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先生(3) 僕の進路

2005年08月24日 01時21分11秒 | Weblog
今の僕の仕事を勧めてくれたのは先生である。職業の選択に後悔はしていない、むしろ幸運だったと先生に感謝している。
社会人なって僕が頑張っているとき、時々先生が職場を訪ねてきてくれた。いつもケーキとか和菓子を持って。かわいらしい”おじいちゃん”になっていた。
しばらく会わないなと思っていると、奥様から自宅に来てくれと電話がかかってきた。ご自宅に行ってみると、意識ははっきりして、言葉も話せるのだけど、布団から出ることができなく、全く動けない状態になっていた。ついに・・きた。病気で寝たきりになったらしい.奥様が席を外され、先生と僕の二人っきりになったので、昔の話を先生にしてみた。よく覚えていてくれて、「あのころは楽しかった」と言ってくれる。素敵な中年からこんなおじいちゃんになってしまって、なんだか辛かった。二人っきりなので、そっと布団の中に手を入れて、先生の手を握ると、ぎゅっと握りかえしてきた。そしてしばらくお互い見つめあっていた。と、そこへ、奥様が部屋に入ってきた。すーっと手を引いたが、奥様は何か感じたと思う。というよりも前から気づいていたような気がする。
年末になり、なんだか先生のことが気になり、ご自宅に電話をしてみると、奥様から「亡くなりました」と告げられる。告別式には行けなかった。なんだか奥様の復讐のような気もする。ご仏前に参りたく、すぐご自宅に行くと、まず応接間に通された。30年前に通された応接間と同じ応接間。当時、豪華なシャンデリア、ピアノ、絵画、ふかふか絨毯があったこの応接間に、こんなの、テレビでしか見たことないな、すごーと感心した応接間。その応接間も調度品が変わることなく、同じまま、古びれてしまっていた。先生もあの当時が人生の頂点だったのかなと思ってしまう。応接間も先生もそして僕も30年が経ってしまったのだ。応接間の隣の部屋に確か仏間があった。一度だけ見たことがある。その隣の部屋に通されると仏壇と先生の遺影が置いてあった。先生はもう写真の人、何もしゃべらない。これで先生と僕の秘密は永遠に消え去ってしまったと感じる。いろんな約束もすべて消え去ってしまった。線香に火をつけ、心の中で「安らかにお休みください」と唱えた。

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