Mac miniのある生活

連載小説:タイトル未定 第三話(語り:中道 真希)

【第一話は、こちらへ】

他でもない由実さんに誘われたんだし、断ると角も立つしと思って、行くと返事をした合コン。
メンバーは、由実さんと、由実さんの彼氏、そしてその友達に、わたしの4人。
正直、ちょっと、後悔していた。
由実さんは話も面白いし、好きな人。
でも、彼氏の悠一さんはあまり好きじゃない。
好きじゃないというより、苦手、ああいうタイプは、悪いというのじゃなくて。
多分、誕生日には、前々から欲しいと思っていたものをプレゼントしてくれるだろうし、他の記念日にも欠かさず、誰よりも早くメールをくれると思う。
ちょっと拗ねたフリをすれば機嫌を取ってくれて、休みの日には、色々なところに連れて行ってくれるのに違いない。
わたしにだって、そうされれば嬉しいという気持ちはある。
でも、やっぱり何か苦手。落ち着かない。
もしかして、同じようなタイプの人が来たらどうしよう。
会話に一瞬の澱みもなく、わたしからメールアドレスを聞きだして、解散したらすぐに「会えてうれしかった(ニッコリ絵文字)」なんてメールをよこしたり。
要するに、ちやほやされるのは居心地が悪い。
その場から逃げ出したくなる。
なんで、こんなに素直じゃないのかな。わたし。
そんな風に思いながら、でも遅れちゃ悪いと思って律儀に早く家を出たおかげで、随分一人で待っていたし、あの日のわたしはちょっとテンションが下がっていた。
彼の、わたしに対する第一印象は「暗くてノリの悪そうな女」とか、そんなところだったはず。
普通にしていても地味な見た目なんだから。

細く柔らかそうなストレートヘアに、ふわっとボリュームを持たせた髪型。
インテリっぽいセルロイドのメガネ。
「頑張ってお洒落した感」まで行き過ぎず、グダグダに落ちる一歩手前で踏みとどまっている服のセンス。
もっと普通の女の子だったら、「タダの人」としか感じないかも。
実際、わたしもそう思ったんだけど、でも好ましい。
初対面の男の人が必ずするような、わたしを品定めする目線を飛ばしてこなかった。
なんとなく救われた気分になった。
今にして思えば、わたしに話しかける時に、少し照れたように黒目をクルっと動かすのが可愛かった。
でもその時には、まさか、そんな仕草を好きになるなんて思ってはいなかったんだけど。
わたしと、佐々木崇との出会いは、ちょっと洒落た創作料理を出す居酒屋で。
ロマンティックで、ドラマティックな展開の予感なんて、まさかまさかという感じで。
予定を予定通り消化して終わった。

もしわたしが日記か何かを付けていて、その日のことを書いていたら。
---合コン参加。意外にも楽しく飲んで、おつかれさま。---
とか、その程度のことだったと思う。
由実さんと悠一さんが一緒に帰って行くのを見送って、崇とわたしがそれぞれ別のタクシーに乗り込む時に、「おやすみなさい」と言った崇の、酔って潤んでいた細く小さめの目のことを書いてはいないだろう。
わたしの場合、恋心を抱くというプログラムを走らせるためのコードが、そのために記述されたものであったと気付くのは、後になってからのことが多い。
なんて思ってみたけど、コードなんて言い出すのは職業病っぽくてイヤだな。
せっかく、恋する乙女な雰囲気でいられたところだったのに。



(以下、第四話へつづく)
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