アンタの足手まといになるくらいなら、死んでたほうがマシだ。
そう言えたらどんなに楽になるだろう。そして死んでしまえば、どんなに楽になるだろう。それだけは、言ってはいけない言葉。
俺の代わりなんか、いくらだっている。
ハボックは一人では動くことも出来ないベッドの上で、時間をもてあましていた。出来ることなどなかった。何かしたいといえば、すべて人の手を煩わすことでしかない。
一人で姿勢を変えることも出来ず、看護婦が定期的に体を動かしていく。そうしないと床ずれが出来てしまうというが、ハボックの下半身はそんな痛みさえも感じることはできなかった。
差し入れられた雑誌をめくる気にもならず、ハボックの頭の中は大佐のことだけだった。
動く腕だけでも筋トレくらい出来たらよかったのだ。単純に体を動かしていれば、不毛な考えに集中しないで済む。しかしそれは許されなかった。脊髄損傷および内臓にまで及ぶ損傷で、絶対安静なのだから。こうやって、ただ時間が過ぎていく。ほんの僅かづつ苦痛な時間が過ぎていく。
――死んでたほうがマシ。
そればかりが何回も脳裏をよぎった。生きていることが、どれだけ偶然の賜物で、尊いことかハボックは知っている。彼もまた人の命を奪う職業についているもの常として、十分過ぎるほど知っていた。
母親の顔が浮かぶ。父親は徴兵で借り出され、戦場で死んだ。息子は志願兵として従軍。馬鹿息子は士官学校に通って職業軍人になった。
戦争なんか嫌いだと、兵隊なんか辞めろと言いつづけている母。今の俺を見たらなんと言うだろう。このバカ!と子供みたいに叱ってくれるだろうか?
このまま実家に戻れば、傷痍軍人年金は下りるだろうが、お荷物でしかない。親から貰った体を使い物にならなくして、更に手がかかるだけの、息子。
かといって軍にも居られない。機械義足の人間は居るがそれが無理となれば、後方支援でも邪魔者だろう。
むしろ大佐の手で殺して欲しかった。
それはなんて甘やかな妄想だろう。
俺を殺したら、大佐の心は傷つくだろうか。
あの人は、きっと一生忘れないでいてくれる。俺のために一滴の涙でも流してくれないだろうか。ヒューズは、大佐と回線の繋がった向こうで死んだ。自分は、大佐の腕の中で、あの人の手で死ねたら。あの人よりも大佐の記憶に残ることが出来るんじゃないか。
もう大佐を喜ばすことなんか出来ない俺は、愛想をつかされて忘れられるよりも、傷つけて憎まれたい。
役立たずと、バカもんと、罵って欲しかった。殺せないなら、せめて免職にしてくれ。ここで生かされていることが、俺の一番の苦痛だ。あんたの隣を夢見て、何も出来ない自分にイラつき、ベッドの上で一生過ごすのか?あんたが大総統になるまで?そしてなってからも?
「腐ってんな…体も…頭も…」
最低の発想に思わず苦笑し、乾いた両手を見た。この手が、あの人の体の隅々を知っていたのに、あの人の望むことを知っていたのに、いまや何ひとつ出来やしない。
「どうすりゃ…」
じっと奥歯をかみ締める。思い切り拳を握る。力が入りきらない。握力が落ちているのを感じる。これじゃ銃を握れない。それ以前にあの反動に体を支えることはできないだろう。こうやって、少しづつ使い物にならなくなっていく体が、自分で悲しかった。
内臓の傷が落ち着けば、循環系はなんとか機能するだろうと医者は言った。下半身は多分動かないとも。それは人間として生きてるというだけだ。下半身不随の生活をハボックは想像は出来ずにいた。
でも、あの人が生かしてくれたのだから、勝手に死ぬなんて許されやしないんだろう。あの人の部下になった時から、俺の命はあの人のもんで。あの人が許可しなきゃ、俺は勝手に死ぬことも出来ない。
ハボックは自分の拳を力いっぱい太もも叩きつけた。何も感じない。もうそうするのが何度目か分からなかったけれど、結果はいつも同じだった。体につながれている色々なチューブが揺れて、抗議の音を立てる。
大佐の隣に居たい。もうだめだ。こんな体で居るわけにいかない。だけど、側に居たい。こんなにも、あの人の側に居たい。その望みを、自分で断ち切ることさえ出来ない。
こういうとき、なんて言ったらいいんだ?
