小梅

ヒタヒタと影のようにぼろ布のように
ゆらゆらとその物体は駐車場の車の影から現れた・・・

ガリガリにやせこけた犬というよりゾンビの様相の1匹の柴犬

年をとって死に掛かっているとかそういう表現では言い表せないほど
オソロシイオーラに包まれた姿のソイツ・・

駐車場の金網越しにシンがコーフン気味に前足をあげた

ダメだよ。絶対太刀打ちできない気迫に満ちている

なんだろう・・とにかくこの世のものとは思えない姿

体中毛玉だらけで、背中はやせてとがって
目だけぎらつかせている
何日何年放浪してるんだろう？

うちの子たちと関わらせてはいけない
そそくさとあたしらは退散しようとしたら

ソイツは広っぱの前の家に中にすっと入っていった

歯を食いしばったような覚悟の形相のきつい横顔で・・

おばあさんが寒空にエプロン姿で立っていて
「もぉお～心配したのよ・・・」って迎えてた

え・・・あそこの子だったの？

玄関の隅の小学生がランドセルに差してる定規くらいしか
幅がない暗いコンクリートのスペースにいつも
棒のように寝ているしかなく悲しい顔を外に向けてたあの柴か・・・・

老夫婦に飼われている存在さえはっきりしないぼろ布のような柴・・・
始めてお前の姿を見たよ・・・

愛犬をあんな姿にさせてしまった老夫婦もなにかしら哀れに思えた・・・

それから幾日かして、行方不明になったって
近所におふれが出たって聞いた

小梅っていうんだって・・・

ああぁ・・きっとアタシが目撃したのは
死に場所探しに行ってまだ迎えがきてくれなくて
仕方なく家に戻った日だったんだね・・・

最期くらい自分で好きなようにしたかったんだろう

静かに終われるといいね・・・

小梅・・気が向いたらウチに寄ってくれ
ブラッシングしてキレイにしてあげるから・・・