マルクスは資本主義を分析し、その結果を『資本論』で著すことで、資本主義が矛盾を内包していることを明らかにしました。この本は第3部にわたる膨大な著作であり、ふつうの人が全部を読破するには半年くらい、もしくはそれ以上かかるようなので、この本にまじめに取り組むには、時間がある人でないとむずかしいでしょう。というわけで、ここで資本論において述べられた彼の論理のさわりの部分をものすごく簡単に要約してみますね。
資本家(企業経営者)は労働者を雇い働いてもらって賃金を与えるわけですが、労働者が受け取る賃金は、彼が働くことによって作り出されたモノの価値よりも少なくします。そうすると労働者が働くことによって資本家が得られる富は、労働者自身が手に入れる賃金よりも多くなります。これを「剰余価値」と言います。(労働力が生み出した価値-不当に低く抑えられた労賃=剰余価値)そしてこの剰余価値を資本家が手に入れます。この剰余価値が蓄積されていくことで、資本家は労働者への賃金として投資した資金を回収し、しだいに剰余価値が時間とともに蓄積されることによって、資本そのものを増殖させていこうとします。労働者に対してお金を払うこと(資本の労働者への投下)で、最終的には払った額よりも多くのリターンを得ることができるようになります。このことを、マルクスは「資本家は労働者を搾取している」と表現しました。 資本家が剰余価値の追求、つまりお金儲けを追求していくことによって、労働者が働けば働くほど資本が自己増殖し、資本家の懐が豊かになっていきます。逆に労働者自身は働けば働くほど搾取されていき、生活が苦しくなっていきます。これがすなわち資本主義の矛盾です。この矛盾により、資本家階級と労働者階級との間で階級闘争が起こり、最終的に労働者階級による革命(プロレタリア大革命などと言ったりします)によって資本主義は崩壊する、とマルクスは述べました。
一見、労働者階級への応援歌のように見えたマルクス主義が、こと悪しざまに言われるようになったのは、どうやらマルクス自身が原因ではなく、のちにマルクス-レーニン主義を標榜し「社会主義国家設立のために」などと唱えて悪逆非道の限りを尽くしたソビエト共産党のヨシフ・スターリンであったようです。彼はロシアの広大な大地を共産党一党独裁体制で支配すべく、自らに対立する大量の政敵を「粛清」していきました。スターリンが処刑してきた人間は50万人とも700万人ともいわれ、今だにはっきりしないまま、論争が続いているようです・・・。
私の記憶が確かならば、マルクス自身が「私はマルクス主義者ではない」と言ったとされています。真偽のほどはわかりませんが、これがもし本当に彼の言葉なら、彼自身の、終わりのない学問研究に対する大いなる情熱をうかがい知ることができる、とてもいい言葉だと思います。マルクス本人は日々ロンドンにある大英図書館に通いづめ、哲学や経済学などの諸学問を地道に研究していた一人の優秀な学者でありました。そのような生真面目な学者であったマルクスにとって、自分の学問上の業績が独裁者によっていいように利用され、数百万人の死者を出すことなど、想定の範囲外だったのでは、と察します。ともあれ、死後120年余りたった今の日本で、再び注目されることになろうとは。。。アメリカ発の熾烈な資本主義体制が、今まさに崩壊しようとしているこの時を、マルクスはどう思っているのでしょうか。。。今頃墓の下で、立派にたくわえたあごひげを触りながら、「ほれ、見たことか」などと、ご満悦の表情を浮かべているかもしれません。。。