『別れてくれ』ってのは、どうだ。そりゃ女の時に言う言葉か?
『俺をここで生かしておくってのは、自らの危険を呈してまで部下の命を救ったっていう、売名行為ですか』
ヒューズなら言うかもしれない。ヒューズは、わざと人を怒らせることにかけては天才的だった。
大佐が了承するかどうかはともかく、売名行為としてだろうが役に立つならば、それほど悪くないとハボックは思った。ヒューズが言ったなら、大佐は怒りかけてから苦笑して、そうかもしれないなどと平気に抜かすだろうが、自分が同じ言葉を口にしても同じ結果が得られるとは思いにくかった。
その差が悔しかった。
だが、その感情はハボックが五体満足なときよりも薄い。ヒューズに嫉妬したくとも、ヒューズ自体生きていないのだし、自分もまた大佐の隣に居るに値しない体になってしまった。
それにしても…いつの間にこんなに侵食されていたんだろう。あの人に。
いつの間に泥沼にはまるように、愛してしまったのだろう。
だから結局、あの人に何を伝えれば、いいんだろう。
もう愛しているとは言うことはできない。
一人語りって、ポエムっぽくなってしまって、人様にお見せするのはどうかと思うっていたのですが、3月号のハボックを見ていたら、どうしても書きたくなってしまいました。この後、退役の手続きを頼んで、母親呼ぶっていうイメージです。そんで、あの会話と。
私はロイを真ん中にして、ハボックとヒューズを左右に立たせたいんですよ。永遠にハボはヒューに敵わないですけど。(←ひでぇなヲイ)
あの後、ロイはハボ母と話とかしそう。「大切な息子さんをあのような姿にしてしまい、上官として大変申し訳なく思います。彼は立派な将校として任務を全うしてくれました」とか。なんか、それも辛いなぁ。やっぱ29歳で大佐って立場で、人の命に責任持つって大変なことだよ。
しかし、絶対に復活してくれ、ハボック。信じてます。
そう言えたらどんなに楽になるだろう。そして死んでしまえば、どんなに楽になるだろう。それだけは、言ってはいけない言葉。
俺の代わりなんか、いくらだっている。
ハボックは一人では動くことも出来ないベッドの上で、時間をもてあましていた。出来ることなどなかった。何かしたいといえば、すべて人の手を煩わすことでしかない。
一人で姿勢を変えることも出来ず、看護婦が定期的に体を動かしていく。そうしないと床ずれが出来てしまうというが、ハボックの下半身はそんな痛みさえも感じることはできなかった。
差し入れられた雑誌をめくる気にもならず、ハボックの頭の中は大佐のことだけだった。
動く腕だけでも筋トレくらい出来たらよかったのだ。単純に体を動かしていれば、不毛な考えに集中しないで済む。しかしそれは許されなかった。脊髄損傷および内臓にまで及ぶ損傷で、絶対安静なのだから。こうやって、ただ時間が過ぎていく。ほんの僅かづつ苦痛な時間が過ぎていく。
――死んでたほうがマシ。
そればかりが何回も脳裏をよぎった。生きていることが、どれだけ偶然の賜物で、尊いことかハボックは知っている。彼もまた人の命を奪う職業についているもの常として、十分過ぎるほど知っていた。
母親の顔が浮かぶ。父親は徴兵で借り出され、戦場で死んだ。息子は志願兵として従軍。馬鹿息子は士官学校に通って職業軍人になった。
戦争なんか嫌いだと、兵隊なんか辞めろと言いつづけている母。今の俺を見たらなんと言うだろう。このバカ!と子供みたいに叱ってくれるだろうか?
