全国で進むアリーナ建設ラッシュ 背景に見える「音楽×スポーツ」の業界タッグ
●各地で相次ぐアリーナ開業
ここ数年、東京近郊では大規模なライブ会場が増えている。たとえば、2020年には約1万5000人収容の「有明アリーナ」、約1万2000人収容の「ぴあアリーナMM」、約8000人収容の「東京ガーデンシアター」がそれぞれオープンした。また、2023年9月には横浜・みなとみらいに2万人収容の「Kアリーナ」がオープンした。
特に世界最大級の音楽特化型アリーナである「Kアリーナ」は、音にこだわった空間づくりや音響設備が評判を集めている。
2024年以降も各地でアリーナがオープンする。
4月には神奈川県横浜市に「横浜BUNTAI」が開館した。「横浜文化体育館」の後継として整備が進められていた地上3階建て・約5000人収容の施設で、4月6日・7日にはゆずのライブ「YUZU LIVE 2024 AGAIN AGAIN in 横浜BUNTAI」がこけら落とし公演として開催された。
また、今年5月29日には千葉県船橋市にて「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」のお披露目イベントが行われた。三井不動産とミクシィがタッグを組んで建設を進めてきた大型多目的アリーナで、収容人数は約1万人。7月6日・7日に行われるMr.Childrenのツアー「Mr.Children tour 2024 miss you arena tour」千葉公演がこけら落としとなる。
2025年秋には東京・お台場に「トヨタアリーナ東京」が開業する見通しだ。かつてZepp Tokyoやヴィーナスフォートなどを擁する複合型施設「パレットタウン」があったエリアで、想定収容人数は約1万人となっている。
川崎市の京急川崎駅隣接エリアでは、2028年開業に向け「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」の建設が進む。DeNAと京浜急行電鉄が進める1万5千人収容のアリーナを軸とした複合施設だ。
首都圏以外でも2025年春に神戸に1万人収容の「ジーライオンアリーナ神戸」、2025年夏には名古屋に1万7千人収容の「IGアリーナ」が開業を控える。
なぜここまでアリーナ建設ラッシュとなっているのか。その背景の一つにあるのが男子プロバスケットボールBリーグの「アリーナ構想」だ。
これらのアリーナの多くは、各地域のプロバスケットボールチームのホームアリーナとして使用される。「ららアリーナ東京ベイ」は千葉県船橋市に本拠地を置くバスケットボール男子Bリーグの「千葉ジェッツふなばし」のホームアリーナとして使用され、「横浜BUNTAI」では同じく横浜市に拠点を置く「横浜ビー・コルセアーズ」のホームゲームが開催される。
「トヨタアリーナ東京」は「アルバルク東京」、「ジーライオンアリーナ神戸」は「神戸ストークス」、「IGアリーナ」は「名古屋ダイヤモンドドルフィンズ」の、そして川崎駅近くのの新アリーナは「川崎ブレイブサンダース」の本拠地となる。
2026年には新リーグ「Bプレミア」がスタートし、充実したアリーナ施設が参入の審査基準に求められる。こうした状況の中、ミクシィやDeNAなど各クラブの運営会社がソフト(クラブ)とハード(アリーナ)を一体運営するアリーナビジネスに乗り出していることが、アリーナ建設ラッシュの背景にある。
●スポーツとライブ・エンタテインメントはどのようにタッグを組んだのか
スポーツ業界とライブ・エンタテインメント業界が手を取り合う動きを見せているのもポイントだ。これらのアリーナは、計画段階からライブやコンサート会場として使用されることが念頭に置かれている。
かつてはそうではなかった。昭和や平成の時代に各地に建設された「体育館」は、そもそも音楽イベントに用いられる想定で設計されていないものも多かった。たとえば床にコンクリートが敷き詰められてないために搬入のためのトラックが入れなかったり、動線が確保されていなかったり、照明を吊るす荷重が想定されていないなど、コンサートを開催するには不適切な施設が計画されることも少なくなかったという。
また、同じアリーナ施設を利用する関係でありながら、スポーツ団体とコンサートイベンターなどがスケジュール調整などの協議を行うこともほとんどなかった。
こうした状況に変化をもたらしたのが、2019年、コンサートプロモーターズ協会(ACPC)と日本トップリーグ連携機構(JTL)によって新団体「一般社団法人 Entertainment Committee for STADIUM・ARENA(ECSA/ エクサ)」が設立されたことだった。
団体の目的の一つは、スタジアムやアリーナの利用と運営に関して、ライブエンタテインメント業界とスポーツ業界がお互いの情報やノウハウを共有すること。音楽とスポーツの両方にとって理想的なスタジアムやアリーナを建設するべく連携し、プロジェクトに最初の企画構想段階から関わるような活動をしている。単にハコモノを作って終わりではなく、そこに持続的なコンテンツやコミュニティを生み出すことで、スタジアムやアリーナを中心とした街作りにも繋げていく狙いだ。
2010年代半ばから、長らくライブ・エンタテインメント業界では会場不足が問題視されてきた。一方でスポーツ業界においてはスタジアムやアリーナの有効利用が課題となっていた。双方の課題を解決すべくこうした試みが結実したのが昨今の大規模会場の増加とも言えるだろう。
●都心の中規模ホール充実が今後の課題
とはいえ、会場不足が完全に解消されたというわけでもない。昨今では東京都心における2000人〜3000人規模のホールが不足しているとの声もある。
前述のとおり2023年には中野サンプラザが閉館。日比谷野外大音楽堂は2025年秋をもって再整備のため使用休止となる。こうしたネームバリューのある会場はアーティストがライブハウス規模からアリーナ規模へとステップアップしていく上での“目標”として位置づけられることも多い。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)やNHKホール、TOKYO DOME CITY HALLなど2000〜3000人規模の有名ホールも存在しているが、使用するための競争率が高くなるだろうことが見込まれる。
一方で2020年には3000人規模の「Zepp Haneda(TOKYO)」が羽田に、2023年には1500人規模の「Zepp Shinjuku (TOKYO)」が新宿歌舞伎町にオープンするなど、ソニー・ミュージックエンタテインメントのグループ会社である「Zeppホールネットワーク」が意欲的にこうした中規模のライブホールを展開している。
また、先日にはバンダイナムコホールディングスが東京都渋谷区宇田川町にキャパ2000人規模の新たなコンサートホールを建設することを発表した。2026年春の開業を予定しているという。
ぴあ総研(※1)の発表によると、2023年のライブ・エンタテインメント市場は過去最高の6408億円(推計)となっている。コロナ禍の打撃を乗り越え着実に回復を果たしてきた形だ。今後のさらなる成長に関しては、やはり会場のあり方がキーになる。
アリーナクラスの大規模会場だけでなく、アーティストがステップアップしていくためのライブハウスや中規模のホールの充実にも期待したい。
※1:ぴあ総研,ライブ・エンタテインメント市場は力強く回復。2023年予測値は前水準より一段の上振れ濃厚/ ぴあ総研が2022年確定値公表、及び将来予測値を更新,https://corporate.pia.jp/news/detailliveenta20231222.html