小さな旅

　毎朝歩くのはいいのだが、通勤ウォーキングという性格から出発地と目的地が変わらない。頑張ったところで、せいぜいが途中下車する駅を変えるくらいなのだが、これとて一駅前後させるくらいが関の山だし、そもそも一駅近くにしてしまうことになっては本末転倒というものである。一方で、毎日毎日同じコースを歩いていたのでは飽きてしまい、だんだんウォーキングをさぼるということにもなりかねない。ともあれ、自分自身が飽きっぽい性格なのは十分自覚をしているから、何とかしなくてはならないということで、まずはポケットマップを購入した。ポケットと言っても少し厚めの文庫本という感じなので本当のポケットに入れて歩くわけではないが、これさえあれば出勤途中に迷子にはなるというようみっともないことにならないで済む。まあ、ある種のお守りと言っていいだろう。これを鞄の中に入れておいて、ウォーキング途中で毎日ちょっとだけ違う角を曲がってみることにしたのである。もちろん、そうそうたくさんの経路があるわけでもないし、どっちにしたって新宿区内なのだから、突然森や滝が現れたりするわけもない。それでもほんのちょっと景色が変わるだけで、結構な気分転換にはなるのである。おかげさまで、ここまで３か月、何とかウォーキングを続けてこれている。
　冒頭の写真は、そんな小さな旅の途中に見かけた梅の花である。北新宿にある成子天神はそれほど大きな境内を持っているわけではないが、それでもやっぱり天神様なので梅の木がいくつも植えられており、今月の初旬くらいから咲き始めている。紅梅も白梅もあるけれど、どちらがきれいなのかは好みの問題であろう。ただ、今はもう高層ビルやマンションにすっかり取り囲まれてしまった天神様の庭で、ビルの隙間からこぼれてくる太陽の光を頼りに咲いている梅の花はどれも健気で誇り高いように見えるのである。そんな梅の花を見ていると、街が大きく変貌していく中にあって、毎年変わらずに咲き続けていることは、それだけで大きな価値があるのだろうなと感慨にふけってしまう。
　もう20年近く新宿で働いてきたのに、ここの梅が咲いているのを見たのは初めて。小さな旅には小さな幸せが付いているのである。