このまま実家に戻れば、傷痍軍人年金は下りるだろうが、お荷物でしかない。親から貰った体を使い物にならなくして、更に手がかかるだけの、息子。
かといって軍にも居られない。機械義足の人間は居るがそれが無理となれば、後方支援でも邪魔者だろう。
むしろ大佐の手で殺して欲しかった。
それはなんて甘やかな妄想だろう。
俺を殺したら、大佐の心は傷つくだろうか。
あの人は、きっと一生忘れないでいてくれる。俺のために一滴の涙でも流してくれないだろうか。ヒューズは、大佐と回線の繋がった向こうで死んだ。自分は、大佐の腕の中で、あの人の手で死ねたら。あの人よりも大佐の記憶に残ることが出来るんじゃないか。
もう大佐を喜ばすことなんか出来ない俺は、愛想をつかされて忘れられるよりも、傷つけて憎まれたい。
役立たずと、バカもんと、罵って欲しかった。殺せないなら、せめて免職にしてくれ。ここで生かされていることが、俺の一番の苦痛だ。あんたの隣を夢見て、何も出来ない自分にイラつき、ベッドの上で一生過ごすのか?あんたが大総統になるまで?そしてなってからも?
「腐ってんな…体も…頭も…」
最低の発想に思わず苦笑し、乾いた両手を見た。この手が、あの人の体の隅々を知っていたのに、あの人の望むことを知っていたのに、いまや何ひとつ出来やしない。
「どうすりゃ…」
じっと奥歯をかみ締める。思い切り拳を握る。力が入りきらない。握力が落ちているのを感じる。これじゃ銃を握れない。それ以前にあの反動に体を支えることはできないだろう。こうやって、少しづつ使い物にならなくなっていく体が、自分で悲しかった。
内臓の傷が落ち着けば、循環系はなんとか機能するだろうと医者は言った。下半身は多分動かないとも。それは人間として生きてるというだけだ。下半身不随の生活をハボックは想像は出来ずにいた。
でも、あの人が生かしてくれたのだから、勝手に死ぬなんて許されやしないんだろう。あの人の部下になった時から、俺の命はあの人のもんで。あの人が許可しなきゃ、俺は勝手に死ぬことも出来ない。
ハボックは自分の拳を力いっぱい太もも叩きつけた。何も感じない。もうそうするのが何度目か分からなかったけれど、結果はいつも同じだった。体につながれている色々なチューブが揺れて、抗議の音を立てる。
大佐の隣に居たい。もうだめだ。こんな体で居るわけにいかない。だけど、側に居たい。こんなにも、あの人の側に居たい。その望みを、自分で断ち切ることさえ出来ない。
こういうとき、なんて言ったらいいんだ?
『別れてくれ』ってのは、どうだ。そりゃ女の時に言う言葉か?
『俺をここで生かしておくってのは、自らの危険を呈してまで部下の命を救ったっていう、売名行為ですか』
ヒューズなら言うかもしれない。ヒューズは、わざと人を怒らせることにかけては天才的だった。
大佐が了承するかどうかはともかく、売名行為としてだろうが役に立つならば、それほど悪くないとハボックは思った。ヒューズが言ったなら、大佐は怒りかけてから苦笑して、そうかもしれないなどと平気に抜かすだろうが、自分が同じ言葉を口にしても同じ結果が得られるとは思いにくかった。
その差が悔しかった。
だが、その感情はハボックが五体満足なときよりも薄い。ヒューズに嫉妬したくとも、ヒューズ自体生きていないのだし、自分もまた大佐の隣に居るに値しない体になってしまった。
それにしても…いつの間にこんなに侵食されていたんだろう。あの人に。
いつの間に泥沼にはまるように、愛してしまったのだろう。
だから結局、あの人に何を伝えれば、いいんだろう。
もう愛しているとは言うことはできない。
一人語りって、ポエムっぽくなってしまって、人様にお見せするのはどうかと思うっていたのですが、3月号のハボックを見ていたら、どうしても書きたくなってしまいました。この後、退役の手続きを頼んで、母親呼ぶっていうイメージです。そんで、あの会話と。
私はロイを真ん中にして、ハボックとヒューズを左右に立たせたいんですよ。永遠にハボはヒューに敵わないですけど。(←ひでぇなヲイ)
あの後、ロイはハボ母と話とかしそう。「大切な息子さんをあのような姿にしてしまい、上官として大変申し訳なく思います。彼は立派な将校として任務を全うしてくれました」とか。なんか、それも辛いなぁ。やっぱ29歳で大佐って立場で、人の命に責任持つって大変なことだよ。
しかし、絶対に復活してくれ、ハボック。信じてます。
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