リートリンの覚書

古事記 上つ巻 現代語訳 三十八 須勢理毘売命の嫉妬 八千矛神の歌


古事記 上つ巻 現代語訳 三十八


古事記 上つ巻

須勢理毘売命の嫉妬
八千矛神の歌


書き下し文


 また其の神の適后須勢理毘売命、いたく嫉妬為たまふ。故其の日子遅神和備弖、出雲より倭国に上り坐さむとして、束装し立たす時に、片御手は御馬の鞍に繁け、片御足は其の御鐙に蹈み入れて、歌ひ曰りたまはく、

ぬばたまの 黒き御衣を
まつぶさに 取り装ひ
沖つ鳥 胸見る時
はたたぎも これは適さず
辺つ波 背に脱き棄て
鴗鳥の 青き御衣を
まつぶさに 取り装ひ
沖つ鳥 胸見る時
はたたぎも こも適はず
辺つ波 背に脱き棄て
山県に 蒔きし あたたで舂き
染木が汁に 染め衣を
まつぶさに 取り装ひ
沖つ鳥 胸見る時
はたたぎも 此しよろし
いとこやの 妹の命
群鳥の 吾が群れ往なば
引け鳥の 吾が引け往なば
泣かじとは 汝は言ふとも
山処の 一本薄
項傾し 汝が泣かさまく
朝雨の 霧に立たむぞ
若草の 妻の命
事の 語りごとも こをば


現代語訳


 また其の神の適后(おほぎさき)須勢理毘売命(すせりびめのみこと)は、いたく嫉妬深くいらっしゃりました。故に、その日子遅神(ひこぢのかみ)が和備弖(わびて)、出雲より倭国(やまとのくに)に上りまいろうとして、束装(よそひ)し出立した時に、片方の御手は、御馬の鞍にかけ、片方の御足は、その御鐙(みあぶみ)に蹈み入れて、歌いいうことには、

ぬばたまの 黒き御衣(みけし)を
まつぶさに 取り装い
沖つ鳥が 胸見る時
はたたぎも これは適(ふさ)はず
浜辺の波 背(せ)に脱ぎ棄て
鴗鳥(そにどり)の 青き御衣を
まつぶさに 取り装い
沖つ鳥が 胸見る時
はたたぎも これは適はず
浜辺の波 背に脱き棄て
やまあがたに 蒔きし 異蓼(あたたで)を舂き
染木(そめき)が汁に 染め衣を
まつぶさに 取り装ひ
沖つ鳥が 胸見る時に
はたたぎも これはよろし
いとこやの 妹の命(みこと)
群鳥(むらどり)の 吾が群れ往なば
引け鳥の 吾が引け往なば
泣かじとは 汝はいっても
山処(やまと)の 一本薄 (ひともとすすき)
項傾し(うなかぶし) 汝が泣かれるとは
朝雨(あさあめ)の 霧が立つだろう
若草の 妻(つま)の命

事の 語りごとも こをば



・適后(おほぎさき)
正妻。本妻。正室
・日子遅神(ひこぢのかみ)
夫の神。八千矛神=大国主神
和備弖(わびて)
=わ・びる(侘・詫)
困惑の気持を外に表わす。迷惑がる。また、あれこれと思いわずらう。
・御鐙(みあぶみ)
騎乗時に足をのせる馬具の一種
・ぬばたまの
「ぬばたま」のように黒い意から、「黒」「夜」「夕」「髪」にかかる枕詞
・御衣(みけし)
着る人を敬って、その衣服をいう語
・まつぶさ
1・全てがもれなくそろっているさま。完全なさま。十分なさま。2・詳細なさま
・鴗鳥(そにどり)
1・カワセミの別名。カワセミの羽が青いところから「青し」にかかるる枕詞
・やまあがた
「あがた」は山地の畑
・異蓼(あたたで)
上代に染料を製した植物の一つ
・染木(そめき)
1・染色に用いる草木
・群鳥(むらどり)
群がり集まった鳥
・山処(やまと)
山のあたり。山
・項傾し(うなかぶし)
首をたれて。うなだれて
・若草の
若草が柔らかくみずみずしいところから、「つま(妻・夫)」に「新(にひ)」にかかる枕詞


現代語訳(ゆる~っと訳)


 また、
この神の正妻・須勢理毘売命は、
大変嫉妬深い女神でした。

こういうわけで、
その夫の神は思いわずらい、

出雲からやまとのくにへ、
移動しようと、

旅支度をして、
出発する時に、

片方の手を、
馬の鞍にかけ、

片方の足を、
あぶみに踏み入れて、
歌いいうことには、

ぬばたまの
黒き衣装を完全に装い

沖の水鳥がするように
胸元を見た時

パタパタと羽ばたきするように
確認してみたが 
これは似合わない

浜辺の波が返るように 
背後に脱ぎ棄て

そにどりの 
青き衣装を完全に装い

沖の水鳥がするように 
胸元を見た時

パタパタと羽ばたきするように
確認してみたが
これは似合わない

浜辺の波が返るように
背後に脱ぎ棄て

山地の畑に蒔いた
藍蓼(あいたで)を舂(つ)き
その染色に用いる草木の汁で
染めた衣装を

・藍蓼(あいたで)
藍染めに使われてきた植物

完全に装い

沖の水鳥がするように
胸元を見た時

パタパタと羽ばたきするように
確認してみたが

これは似合っている

愛しい 妻の命(みこと)よ

群がり集まった鳥ように
私が従者と共に去ってしまったなら

引き去る鳥のように
私がここを去ったなら

泣きはしないと 
あなたが言ったとしても

山の一本すすきのように

うなだれて
あなたは泣いてしまうだろう

朝の雨が、
悲しみの霧となって立つだろう

若草の妻(つま)の命よ

これを、事の伝え語る言葉にしましょう

続きます。

読んでいただき
ありがとうございました。







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