◆米イーベイの4―6月期、純利益5割増
米ネット競売最大手イーベイの4―6月期決算は、純利益が前年同期比5割増だった。ネット電話・決済サービスがけん引。
いつのまにか
台詞を書いただけで、「テレビドラマ」が出来上がる――。
そんなソフトが、ブログの動画化を進める可能性を秘める。
「個人放送局」が広がる日もそう遠くないかもしれない。
マダム:ねえ、いつになったら奥さんと別れてくれるの?
社長 :いやいや、もう少し待ってくれ。
マダム:あなた、いつもそうね…
文章から動画を作成するソフトウエアを使うと、例えばこんな台詞を入力しただけで、キャラクターが身ぶりをしながら合成音声で話すドラマが自動的に出来上がってしまう。このソフトウエアを開発し、普及活動をしているのが、東北大学電気通信研究所の青木輝勝准教授だ。
誰でも簡単にアニメーションを作れないものか――。青木氏が5月まで在籍した東京大学先端科学技術センター時代から主宰する「ムービー塾」では毎回20人程度の参加者を募集。1日がかりで動画コンテンツを作る仕組みの解説から、実際に自分でアニメを製作する作業までを体験する。同センターのある東大駒場キャンパスだけでなく、学校やサークル向けに大阪や名古屋などで“出張授業”も開催。参加者も小学校2年生から89歳のお年寄りまでと幅広い。これまでに51回開催した同塾の生徒数は延べ1000人に上った。
インターネットを活用した高齢者の交流サークル「メロウ倶楽部」で幹事を務める若宮正子さん(72歳)も同塾の参加者の1人だ。友人に誘われて何気なく参加してみたところ、動画作りの面白さに引き込まれた。
「だって自分が書いたものがそのまま台詞となって話すんですよ」。これこそが動画作りの魅力。さらに「動画によるコミュニケーションは世代の壁を越える」ことも特徴だ。たまたま同じ回にムービー塾に参加した小学生に、若宮さんが作った動画を見せたところ、すごく笑ってくれた。「お年寄りと孫の世代でも、動画を使えば一緒に楽しめる」。
若宮さんが所属するメロウ倶楽部では日本と韓国の高齢者との交流も進めており、そこでも動画を活用している。アニメの動画を介することで、世代だけでなく国境を超えたコミュニケーションにも使えるわけだ。韓国語はカタカナで入力すれば、キャラクターが発音してくれる。
そもそも青木氏はなぜ、こんなソフトウエアを開発しようと思ったのだろうか。「ブログがこんなに普及してきたのに、動画コンテンツを一般の人が作るのは難しい。何とか簡単に動画を作ることはできないものか」。こう考えたのがきっかけだという。
映像というと、従来はテレビなど技術や設備が整ったマスメディアの一部の製作者が作って発信してきた。ただ、米グーグルが買収した動画共有サイト「ユーチューブ」が爆発的な人気を呼んだり、動画にコメントを入れられる「ニコニコ動画」が急成長するなど、個人の動画への関心が強まっている。
ところが、現在のブログはほとんどが文章や写真などによって構成されており、動画を使っても文章の間に挟み込む程度にとどまっている。青木氏は「ドラマ仕立てのような動画にすれば、ブログなどの視聴率がもっと上がるのではないか」と予想している。
さらに青木氏は、この普及活動が「コンテンツ立国につながる」とも見ている。従来はほとんどの人が、テレビなどを通じて提供された動画コンテンツをただ受け身で見るだけだったが、実際に自ら動画作成を体験することで映像を見る目が肥え、「日本人の動画コンテンツレベルの底上げにつながる」からだ。
青木氏が開発したデジタル・ムービー・ディレクター(DMD)というソフトウエアの仕組みを見てみよう。
動画を作成するステップは、大きく3段階に分かれている。まずは自由にシナリオを書いてみるだけの「レベル1」。最初に設定されている演出をベースに、主語と述語と台詞を入力してキャラクターにしゃべらせてみる。
次の「レベル2」ではカメラワークやキャラクターの顔の表情、BGMなどをつけることができる。これで少しは実際のドラマの雰囲気が出てくる。そして「レベル3」では、あらかじめ設定されているいくつかの舞台から自分で好きなものを1つ選ぶほか、キャラクターの立ち位置や向きを決める。
冒頭の不倫ドラマでは、まずタイトルを「海辺にて」と設定。次にマダムと社長という登場人物に加え、それぞれの台詞、動きを選択する。さらにカメラの位置を最初は右前から、次は左前から、最後は正面からに設置。ウエスト(腰から上のカット)かアップ(顔のアップ)を決めると、左のような動画が出来上がる。
DMDのソフトウエアはムービー塾に参加した生徒だけではなく、ムービー塾のホームページで申し込み手続きをすれば無料で手に入れることができる。
