すっかりツイ廃ですが、久々に舞台のネタバレ感想を。
ジャン・ジュネ「女中たち」
クレール:井上和彦
ソランジュ:水島裕
マダム:三ツ矢雄二
演出:田村連
以前、男3人の演劇ユニット3軒茶屋婦人会の同作品を見たことがある。
その時の印象はややこしい話だなというもの。後味もあまりよくなかったし、流麗なセリフが立て板に水で右から左へ通り抜けて行った。
これは作者の意図でもあるのだろう。大量なセリフ、劇中劇の要素が複雑に入れ子となり、貴族支配という社会構造を批判しつつ、享楽的な匂いにまみれた愛と嫉妬が入り混じり……、もともと毒によって混乱させたいのだろうなと思う。
作者はジャン・ジュネ。あの「JUNE」という雑誌タイトルもこの人から来ているのではなかったか?この話もそういう要素が盛り込まれている。女性同性愛者の物語を男だけで演ずる(書いたのは男性同性愛者)のだから、さらにメタ構造的というか、なんというか。
しかし、私たちの世代にはなじみ深いメンバー3人がこれをやるということで、どうなってしまうんだろうと期待しながら見に行った。さらに個人的なことを言えば、私がオタクになったキッカケは井上さんのオネエキャラ(迦楼羅王レイガ)だったので、井上さんのオネエなセリフが聞きたかったという不純すぎる動機。
通路そばの前の方という良席だった。三ツ矢さんと水島さんが出入りのために通路を使用するという、会場全体を使った演出がなされる。
姉妹の女中であるソランジュとクレールは、黒のお仕着せ=制服を着ていることになっている。
ここでは簡素な黒のロングワンピースというか、貫頭衣であった。そして黒のドタ靴。
ちなみにその下には井上さんは黒のスパッツとTシャツである。女装的なメークもしていない。
いわゆるメイド的な衣装ではまったくないし、ぱっと見、女性にも見えない。むしろ黒子に近いかもしれない。(脚本上では女中たちは綺麗であってはならないというような注があるらしい。手元に岩波文庫がないので未確認である)
仕草は女性を演じているが、特に声色を作るわけではなく、井上さんは時折腰に来るイケボを発せられていた。セリフ的には「○○なのよ」というような女言葉はあるが、おかまっぽく見える訳でもない。なんとも不思議な空間であった。
大してマダムの三ツ矢さんは黒のレースでできたプリンセスラインのドレス。毛皮のコート。アイシャドウにつけまつげのバッチリメーク。
舞台セットは、色とりどりのドレスがたくさん詰まった大きなクローゼットが二つ。鏡台が1つ。(ただし鏡は入っておらず枠だけ)ベッドらしきものが1台。すべて黒で、黒っぽい紫の薔薇で飾られている。
最初は井上さんと水島さんの「奥様ごっこ」から始まる。
クレール井上が、ソランジュ水島に向って、クレールを臭い汚いと罵るのである。
何も知らなければ、水島さんはクレールという役で、井上さんが奥様なのだと思う。
クレールのふりをするソランジュは、奥さまのふりをする井上さんに、恭順なふりをしつつも誘導尋問的なセリフで応酬をする。
井上さんが奥様のドレスを着ても背中が閉まらず、徐々に井上さんと水島さんが「奥様ごっこ」をしていることが分かる。
女中たちは奥様への憧れと嫉妬と憎しみ、奥様へ従う女中としての矜持、みじめな自分への嫌悪という相反する感情が混然一体と発露されていく。
相反する感情のバランスはすでに崩れており、「ごっこ遊び」を越えて彼女たちは奥様の夫を落とし入れていたことが発覚する。さらには奥様の殺害計画もあるのだ。
奥様を殺しても、自分たちが奥様になれるわけでもないし、ドレスの1枚だってもらえるかも分からない。もらったところで似合う訳でもない。着ていく場所もなかろう。仕事を辞めて逃げ出そうにも、お金もないし、行く宛もない。
それでも女中たちは殺意を押し殺すことができないところまで抑圧されてしまっていた。
