貧乏人・島謙作

ただの貧乏人です

京急野比でタクシーに出る”お化け”

2018-10-18 14:40:52 | 日記
京急野比でタクシーに出る”お化け”

先日、ブックオフの100円コーナーでタクシー運転手の裏話の本を買った。それで思い出した話である。

島謙作は京浜急行の「野比駅」が最寄り駅の客のところに通っていた頃がある。

野比と言えば「YRP」、俗に”(Y)ヨコスカ・(R)リサーチ・(P)プリズン”と呼ばれたれるITエンジニアが「逝ったら最後、出られない」施設がある事で業界に恐れられる有名なところだ。

もっとも、まだ当時は携帯電話がポピュラーではなかったので、プリズンはまだ建設中で、その更に奥にある日本の通信産業を独占する「研究所」の方が謙作の客先だった。

この「研究所」は山の上で見晴らしがよく、天気が良ければ東京湾と相模湾が良く見える。潮風に晒された鉄筋12階建てのサビサビの建屋の屋上からの眺めは、この世との最後の夜景の眺めとしては非常に良かったのだろう。

アカプルコと間違えて、相模湾にダイブしようとして距離を測り誤り、その手前の地面に突き刺さって、この世の終わりを迎えたITエンジニアは数知れない。

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不思議な事に、この「研究所」、行くときはバス便が多いのだが、帰りのバス便が奇妙に少ない。

という事で、「逝ったきり還ってこれないITエンジニアのブラックホール」として有名なところだ。地下には霊安所とか人体実験施設があるらしいとのウワサだ。

この「研究所」は昼間でも山の上の森の中に燦然と輝く「ウルトラ警備隊の秘密研究所」の様な妖しい雰囲気を漂わせ、夜になると、真っ暗な山の中で煌々と照明が輝き、「誰も脱走は許さんカンね」という妖気を含んだ明かりを四方八方にまき散らし、いかにも「三浦半島のミステリースポット」「よく"出る"トコロ」としての存在感を示したものである。

島謙作は、ITインフラエンジニアとしてルーティンな仕事を終えて暗くなった夜、絶対にこの時間にはやってこないであろうバスを待とうかと思って、真っ暗闇の魑魅魍魎が跋扈する中、時刻表を見た。見るだけ無駄だった。最終バスは逝った跡だった。

仕方ない、待合のタクシーだ。チンケな私鉄の京急野比の駅前には何にもないから久里浜で JR の初乗り料金はらえば...... まだ当時は分倍河原に自動改札がなかった事は口に出せない..... 久里浜でラーメンでも食って JR で帰ろうとして、謙作は怪しい暗闇の百鬼夜行の中、2,3台止まっているタクシープールに手を振りタクシーを呼んだ。

なぜか、タクシーの運転手は謙作の顔を見て
「あれ?」
という顔をした。そういう謙作も
「あれ、行きも運転手さんでしたね」

と業務上の偶然の再開を喜んだ。

野比と違って久里浜までは20分くらいかかる。そこで、運転手さんに前から気になったことを聞いてみた。

「あんな夜中の妖しく暗いところで客待ちしていると”出ませんか”?」
「出るって?」
「あ、いや、その、”お化け”ですよ」

そう聞くと、かの運転手氏、水木しげるの描く首の後ろに口でもあるんじゃないかという悪妖怪のようにニヒルにバックミラーの中で口元を引きつらせながらギロリとこう言った。

「出ますよ。ってか、こないだ”お化け”乗せましたもん」

「え”っ...........」

何のことはない、タクシー業界では、俗に「マンコロ・マンシュウ」と呼ばれる1万円コースの更に長距離のデカい客の事を拾う事を

「お化け」

と言うのだそうだ。

深夜の野比のミステリーゾーンで、その”お化け”は馬鹿でかい猫の死体くらいは言ってんじゃない?という箱を抱えて後部座席に乗り込んだのだそうな。こんな不気味な箱を車内に持ち込まれて気味悪がった運転手氏

「トランクに入れましょうか」

と聞くと

「身から離さず膝の上に乗せて運べと言われてますもんで、ゆっくり走って下さい」

との事である。足元を見ると、どうやら膝の上どころかその下の足もちゃんとついているらしい。かの運転手氏、不審に思って、行先を聞くと

「東海村」

というリクエストがあったのだそうだ。

「出たぁお化けだぁ」

来る者には出るのですね、お化け。三浦半島の先っちょから、茨城の田舎まで、軽く3~4マンシュウの距離である。

まぁたまには、マンコロコースで「足のない”お化け”」も出るそうで、メーターが運転手にとって都合よくいい塩梅に上がってくると「コンビニに止めてくれ」と言ったままトイレから筒抜けする、要は「お足代のないお化け」が一番困るのだそうだ。

とても面白い20分間を過ごし、3000円支払っておつりを「コーヒー代」として残して、まだシャッターが開いている明るくて平和な現世の文明のある久里浜の駅前をコートの裾をはためかせて、今日も島謙作は一日の任務を完了させたのである。
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