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バイク・キャンプ・ツーリング

NERIMA爺、遅咲きバイクで人生救われる

1999年7月10日 北海道ツーリング 12日目

2025年03月26日 | 1999年 北海道ツーリング
7月10日(土)          
 焼尻~天売~焼尻(白浜キャンプ場連泊)



 午前7時前には起床、キャンプ場から海を見下ろすと、いるいる。小舟が何十艘も島の浅瀬を取り囲むようにして漁をしている。舟から半身を乗りだしながら棒状のものを操り、なにか獲っている。ウニだ。今日と明日(土、日)は、「焼尻綿羊祭り」というのが開催されると港の看板にあった。観光客も大勢くるだろうから、大量の新鮮なウニを獲っているのだろう。舟は時間がくると、一斉に港に引き上げていく。これも決まりになっているようだ。あっという間に、舟は付近から1艘もいなくなる。

 朝一番、10時のフェリーで天売島に渡る。Tクンも一緒だ。バイクは港に置いたまま、デイパックを背負っていく。焼尻のフェリー乗り場前では、ドラム缶を縦に切ったような容器で、羊を一匹まるごと焼きはじめている。テントやイスも並べられはじめ、ウニをいれる大きな水槽も用意され、焼尻綿羊祭りの垂れ幕、規制のロープも張られている。夜が楽しみだ。

 焼尻島から天売島まではフェリーで20分ほど。
 フェリーで天売島に向かっていると、だんだんと島の後方が盛り上がっているのがわかってくる。Tクンは歩いて島を廻るというが、自分にはとてもそんな元気はないので、自転車を借りてうろうろするつもりだ。海上のあちらこちらに、海鳥がぷかぷか浮いている。双眼鏡を取りだして観察してみるが、残念ながら種類は判別できない。だが、双眼鏡を向けるところ、向けるところ、海鳥が波間に漂っている。半端な数ではない。やはり、海鳥の島にきたんだなと実感する。

 天売島も焼尻島とほぼ同じ大きさだ。周囲12キロ。自転車なら1時間もあれば、楽に1周できる距離だ。
 Tクンとは、それじゃあ、午後の便でまた会いましょうということで、港で散会。焼尻と同じように、食事をしたら自転車無料貸し出しの店はないかと探してみるが、天売島にはそういう店はないようだ。残念。ハラが減っているので、どこかでメシを食うことにする。こういう離島では、新鮮な魚、新鮮な魚、と念じつつ定食屋など探すのが楽しい。北海道本島に比べて、よさそうなのを出してくれそうな気がする。

 たまに失敗もある。
 駅前(島の人たちはフェリー乗り場をこう呼んでいる)に、定食屋が2軒並んでいたのでどちらにはいろうかと迷う。どちらもうまそうなのをだしてくれそうだ。こういうときは迷う。結局、見てくれがいいほうを選ぶ。店内の壁には椎名誠さんのサイン色紙が掛かっている。ああ、ここで食べたんだと、なんとなくホッとする。俳優とか歌手のサインよりも一発で利く――と、都合よく解釈。期待に胸を膨らませつつ、「刺身定食」(1000円)を注文。

 どうやら、自分が今日、最初の客のようだ。時間は朝の10時半、しかし、この店でうまいものを食うにはちょっと時間が早かった。
 刺身定食以外でオススメだとしたら、やはりウニしかないようだが、ウニ丼の値段を見ると2800円。今のところ、一人で食べる勇気なし。しばらく待たされて刺身定食が運ばれてくる。いけそうだ。メシはいつものように大盛りにしてもらう。小皿にタコ、白身魚のそぎ切り、ほかにも名前のわからない魚の刺身。みそ汁も寒ノリ(たぶん)いりでうまそう。これで1000円は安いほうだろう。
 さっそく新鮮そうな白身を醤油にちょいちょいとつけ、口に運び、ご飯を一口。
 白身を口にいれ、咀嚼。「シャリ、シャリ」
 あ。 
 まだ解凍が十分にすんでいない冷凍物だ。ルイベとは違う。