ただ台本を書くだけで、なぜこんなことができるのか。この魔法の裏側には、文書を動画へと変換するTVMLと呼ばれるコンピューター言語があるのだ。
NHK時代にTVMLを考案した林正樹セガサミーメディア取締役。「英語でしゃべらナイト」で登場したキャラクター「ボブ&メアリー」はお気に入りだ
このTVMLを使って動画を作成する活動を推進するもう1人の人物がいる。TVMLをNHK放送技術研究所で考案した林正樹氏だ。セガサミーホールディングスの子会社、セガサミーメディア(東京都港区)でTVMLを使った動画製作技術の開発を続けている。TVMLの技術を使った動画コンテンツ配信に興味を持ったセガサミーの誘いを受け、23年勤めたNHKを昨年6月に退社した。
セガサミーメディアが「個人で放送局を運営してみよう」というコンセプトで現在進めているのが、Zi-Bang!(仮称)と呼ぶ動画コンテンツ配信サイトの立ち上げ。現在はまだ試験運用中であるため一般の人の利用はできないが、同社の社員や関係者らが、TVMLを使った動画を作成して掲載している。
基本的な仕組みは青木氏のDMDと同じだが、Zi-Bang!はよりシンプルな設計になっており、ほとんど台本通りに記述していく。記者も仮のIDをもらい、実際に動画を作成してみた。タイトルは「ネットのあした」だ。
タイトル:ネットのあした
(Aのフルショット)
(Aのカメラ目線)
どうも、こんにちは、こちら日経ビジネス編集部です。
(Aのアップショット)
今回はブログをTV番組にしてしまおうという活動に取り組んでいる方を紹介します。この仕組みを使うと
(待つ)
(喜)
キャラクターが喜んだり
(アクション直る)
(待つ)
(哀)
悲しんだり
(アクション直る)
(待つ)
(Aのアップショット)
このように動かして楽しむことができます。さようなら。
(ロングカメラ)
(バイバイ)
こんな具合に台本の文章を書き込んでいく。登場人物と台詞を入力する部分は、青木氏のDMDと同じだが、台詞の間に、(待つ)と書き込んだり、(喜)(哀)といった表情や行動パターンは実際のテレビ番組の台本さながらだ。最後にあらかじめ準備された複数の演出の中からベテランのアナウンサーがスタジオで解説するセットを選択すると、すぐに右上のような動画が出来上がった。
セガサミーメディアでは、こうした動画の配信サイトを秋にオープンする予定だ。当面はできるだけ多くの人に簡単に動画コンテンツを作ってもらうことが狙い。自分が作った動画を他の人に見てもらうだけでなく、他の人が作った動画を見て評価することで、「新たなコミュニケーションの輪が広がる」という。動画の舞台セットの背景などに、企業の広告を載せることも可能で将来は広告ビジネスに発展する可能性もある。
当初はテレビ番組をコンピューターで作ることができないかという発想でNHKの研究所から誕生したTVMLだが、今ではハードルが高かった動画コンテンツ作りの裾野が広がり始めている。ムービー塾やセガサミーメディアの活動を通じソフトウエアが普及すれば、日本中のあちこちで「個人放送局」が誕生する日も遠くなさそうだ。
TV program Making Languageの略。文書を動画に変換するためのコンピューター言語。1996年から97年にかけてNHK放送技術研究所が、日立国際電気、日立製作所中央研究所、慶応義塾大学と共同で開発した。2001年9月に研究開発チームは解散し、個別の活動に移行した。ソフトウエアのメンテナンスなどはNHK放送技術研究所が引き継いだ。実際にNHKの英語トークバラエティー番組「英語でしゃべらナイト」でも使われた。
実際にテレビ番組作りに必要な要素となる、character(キャラクター)、set(スタジオセット)、prop(小道具)、camera(カメラワーク)、narration(ナレーション)などをTVMLで定義する。
例えば、character: talk(name=ナカハラ, text=“こんにちは、ナカハラです”)と書くと、ナカハラというキャラクターが、「こんにちは、ナカハラです」と話す。キャラクターの動きだけでなく、正面のカメラから左斜め前のカメラに切り替えたり、ナレーションを間に挿入したりすることを可能にした。まるでテレビ局のディレクターになった気分で、番組作りが体験できる。
TVMLで動画を作成したり、再生したりするためのプレーヤーは、NHK放送技術研究所のホームページから無償でダウンロードできる。このソフトウエアは、個人がホームページに掲載したり、教育機関、学会などで活用するような場合には無料。ただ営利目的で利用する場合には、1番組につき1万500円のライセンス料が必要となる。