哀れな女中の二人は、姉妹という愛情を越えた関係も示唆される。
ベッドに横たわるクレールの片足を肩に抱え、きわどいセリフと共に体を重ねて慰めるソランジュ。(内心ギャーと叫んでおりました。客席がシーンとしました…。)後半にはキスシーンもありました。
またソランジュが奥様ではなくクレールの首を絞めるシーンも。
奥様を殺せないなら、二人で心中しようというのだろうか。
ここではないどこかへ行くためには、誰かの死が必要なのだろうか。
水島さんは一番セリフが多い役。長い独白が何度もある。そこに細かい動きをつけられていて、その表現が素晴らしい。席が近かったために、歩き方とか指一本の動かし方とか、そんなところまで細やかな神経が通っていることを感じた。丸めた背中のみじめたらしさも、きりりとした女中姿も、変幻自在。
奥様は夫を逮捕されてしまったヒロインだと自分で思っている。夫を救出するか、共に処罰を受ける貞女となるか、ともかく賛美されることを思い描く。自分の美しさ、素晴らしさに何の疑いも持たない。
女中には優しさを見せるようでいて、まったく人として扱っていないようなことを無意識に言う。その無邪気なサディスティックさが、女中たちを絶望へと追いやるとも知らず。
夫に愛される奥様は、自身の性的な魅力にも自信を持っている。
片や牛乳屋の男くらいからしか愛を得れそうもない女中たち―それも妄想だ―。さらには妄想の男を取り合う姉妹。
三ツ矢さんの奥様は、本当におおらかで陽気で、一歩間違えると暗鬱となるストーリーの中で天真爛漫と演じていらっしゃった。一服の清涼剤というにしては強烈なインパクトなのだが、ともかく堂々たる奥様であった。有無を言わせぬ圧巻の迫力である。そしてキュートである。
性的な魅力を自認する奥様が、スカートを捲ってM字開脚してパンツ(黒)を見せてくださるとは思わなかったわけだけれど。。。
それに比較してクレールは…と奥様がクレールの股間に手を当ててくいっと持ち上げた時もぎょっとしました(笑)
奥様と女中。支配するものとされるもの。それはどちらが優位なのか?
関係はいつの間にか反転する。
心の中での裏切りでは終わらず、実際の行動による裏切りにまで。
彼女たちが愛したのは、誰だったのだろう。女中たちは確かに奥様を愛した部分があったはずなのだ。奥様も女中たちを愛した。女中たち二人も相互に愛を感じていた。
しかしその逆の感情―憎しみと嫉妬―もまた三人の中にはあったのだ。
女たちは鏡を覗き、語りかける。
枠だけの鏡には誰が映っているのだろう。
自分なのか、奥様なのか、観客なのか?
何が真実で嘘なのか?
息をつかせぬ怒涛の台詞量で圧倒させられた90分であった。
演出が観客を楽しまさせようということを意識されていたように思う。何度も笑った。
コミカル過ぎるわけでも、シニカルが過ぎるわけでも、悲劇的過ぎるわけでもなく、緩急あって楽しかった。ひとえに演出とお三方の芝居にあると思う。
ちなみに実際にあった事件を基に書かれたお話だそうです。
カーテンコールは1回のみ。
和彦さんは終演後にロビーにいらしたが、生徒さん?たちとお話されており、とてもお声を掛けられず…。50cmくらいの距離で通らせていただきました。関係者とか生徒さん多い感じの客席でした。
平田さんからお花が届いており、百合だけのスタンドが芳香を放っておりました。別の回でご覧になっていたようで。演目をご存知の上での百合なのかなぁと邪推してみたり。
この三人で違う芝居が見てみたいと思いました。またぜひやって頂きたいものです。
3軒茶屋とかぶるのがアレならば、5人いればマクベスができる!と思ったりして…それもまた違う三軒茶屋だ…。
表へ出ろぃ!は3人だな。平田さんを足して4人ならDIVERとかBEEとか野田もいけるな…。