 他の刺身も箸でつついてみると、全部、凍っている。どうやら、皿ごと冷凍室で一晩ほど、眠っていたものらしい。まずくはないが、しゃりしゃりするだけで味はよくない。あえて言うなら、口中で溶けてきても決してイヤな臭いがしないので、新鮮なものを冷凍したのは間違いない。まさか、刺身定食が全部こうじゃないだろうと思う。おそらく、昨日の余った分、こうやっているのだろう。たぶん昼過ぎにくれば、冷凍モノじゃない刺身定食が食べられるかもしれないが……。それにしても、期待していたぶんだけ、ちょっとがっかりする。だが、ひょっとしてルイベの類でこういう料理なのだろうか。……でも、そんなこと、ないはずだ。
 それでもハラが減っているのでバクバク食べる。昨日までは獲りたて新鮮だったんだ。

 食後、気を取り直して近くの貸自転車屋にいき、2時間700円の自転車を借りる。この島の道路事情はちょっと変わっていて、この時期、自転車であろうとも、道は時計回りの一方通行だからねと説明される。島の向こう半分には自動販売機がないので、飲み物買うならこことここ、などと教えられる。自転車を漕ぎながら、集落の外れの「国設保護区管理練」で「オロロン鳥」のビデオなどを鑑賞。ウミガラスが正式名称のこの鳥は、20年ほど前までは何千羽もいたのに、去年はわずかに17羽しか生息が確認されていないという。ほとんど絶滅に等しい。彼らのヒナを襲うオオセグロカモメ、あるいは獲ってきたエサを横取りするウミネコなどは、人間に依存して生きられるが(漁でおこぼれの小魚などを食う)、ウミガラスにはそういうことができないのが原因のひとつだという。

 島の道は最初ちょろちょろという感じだた、途中から、急激に坂がきつくなる。ところどころ「マムシ注意」と看板が立ててある。とても、ペダルを漕いでいられないので、30分ほど押して坂をいく。汗だくだく。
 坂を上るにしたがって妙な穴が増えてくる。
 さっきビデオでも観た「ウトウ」の巣だ。野ウサギが掘り返したような深い穴が、急斜面に無数に広がっている。マムシなんぞ、安心して地中で冬眠できそうにない地形になっている。

 岬に飛び出すようにして続いている展望廊下(?)をいくと、崖の全面がウトウの巣だらけ。ここには約80万羽のウトウが生息しているという。だが、ウトウの姿は1匹も見あたらない。岩場ではウミネコが乱舞。ウミネコは海に潜れないので、エサを自分では穫ることはできない。他の鳥が獲ってきた魚を狙うと聞いた。それを避けるために、ウトウは朝、エサを獲りに海にでてしまうと、夕日が沈みかけたころにならないと巣に戻ってこない。そのときのウトウの写真を見たが、クチバシに小魚を櫛状にして10匹以上はくわえている。多いものになるとそれ以上。最後の小魚はいったいどうやって獲って、くわえたのだろう、どういう方法で捕獲しているのだろうか。

 どうやら、この天売に渡ってくるときにフェリーの上から海間に見えたのはウトウだったようだ。
 展望台からさらに坂をいくと、ようやく平坦地。さらに進むと海鳥観察舎というスレート葺きの小屋が岩崖に迫り出すようにして建っている。そこでTクンと再会。建物の中には望遠鏡が2基そなえてある。1台はニコンの高倍率望遠鏡だ。オロロン鳥を見ることはかなりむつかしいと管理練の女性が言っていたが、どこかにいないものかと望遠鏡であちこちの岩棚を覗きこむ。
「オロロン鳥、いましたよ」
 別の望遠鏡で、別方向を見ていたTクンがさりげなく言う。
「お」
 どれどれという感じで、自分も覗かせてもらう。

 ホントだ。いるいる。あのペンギンに似た模様で、岩棚に真っ直ぐに立っている。距離にして3~400メートルくらいはあるだろうか。なんて運がいいんだ。望遠鏡をわずかに動かすと、なんとその横にもいる。この2匹、つがいだろうか。さらに周囲を注意深く観察すると、驚いたことにあと4羽もいる。17羽しか生息していないのに、そのうちの6匹が目の前にいる。運がいい。

