ムク太くん

１０代の終わり頃・・

ちいさなちいさな子犬を知人に託された・・

深く考えもせず、もらって抱っこして電車に乗った。

少し混んでる電車の中で「そんな小さいうちに親から離しちゃダメなんだ！」って

見知らぬお兄さんに叱られた・・・・の覚えてる・・・

小さな子犬はムクムクしているのでムク太クンと名づけた

ムク太はアタシをお母さんだと思ってアタシ以外のヒトに抱かれると

ものすごい声で泣いた

いつでもいつでもついて歩いた。まだ散歩になんか連れて行けない大きさだから

家の中だけ・・・・

ちょっと留守した隙に居なくなった・・・

大騒ぎで探したら、降りれない階段を必死に下りて階下の隅にまぎれてた・・・

なにもわからずただただひたすらアタシの姿を探し追うムク太

ほどなくして、そんなムク太を置いてアタシは家を出た

親に託して・・・何も考えずに平然と・・・

たまに家に帰るとムク太はシーワールドのイルカショウのようにジャンプして

アタシを迎えた。ムクはアンタが来る日は判ってるんだよ

朝から駅の方ずっと見て動かないから・・・って母が言ってた

 

小ぶりなシェトランド系雑種のかわいい気弱なムク太

そんなムク太が７年位たった頃

病気になってもう長くないから・・って連絡があって寒い冬お見舞いに行った

もう縁の下にずっとうずくまっていて出てこない・・・

しゃがんで覗き込んで挨拶して・・なんだかんだして遅くなったから帰ろうとしたら

ヨロヨロ、本当に力を振り絞ってムク太が縁の下から出てきた・・

だのにアタシは、「帰るからごめんね！」って・・・気楽に言った

「泊まってくれるんじゃなかったの・・？」

ブルブルカラダを震わせて足を踏ん張ってこっちを睨んで見送る夕闇のムク太

それがアタシの見た最後のムク太・・今もはっきり覚えてる・・

 

それからしばらくした雪の日ムク太が死んだって電話が来た

前の晩からとっても寒い日で

早朝雨戸を「トントン・・」ってたたく音が聞こえてきて・・・

両親は「もしかしたら・・ムク太かね・・・？！」ってふとんの中でカオを見合わせたって・・

で、起きて雨戸開けたら、雪がたくさん積もっていて雨戸の前でムク太がたたきで冷たくなってたんだって

「あれ・・ムク太の最期の挨拶だったんだね・・・」って

遠い昔の・・・２月１８日

 

いまさらざくざく後悔していまさらわんわん泣いたって遅いよね・・・

今年は雪だよ・・・ムク太・・・

ムク太は少しリキに似ている・・・