気温は少し、春に近づいたかも知れない。
美容院へ母を連れて行く。
前回はお客は母だけだった。
入り口から声をかけたら、奥からこちらを窺う男女の気配、
もう80歳は越えているだろう、女性が、訝りながら出てきて、
深紅のマニキュアの手慣れた手業で、ヘアカットを仕上げてくれた。
二度目の今日は、母を含めて、お客は3人、いずれも8,90代。
店主の美容師夫妻が、30年以上、とりしきっているらしい。
今回はご夫君が、母の髪をあたってくれる。
経験豊富らしい、見事な鋏さばきだが、昔の職人らしく口数が少なく、
おしゃべり過剰な母は、少しとまどっている。
ザックリと見て、80代~の男女が5人、
昭和の空気漂う美容院の、Pタイルの広いフロアの中央に、集まっている。
古いニュータウンの、よくある風景に過ぎないのだろうけれど、
貴重な歴史の一こまを見逃すまい。
ソファで待つ、わたし自身が、写真機に成り代わって、
脳裏に焼き付かせようと強く意識していた。