 さらに観察していると、オオセグロカモメだろうか、オロロン鳥の周りをウロウロする。じゃまなんだろう。それとも、ヒナでも狙っているのだろうか。だが、オロロン鳥にはまったく動じる様子がない。ん? 動じないどころか、身じろぎひとつしない。これはおかしい。双眼鏡の接眼レンズをぐいっと押しつけるようにして、息を殺してオロロン鳥を見つめる。
 なんと――。これは、デコイだ。
 どうりで動かないはずだ。一瞬にしてさきほどの感動がウミネコの乱舞するあたりまで飛んでいき、口元に笑みが浮かぶ。疲れた。──あとで島の人に訊いたところ、オロロン鳥が再び増えるのを願って、こうやってデコイを置いているのだという。

 自転車を返しても、フェリーの時間までは2時間ほどある。行き止まりになっている港外れまで歩いていき、さらに島の急な斜面と港の間にある開けた土地に足を踏み入れたときだ。突堤と木造倉庫の間に、黒い覆いをしたファイバー製の水槽が、コンクリの上に何個も並んでいる。水槽は縦10メートル、横2メートルくらいか。それが6~7個はあり、プラスチックのノズルから海水が流れ出ている。なにかの養殖だ。ここは港からは完全に死角になっている場所でもある。

 黒い覆いは分厚いゴム製で脇にロープでばっちり固定してあり、容易にほどけそうにない。覗いてみようとしても無理だろう。ウミネコやカモメ対策なのかもしれない。ヒラメかカレイと見当をつけるが、それにしてもずいぶん念がいっているものだと感心する。
 民家の裏口が並んでいる狭い道に歩きはじめると、さっきの木造倉庫前にムラサキウニの殻がカゴに山になっている。おおっ。よく見るとまだ割ったばかりのようで、濡れている。商品価値にならないようなウニの黄色い断片が混じりこんで、ウニの黒褐色と対比を成している。こんなカゴが3~4個ほど。

 倉庫の中ではおばちゃんたちが5~6人で車座になり、地べたに座りこんで作業の真っ最中。どうやらウニを割って身を選別しているようだ。車座の中心には、生きたウニが山盛りになっている。それを1個1個手に取って割っている。倉庫の入り口から先には、よそ者には近寄りがたい空気が漂っている。入り口といっても倉庫は丸見えの開放練なのだが。
「あの覆いがしてあるのは、なにを養殖しているんですかあ?」
 意を決して、声をかけてみる。シンとしている。なんか気まずい空気が、近寄りがたい空気に混じり合い、おれ、あっちいったほうがいいかなという雰囲気になる。四秒ほどじっと待っていると、ようやく、
「ウニ」
 と、一言だけ返ってくる。
 あとは、また無言。おばちゃんたちとの距離は2メートルもないのだが、さっきからだれ1人としてこっちを振り向こうとしない。見ちゃならないものを見てしまったのかな、という気持になってくる。

 まあ、いろいろあるのだろう。でかくなるまであそこで養殖しているのかもしれないし、今は直径一センチくらいほどの稚ウニまで育ててから、海中に放流する栽培漁業もあると聞いているので、そのどちらかだろう。しかしムラサキウニが殻付で売られている理由を垣間見た気もする。育てやすく、成長も早いのだろう。
 というわけで、再び港のフェリー乗り場に戻るが、まだ時間があるので土産物屋を覗く。海草類は好物なので、ここでも寒ノリとトロロ昆布――これは小さく刻んであるというか、砕いてあるやつで、みそ汁にいれるとトロトロ状になる。これしか買わないのに、天売島のペナントをおまけでもらう。

 隣の店には、なにやら雑誌の記者が取材にきているようで、店番のおばちゃんを外に連れ出して写真など撮っている。「若いねえ、おかあさん……」などと言って周囲を和ませている。記者は2人いるようで、1人はカメラで写真を撮りながら店の土産物を大判のノートにイラストを描いている。もう1人も手帳にちょこちょことメモを取っては、写真を撮っている。念がいっているなと思っていると、どうやら別々の雑誌社が共同で取材していると判明。

