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白き焔BLOG

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ヒューロイ風短編「初雪-Merry Christmas-」

2004-12-20 01:19:28 | 鋼SS

 ロイ・マスタングとマース・ヒューズは、士官学校を卒業後、数回前線へ出て生還した。
 軍功を上げた二人に昇進辞令が下ったのは、クリスマス間近の出来事だった。
 その日最後の仕事として辞令を受け取った二人は、真新しい金星を肩章にもうひとつ付けて、町へ繰り出した。

 町はクリスマスを祝うネオンが光っている。雪が降りそうな気温で、雲が空をのっぺりと覆っていた。そんな天気を関係ないとばかりに、抱き合いながら歩いているカップルが嫌に目に付いた。

「もうすぐクリスマスだなー。お前、なんかやる?」
「特に予定はない」

 士官学校時代に女性にモテまくっていたロイだが、前線に出ている間にすっかり女性に逃げられてしまったらしい。こんなに早く昇進すると知っていたら、前線に発つ前にロイに何らかの約束を取り付けておくべきだったと後悔するものもいたかもしれない。
 完全にフリー状態の現状を考えると、クリスマスを恋人同士のイベントで過ごすというのは難しそうだった。

「俺、プロポーズしちゃおっかなぁ」
「はぁ?」

 唐突なヒューズの言葉にロイが立ち止まる。

「誰に?」
「俺、言ってなかったっけ?グレイシアっていうんだけどさ、すんげー美人で華奢な人なんだけど、もうね、すっごく俺に優しいわけよ!そんでさ…」

 失敗したとロイは思う。ヒューズはこの手の自慢を始めたら、隣にいる人間が嫌な顔をしたくらいでは止まらない。隣に人がいなくなっても話し続けるのではないかと思うくらいだった。

 話を要約すると、前線に発つ前に行くところまで行った女性がいたらしい。だが前線に発つ身としては、彼女の将来を拘束することは出来ないと思い、何の約束もせずに出発した。そして無事生還し、昇進した。だから、という訳だった。

 延々と続くグレイシアへの賛美を、ロイはほとんど聞き流した。自分が関係を持った女性は何人もいたが、結婚したいと思ったことは一度もなかった。いずれは結婚するだろうとは思う。それは妻帯していないと格好がつかなくなるとか、その程度の理由かもしれない。だから、これだけ自惚れられるんだから幸せな奴だなと思うくらいで、気持ちはまったく理解できなかった。

「事務官に転向希望を出そうかと思っているんだよねー。やっぱさ、旦那がいつ前線に行っちまうか分かんないなんて耐えられないだろ?」
「その人は、心が強いんじゃなかったっか?」

 呆れながら、うっかりヒューズに突っ込みを入れてしまう。本当は突っ込みどころは、武官から事務官への転向希望の方だというのに。ロイは焔の錬金術師として名が通っており、扱いにくい新人としても有名だったため、なかなか一緒にチームを組んでくれる人物がいなかった。ヒューズが前線に出なくなってしまったら、ペアで作戦を遂行できるような相手が簡単に見つかるとは思えなかった。

「おぉー、よく人の話聞いてんじゃん。そーなのよ、きっとね、あの人はもしもことがあったとしても、耐えて乗り越えてくれるよ。でも、実のところ俺が耐えらんないのよ~」
「…店、着いたぞ」


 いつも行くよりも少しだけ高級なレストランにたどり着いた二人は、赤ワインとコールドビーフなどのつまみを注文した。
 料理が並び、グラスにワインが注がれた。

「昇進おめでとう!マスタング中佐!」
「お前もな。だが、この程度でおめでとうなんて言うのはよせ。まだスタートラインから出たばっかりだ。死体を人より多く積み重ねて、ここに立っただけだから。戦場では最後まで生き残った奴が偉い。それが真理だろう?マース」

「そうさ、俺たちは偉いよ。なんていったて生きてるからな。…お前は死体の数を自慢するのとは違う方法で、上まで出世してみせろよ」

 さっきまでの緩みきった顔ではなく、ヒューズが眼鏡を触りながらニヤリと笑って言った。

「ふん。その時はせいぜい派手に祝ってもらうよ」
「未来に乾杯」

 ヒューズが気取った調子で言い、ワイングラスを目の高さまでかかげた。そのそぶりにロイは思わずグラスを置いて苦笑した。そういう台詞は、その女に向かって言うためものじゃないんだろうか。本当におめでたい男だ。

「ほら乾杯。未来が少しでもよくなりますように」

 ヒューズが、乾杯を促す。
 ロイは軽くグラスを掲げ、ヒューズとグラスを触れ合わせないまま、一息でワインを飲んでしまった。
 久しぶりに未来を夢見て酔えそうな気がした。

 今年最初の雪が、静かに降り出した。

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