見ている芝居が偏りすぎ…。
ジャン・ジュネ「女中たち」
クレール:井上和彦
ソランジュ:水島裕
マダム:三ツ矢雄二
演出:田村連
以前、男3人の演劇ユニット3軒茶屋婦人会の同作品を見たことがある。
その時の印象はややこしい話だなというもの。後味もあまりよくなかったし、流麗なセリフが立て板に水で右から左へ通り抜けて行った。
これは作者の意図でもあるのだろう。大量なセリフ、劇中劇の要素が複雑に入れ子となり、貴族支配という社会構造を批判しつつ、享楽的な匂いにまみれた愛と嫉妬が入り混じり……、もともと毒によって混乱させたいのだろうなと思う。
作者はジャン・ジュネ。あの「JUNE」という雑誌タイトルもこの人から来ているのではなかったか?この話もそういう要素が盛り込まれている。女性同性愛者の物語を男だけで演ずる(書いたのは男性同性愛者)のだから、さらにメタ構造的というか、なんというか。
しかし、私たちの世代にはなじみ深いメンバー3人がこれをやるということで、どうなってしまうんだろうと期待しながら見に行った。さらに個人的なことを言えば、私がオタクになったキッカケは井上さんのオネエキャラ(迦楼羅王レイガ)だったので、井上さんのオネエなセリフが聞きたかったという不純すぎる動機。
通路そばの前の方という良席だった。三ツ矢さんと水島さんが出入りのために通路を使用するという、会場全体を使った演出がなされる。
姉妹の女中であるソランジュとクレールは、黒のお仕着せ=制服を着ていることになっている。
ここでは簡素な黒のロングワンピースというか、貫頭衣であった。そして黒のドタ靴。
ちなみにその下には井上さんは黒のスパッツとTシャツである。女装的なメークもしていない。
いわゆるメイド的な衣装ではまったくないし、ぱっと見、女性にも見えない。むしろ黒子に近いかもしれない。(脚本上では女中たちは綺麗であってはならないというような注があるらしい。手元に岩波文庫がないので未確認である)
仕草は女性を演じているが、特に声色を作るわけではなく、井上さんは時折腰に来るイケボを発せられていた。セリフ的には「○○なのよ」というような女言葉はあるが、おかまっぽく見える訳でもない。なんとも不思議な空間であった。
大してマダムの三ツ矢さんは黒のレースでできたプリンセスラインのドレス。毛皮のコート。アイシャドウにつけまつげのバッチリメーク。
舞台セットは、色とりどりのドレスがたくさん詰まった大きなクローゼットが二つ。鏡台が1つ。(ただし鏡は入っておらず枠だけ)ベッドらしきものが1台。すべて黒で、黒っぽい紫の薔薇で飾られている。
最初は井上さんと水島さんの「奥様ごっこ」から始まる。
クレール井上が、ソランジュ水島に向って、クレールを臭い汚いと罵るのである。
何も知らなければ、水島さんはクレールという役で、井上さんが奥様なのだと思う。
クレールのふりをするソランジュは、奥さまのふりをする井上さんに、恭順なふりをしつつも誘導尋問的なセリフで応酬をする。
井上さんが奥様のドレスを着ても背中が閉まらず、徐々に井上さんと水島さんが「奥様ごっこ」をしていることが分かる。
女中たちは奥様への憧れと嫉妬と憎しみ、奥様へ従う女中としての矜持、みじめな自分への嫌悪という相反する感情が混然一体と発露されていく。
相反する感情のバランスはすでに崩れており、「ごっこ遊び」を越えて彼女たちは奥様の夫を落とし入れていたことが発覚する。さらには奥様の殺害計画もあるのだ。
奥様を殺しても、自分たちが奥様になれるわけでもないし、ドレスの1枚だってもらえるかも分からない。もらったところで似合う訳でもない。着ていく場所もなかろう。仕事を辞めて逃げ出そうにも、お金もないし、行く宛もない。
それでも女中たちは殺意を押し殺すことができないところまで抑圧されてしまっていた。