 メインは殻付のウニを生きたまま発泡スチロールの容器にいれて宅配するやつだ。10個前後のでかいムラサキウニが詰められ、本州にも発送できるという。このあいだは沖縄に空輸した人がいたらしい。
「他に珍しいものありますか?」
 と、記者が訊いている。
「これなんかどうかね」
 と、おばちゃんが奥から持ってきたのは、ウニの缶詰。
 直径7~8センチ、高さ約2センチくらい。値段1600円。
「この値段だから、あんまりでないねえ」
 と、おばちゃんが残念そうに言う。
「ほう。1600円か。礼文利尻では3500円だったなあ」
 記者が缶詰をためつすがめすしながら言うと、土産物屋のおばちゃんたちがおやっというふうに顔を見合わす。
「あ。でもそうかあ。これムラサキウニだからだね。向こうはバフンウニだったからね」
 やはりバフンウニは高級品のようだ。
「これ、どこで製造しているんですか」
「あっちの工場」
 と言って、おばちゃんはさっきのウニの殻を剥いていた方向とはまるっきり逆方向を指さす。「先生」と呼ばれる人が、缶詰製造を指導しているらしい。ウニの缶詰なんて珍しいし、1個、買ってもいいかなという衝動にかられるが、結局、パス。殻付の新鮮なものが目の前にある。やはり産地にきて、手にとって食うのが一番いい。

 記者二人がどこかにいってしまったので、おばちゃんたちとちょっと話をする。
「天売では、ウニ漁は何日くらいですか?」
「そうねえ、10回、いや12回かねえ」
「そうなんですか。焼尻では18回のようですね……」 
 そう言うと、おばちゃんはちょっと驚いたような顔をして、
「そうなのかい?」
 と、隣のいたおばちゃんに訊いている。
「漁協によって違うからねえ」
 などと、おばちゃんたちは内輪の話に突入していく。

 その後、フェリー乗り場の待合室でTクンと合流。結局、Tクンは3時間ほどかけて歩いて回ったようだ。3時5分の便で、再び焼尻島に戻る。
 フェリー乗り場前では、炭火バーベキューができるテーブルがずらりと並べてあり、ウニ、カレイ、タコなどを焼いて、みんな美味そうに食っている。テーブルの上に載っているのは、当然生ビールだ。朝見たあの羊の丸焼きは、あらから食いつくされたようで跡形もない。バーベキューのネタはテントの前で売っているが、もうそれほど残っていない。まだ午後4時前だ。でも、バーベキューの時間は終わりのようだ。ぼんやりベンチに座っているTクンに、キャンプ場で一緒にミニバーベキューでもやらないかと誘ってみる。

 日本一周している男に金の余裕なぞあるはずないので、バーベキューのネタは自分の奢りだ。食堂のおばちゃんから、親切にも漁協婦人部がやっているバーベキュー広場のミニ倉庫を管理している人を紹介してもらい、ホタテ10枚入り袋、タコの串刺し(4本)、イカ一夜干し(2枚)を原価で分けてもらう。あと、雑貨屋でピーマン、シイタケ、ついでにビールも4本ほど購入。
 キャンプ場は、昨日と同じで風が強くなってきている。

 自分のテントと横に停めたバイクの間に、Tクンがタープ代わりに使っている2畳ほどのドカシーを風よけに張り渡し、風よけをつくる。バイクにもバイクシートをすっぽりかけているので、なかなかのものができあがる。直接、風が当たることはなくなった。まだかなり陽は高いが、それぞれ、ストーブをもってきて、ミニバーベキュー開始。
 ホタテの貝柱をナイフで切り外し、殻を直にストーブに載せて焼く。最初は焼き具合の要領がつかめなかったが、慣れてくると簡単なものだ。ハアハア言いながら白い身をほおばる。すかさすビール。うまい。Tクンはお返しにと、タマゴを5~6個つかったタマゴ焼きなんぞつくってくれる。
「1ダースづつしか売ってないので、移動するときに困るんですよね」
 と今日中に使い切るようだ。昨日もタマゴを結構食べたらしい。自分にも覚えがあるので、ははと笑う。
 タコもうまいし、ピーマンもなかなかのものだ。
 午後8時くらいに、港から花火があがる。島の丘陵を通して、1円玉ほどの大きさにぱっと花が咲くのが見える。見当をつけていた場所よりも、ずいぶんと左寄りに港があるのが不思議だ。昨日と同じ、空には満天の星。午後11時前には寝る。


天売島。オロロン鳥の見える展望台。
Tくんと。