げる。 知らないようだ。 そもそも犬になんて興味がないのだろう。 だが、知っていそうな相手を呼び止めてくれた。 先輩同心は翔に親切にしてくれる。 その理由が父親にあること翔は理解していた。 翔の父は与力で鬼平の腹心でもある。 いずれ、翔も出世して偉くなるだろう。 それを知っているから、同僚はたいてい親切だ。 「なあ。あの犬の名前、知っているか?」 問われた同心は男の顔を見る。 「確か和也といったな。二宮宿を根城にしていたので、二宮の和也と名乗っていたはずだ」 教えてくれた。 「二宮の和也か」 翔はそれも覚えておくことにする。 自分と同じくらいかもしかしたら年下かもしれない和也のことが少しだけ気になった。 だがそんなことは捕り物が始まれば忘れてしまう。 その日の捕り物は身内から死傷者が出るくらい大掛かりなものだった。
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『不運な探偵』 <設定>
大野 智 世界一不運な探偵。探偵小説専門の変な本屋の二階の探偵事務所で探偵をしている。何故かついていない。 櫻井 翔 警視庁のエリート管理官。大野のことを気に入って、何かとちょっかいを出してくる。たまに本屋に通っているが、常連というほどの頻度ではないし、他の常連客とは交流がない。 相葉 雅紀 一階にある本屋の常連で探偵マニア。たまに大野の探偵業を手伝うことがあるが、普段はシフト制の仕事をしている社会人。 二宮 和也 一階にある本屋の常連のサラリーマン。相葉同様、手伝いにかり出される時がある。実は松本と付き合っていて、本屋に通うのも松本に会うため。 松本 潤 一階にある本屋の常連で探偵小説マニア。二宮と同じ会社に勤めるサラリーマン。でも同じ会社であることも二宮と付き合っていることも本屋では隠している。 オーナー 本屋の店主で探偵マニア。店はただの趣味。
<立読み> 世の中にはツイている人間とツイていない人間がいる。 自分が圧倒的に後者であることを大野は自覚していた。 とにかく、運がない。 どのくらい運がないかというと、たかが浮気調査で死にかけるくらいにだ。 今まさに、大野は崖から落ちかけていた。 突き落とされたとかいうわけではない。 自分で足を踏み外した。 落ちる途中、小さな岩のでっぱりに掴まる。 足を掛けられる窪みも見つけた。 必死に岩にしがみつく。 「もしもーし」 上から、暢気な声が聞こえた。 大野は上を見る。 男が覗き込んでいた。 どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。 「生きている?」 声の主はそう聞いた。 「死にかけている」 大野は答える。 今はまだ生きているが、そう持たないだろう。 体力に限界が来ることはわかりきっていた。 「もう少し、耐えられる?」 男は尋ねる。 「少しなら」 大野は頷いた。 「すぐ戻る」 男はそう言うと、顔を引っ込める。 走り去る足音が聞こえた。 |
『同期のサクラ3』
<設定>
大野 智 入社10年目のサラリーマン。二浪して大学に入り、1年留年しているので36歳。総務部。櫻井と付き合っている。基本的に面倒くさがり。 櫻井 翔 大野の同期のサラリーマン。大学に入学後、直ぐに休学して2年ほど海外留学していたため、みんなより年上の35歳。企画部。大野と恋愛中。意外と重い。 相葉 雅紀 大野と同期のサラリーマン。一浪しているので34歳。同期会の幹事。営業部。人付き合いがいい社交的な性格。 二宮 和也 大野と同期のサラリーマン。33歳。都内の営業所勤務。離婚歴のあるバツ1。松本に期間限定で恋人お試し期間を頼んでいる。 松本 潤 大野と同期のサラリーマン。33歳。経理部。入社当時、二宮のことを好きだったが結婚すること知り連絡を断つ。一月だけお試しで付き合って欲しいと頼まれて、ケリをつけるつもりでOKする。
<立読み>
大野と櫻井は順調に付き合いを続けていた。 時間の許す限り、櫻井は大野に会いに行く。 週末はもちろん、平日でも時間が合えば大野の家を訪ねた。 今日も仕事が終わった時間を見て、行くことに決める。 早い時間ではないが、話をするくらいは出来るだろう。 大野の家は会社からそんなに遠くなかった。 とっくに家に帰っているだろう。 ピンポーン。 櫻井はチャイムを鳴らした。 「はーい」 中から返事が聞こえる。 相手も確かめず、ドアは開いた。 大野が顔を出す。 「おかえり」 そう言った。 「ただいま」 櫻井は微笑む。 二人が付き合うようになって、一月近く経っていた。 一緒に過ごすのがすでに当たり前になっている。 大野はいつからか櫻井を『おかえり』と出迎えるようになった。 櫻井はそのたびに幸せな気持ちになる。 (結婚しよう) 心の中で決意した。 もちろん、実際に籍が入れられるわけではない。 日本ではまだ同性婚は認められていなかった。 だが、一緒に暮らすのは可能だろう。 密かに二人で暮らせる部屋を櫻井は探していた。 見つかったら、同棲を切り出そうと思っている。 「夕飯、食べた?」 すでに部屋着に着替えて寛いでいた大野は櫻井に尋ねた。 「いや、まだ」 櫻井は答える。 食事をするより、大野の顔を見る方を優先した。 会社からどこにも寄らずに真っ直ぐ来る。 「簡単なものなら作れるよ」 大野はそう言って、キッチンに立った。 櫻井のご飯を作ろうとする。 その姿に、櫻井は目を細めた。 胸が熱くなる。 ふらふらと大野に近づいた。 後ろからその身体を抱きしめる。 「!?」 大野は驚いた。 ビクッと身体を震わせる。 「結婚しよう」 その耳元に櫻井は囁いた。 「は?」 大野は首を傾げる。 櫻井を振り返った。 聞き間違えたのかと思う。 「結婚しよう」 櫻井はもう一度、はっきりと口にした。 「日本では同性は結婚できないだろ?」 大野は不思議そうに尋ねる。 「だから事実婚でお願いしたいです」 櫻井は頭を下げた。
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