日本ではクラウドサービスはあまり成功した事例はないね。今後もないだろう。
これは著作権法や放送権の侵害に当たる可能性が高いからだ。
一方海外では Youtube から、Napstar まで、成功したり、失敗したサービスも多くあるが、多くはコンシューマ(一般利用者)が便利なので爆発的に巨大化したサービスである。 Google もはじめは1台のサーバから生まれたのだ。
一般ユーザをひきつけてしまい、これは便利で面白いとなると、資本が集まり余剰の設備やサービスをクラウドとして貸し出す余裕ができる。
Google Apps などはその一つだ。
それでは一般コンシューマをひきつけるコンテンツとは何だ。それはずばり「娯楽性」である。音楽、映像、テレビ、本などを「どこでも」楽しめる。「ロケーションフリー」を実現するのが個人向けのクラウドサービスの始まりなのだ。
ところがこの「ロケーションフリー」というサービスは「第三者が関わると違法」という判例がいくつか出てしまったことは残念で仕方がない。
MYUTA 事件
音楽ストレージサービス「MYUTA」に著作権侵害の判決
-JASRAC「音楽転送でもサービス提供者に責任」
CDの音楽を簡単に着メロに変換して顧客の携帯電話で聞けるようなサービスだ。これは個対個のサービスで私的複製の範囲内だろと言えるのだが、その行為を第三者が行い、通信手段でユーザに提供するという点でアウトになってしまった。
「自炊代行」
同様に「自炊代行」と呼ばれる電子書籍作成代行サービスも次々と閉鎖されている。
自宅にある莫大な蔵書を電子化してくれるすばらしいサービスなんだが、このサービスも日本では限りなく黒に近いグレーとして廃業が続いている。子供のころ集めた膨大なマンガのコレクションを捨てる前にスキャンするには自分で行うしか方法はない。
国会図書館の職員がこれやってみろ。笑えるぞ。
何しろ業者が代行したら違法だからな。
クラウドに保存した本を、自宅に帰らなくても、出張中でも電車の中で重いかばんから出さなくても読み続けることができるというのはとても魅力的だな。読みかけの本を忘れても、手持ちのタブレットで続きが読める。
まねきTV事件
NAVERまとめ『まねきTV』事件
ロケーションフリーのTVチューナーを預かり、海外赴任したり旅行先でも見慣れたテレビドラマを見れるというサービスだ。ロケーションフリーの端末自体は、顧客が購入したものなのだが、第三者の通信線を使って「送信行為」を行うという点でアウトの判決となった。
実は Evernote まっている。これはメモや作成中の文書を Evernote に作っておくと、自動的(定期的)にアップロードされ、 iPad や ブラウザなどからも自由に再編集が出来るというロケーションフリーの優れものだ。この文章も Evernote を使って書いている。
しかしこのサービスは日本では実施できない。なぜならアップロードできるのはテキストデータだけではなく「ファイル」であれば何でもOKだからだ。またこのソフトウェアには「共有」という機能があり、これは他人との「共同作業」を目的としたものだが、ありとあらゆるファイルを「共有」して作業できるため、日本では完全にブラックだ。試しにMP3をアップして「共有」したら、ちゃんとブラウザで音楽が聴けた。
つまり「誰でもアクセスできる状態にした」という時点でアウトだ。
フェアユース
米国では「フェアユース」という考え方があり、公衆にとって有益な情報であれば著作者には無断で利用してもかまわないという、ひとつのルールがある。ただし、著しく権利者の不利益な利用方法であれば、裁判によって和解したり、賠償金を支払う、あるいはフェアユースに従った正しい利用方法をしっかりした体制を守るというルールだ。
例えば、おばさんコーラスグループで楽譜をコピーしてメンバーに配ったとする。これは完全に日本の著作権法ではアウトだ。メンバーは全て高価な楽譜を購入すしなければならない。フェアユースの考え方では、このおばさんコーラスグループが自費で老人ホームや福祉施設でボランティア活動として行う行為であればフェアユースの観点からしてセーフという考え方もできるのだろう。仮に彼女たちが、わずかな額の入場料をとってまれにコンサートホールで発表会を行ったとしても、そこで話し合いによって権利者の権利にふさわしい額を支払えば、フェアユースの観点から問題はそれほどじゃない。
「まぁ話し合って決めよう」というのが訴訟社会のアメリカ流なのかもしれない。
※フェアユースの考え方にはさまざまなものがあるので、必ずしもこれで正しいかどうかはわからんが。
日本ではどのようにすばらしい曲であっても他人と「共有」する行為は×だ。
極端な話、カーステレオでガンガン音楽をかけて路上を走っても「演奏権の侵害」である。
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このような著作権、放送権のあり方により、日本の消費者向けクラウド産業は発展することはないだろうな。どちらかと言うと、企業向けの国内需要を満たすだけのサービスしか生まれない。大手企業が行う場合はそれなりのマーケティングや法律対策を行うため、まず問題になることはないが、「こんなのあったら良いな」という小技の利くサービスは、個人やベンチャーが大手のできないニッチな豊かな発想で行うもので、私たちの文化のあり方はこういったベンチャービジネスの芽をつぶしている。
また、日本のクラウド産業が「日本語」でしか提供されていないことも大きな問題だろう。少なくともブラウザの言語設定に合わせて、最低日本語か英語の表示を使わない限り、まず海外では使えない「ガラパゴスクラウド」しか提供できないだろう。一時話題になった mixi も日本語のサービスしかやっていない点で、もう限界に来ている。
今後のクラウドのよさはロケーションフリーを提供することだ。またビジネスの論理として、余剰な資源があって初めてサービスの拡大ができるのであって、顧客がいないパブリッククラウドはいずれ淘汰されるだろう。そのためにはいかに、莫大な利用者を確保するかが問題なのだ。
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日本で「クラウド型サービスは違法」は本当か? 福井健策弁護士に聞く「クラウド」と「著作権」
だから、もしオレがすばらしいアイディアを持っててなんかビジネスをはじめるとしたら、間違えなく、海外にペーパーカンパニー作って、ロシアあたりのサーバー借りて、日本向けにサービスを始めるしかないだろう。もちろん税金は、ペーパーカンパニーのある国に支払う。タックスヘイブンの国だったら、儲かって仕方がないかも知れない。おまけに、Amazon Japan のように「データの販売」には消費税がかからないから、ユーザは安くサービスを受けられる。まぁ法律のアナなんだろう。データを「どこで消費するか」は全く消費税の観点からはわからんのだ。