Drマサ非公認ブログ

服従と「良いこと」

 前回はマズローの欲求の五段階説が、功利主義的に利用され、本来の「心とは何か」との問いを後退させ、岡潔先生が言う真善美への開かれ、つまり人間の真の姿を忘れさせるとの話をした。

 今回はもう1つ、そのような例を挙げたい。有名なS・ミルグラムの実験である。これもすでに取り上げているので、参考までにリンクを貼っておこう。

 https://blog.goo.ne.jp/meix1012/e/61feeff121d5c96e7a08157b4f4b0e4a

 

 ミルグラムの問いは何だったろうか。それは「人間はどうして服従するのか」である。そのような問いを立てたのは、ナチスの経験である。ドイツの普通の民衆が、なぜヒトラーに服従したのか、との問題意識があったわけだ。そのため心理学の実験で、実際人間は服従するのか試して見たのである。

 この実験で服従したのは、おおよそ3分の2である。その行為は人を殺すことに加担するものでさえあったのだ。もちろん、これは実験室での出来事であり、現実それ自体ではないが、この結果を見る限り、人間は権威に服従する傾向があるとなったのである。

 では、ミルグラムが実証した結果を利用しようとすれば、どんなことができるだろうか。テレビの企画でリアリティー・ショーして考えることができるだろう。例えば、10人が参加し、看守の命令を守るかどうかによって、賞金が与えられるというのはどうだろうか。命令が過酷であればあるほど、テレビ視聴者は喜ぶことになるであろう。

 実験をアレンジすることで、テレビ番組として商品化できるのであるから、これまた功利主義的に利用されるのである。ここにあるのは人気が出るか否かという損得勘定である。

 ここで人間の真善美、「良いことか?」という問題意識を代入してみると、このような企画はどのような位置付けになるであろうか。当然「良いこと」ということに対して疑義が生じる。

 そもそもミルグラムは、ミルグラムの実験をしてはいけないと結論している。なぜなら、人を服従させることは明らかに「良いこと」ではないからだ。だから、ミルグラムの実験的な企画はそもそも「良いこと」ではないのだ。ちなみにリアリティー・ショーの問題点はここにある。

 ミルグラムのそもそもの問題意識は、ヒトラーに服従するメカニズムを実証実験から理解することであるから、その問題意識自体が平和と自由を求めるところにある。

 ただこの実験の結果のみを知ることは、ひとつの知識、情報ではある。しかしながら、ミルグラムの問題意識や思想を理解し、その実験の意味を知ること、それこそが教養であるが、その間にはあまりに大きな隔たりがある。

 人を服従させるようなことをしては、人間の自由を奪うのだ。我々は人をコントロールしようとするが、そのような行為自体を反省しなければならない。先のリアリティー・ショーは人をコントロールできるのかというミルグラムの実験のエンターテイメント化である。ミルグラムはどう思ったであろうか。

 人間は実験道具ではない。当たり前だ。結局常識に帰すのだ。

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