哀れな女中の二人は、姉妹という愛情を越えた関係も示唆される。
ベッドに横たわるクレールの片足を肩に抱え、きわどいセリフと共に体を重ねて慰めるソランジュ。(内心ギャーと叫んでおりました。客席がシーンとしました…。)後半にはキスシーンもありました。
またソランジュが奥様ではなくクレールの首を絞めるシーンも。
奥様を殺せないなら、二人で心中しようというのだろうか。
ここではないどこかへ行くためには、誰かの死が必要なのだろうか。
水島さんは一番セリフが多い役。長い独白が何度もある。そこに細かい動きをつけられていて、その表現が素晴らしい。席が近かったために、歩き方とか指一本の動かし方とか、そんなところまで細やかな神経が通っていることを感じた。丸めた背中のみじめたらしさも、きりりとした女中姿も、変幻自在。
奥様は夫を逮捕されてしまったヒロインだと自分で思っている。夫を救出するか、共に処罰を受ける貞女となるか、ともかく賛美されることを思い描く。自分の美しさ、素晴らしさに何の疑いも持たない。
女中には優しさを見せるようでいて、まったく人として扱っていないようなことを無意識に言う。その無邪気なサディスティックさが、女中たちを絶望へと追いやるとも知らず。
夫に愛される奥様は、自身の性的な魅力にも自信を持っている。
片や牛乳屋の男くらいからしか愛を得れそうもない女中たち―それも妄想だ―。さらには妄想の男を取り合う姉妹。
三ツ矢さんの奥様は、本当におおらかで陽気で、一歩間違えると暗鬱となるストーリーの中で天真爛漫と演じていらっしゃった。一服の清涼剤というにしては強烈なインパクトなのだが、ともかく堂々たる奥様であった。有無を言わせぬ圧巻の迫力である。そしてキュートである。
性的な魅力を自認する奥様が、スカートを捲ってM字開脚してパンツ(黒)を見せてくださるとは思わなかったわけだけれど。。。
それに比較してクレールは…と奥様がクレールの股間に手を当ててくいっと持ち上げた時もぎょっとしました(笑)
奥様と女中。支配するものとされるもの。それはどちらが優位なのか?
関係はいつの間にか反転する。
心の中での裏切りでは終わらず、実際の行動による裏切りにまで。
彼女たちが愛したのは、誰だったのだろう。女中たちは確かに奥様を愛した部分があったはずなのだ。奥様も女中たちを愛した。女中たち二人も相互に愛を感じていた。
しかしその逆の感情―憎しみと嫉妬―もまた三人の中にはあったのだ。
女たちは鏡を覗き、語りかける。
枠だけの鏡には誰が映っているのだろう。
自分なのか、奥様なのか、観客なのか?
何が真実で嘘なのか?
息をつかせぬ怒涛の台詞量で圧倒させられた90分であった。
演出が観客を楽しまさせようということを意識されていたように思う。何度も笑った。
コミカル過ぎるわけでも、シニカルが過ぎるわけでも、悲劇的過ぎるわけでもなく、緩急あって楽しかった。ひとえに演出とお三方の芝居にあると思う。
ちなみに実際にあった事件を基に書かれたお話だそうです。
カーテンコールは1回のみ。
和彦さんは終演後にロビーにいらしたが、生徒さん?たちとお話されており、とてもお声を掛けられず…。50cmくらいの距離で通らせていただきました。関係者とか生徒さん多い感じの客席でした。
平田さんからお花が届いており、百合だけのスタンドが芳香を放っておりました。別の回でご覧になっていたようで。演目をご存知の上での百合なのかなぁと邪推してみたり。
この三人で違う芝居が見てみたいと思いました。またぜひやって頂きたいものです。
3軒茶屋とかぶるのがアレならば、5人いればマクベスができる!と思ったりして…それもまた違う三軒茶屋だ…。
表へ出ろぃ!は3人だな。平田さんを足して4人ならDIVERとかBEEとか野田もいけるな…。
見ている芝居が偏りすぎ…。