古事記 上つ巻 現代語訳 二十八
古事記 上つ巻
八岐大蛇
書き下し文
尓して速須佐之男命、湯津爪櫛に其の童女を取り成して、御美豆良に刺して、其の足名椎・手名椎神に告りたまはく、「汝等、八塩折の酒を醸み、また垣を作り廻し、その垣に八門を作り、門毎に八佐受岐を結ひ、其の佐受岐毎に酒船を置きて、船毎に其の八塩折の酒を成りて待て」とのりたまふ。故、告りたまへる随にして、かく設け備へ待つ時に、其の八俣遠呂智、信に言の如く来ぬ。船毎に己が頭を垂れ入れ、其の酒を飲む。是に飲み酔ひ留まり伏し寝き。尓して速須佐之男命、其の御佩せる十拳剣を抜き、其の蛇を切り散りたまひしかば、肥河血に変りて流る。故、其の中の尾を切りたまふ時に、御刀の刃毀けぬ。尓して怪しと思ほし、御刀の前以ち刺し割きて見そこなはせば、都牟刈の大刀在り。故、此の大刀を取りて、異しき物と思ほして、天照大御神に白し上げたまふ。是は草那芸之大刀なり。
現代語訳
しかして、速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)は、その童女(おとめ)を湯津爪櫛(ゆつのつまくし)に取り成し(とりなし)て、御美豆良(みみずら)に刺して、その足名椎(あしなづちのかみ)・手名椎神(てなづちのかみ)に、「汝等は、八塩折(やしおり)の酒を醸(か)み、また垣を作り廻し、その垣に八つの門を作り、門ごとに八つの佐受岐(さずき)を結い、その佐受岐ごとに酒船(さかぶね)を置いて、船ごとに、その八塩折の酒をもって待つように」とおっしゃりました。故に、命令にしたがって、かく設け備えて待つ時に、その八俣遠呂智(やまたのおろち)が、まことに言葉の如く来ました。船ごとに己の頭を垂れ入れて、その酒を飲みました。ここに、飲んで酔って留まり伏して寝ました。尓して速須佐之男命は、その御佩(みはか)せる十拳剣を抜き、その蛇を切り散りにすると、肥河(ひのかわ)が血に変わって流れました。故に、その中の尾を切りになられた時に、御刀(みはかし)が刃毀(はこぼれ)ました。
尓して怪しと思い、御刀のさきで刺し割って見ると、都牟刈の大刀(つむがりのたち)が在りました。故に、この大刀を取って、異しき物と思い、天照大御神に申し奉りました。これは草那芸之大刀(くさなぎのたち)です。
・湯津爪櫛(ゆつのつまくし)
ゆつは、神聖なという意味。つまぐしは、歯の多い、目のつまった櫛。一説には、爪形の櫛
・取り成し(とりなし)
手に取って別の物に変える
・御美豆良(みみずら)
上代の男子の結髪の一つ。頭髪を頭の中央で左右に分けて垂らし、耳のあたりで上下に8の字形に輪をつくり、中心を結んだもの
・八塩折(やしおり)
幾回も繰り返し精製すること
・醸み(かみ)
酒は、古く、生米をかんで唾液とともに吐き出し、発酵させて造ったところから、酒を造る。かもす
・佐受岐(さずき)
桟敷(さじき)の古称。材木を綱で結んで仮に作った床または棚
・酒船(さかぶね)
酒を入れておく大きな木製の容器
・御佩(みはか)
身にお着けになる。腰にお差しになる
現代語訳(ゆる~っと訳)
すると速須佐之男命は、
その娘を湯津爪櫛に変えて、
髪にさして、
そして足名椎・手名椎神に、
「お前たちは、
何度も繰り返し醸した濃い酒を作るように。
また、垣を作り廻らせて、
その垣に八つの門を作り、
その門の入り口ごとに、
八つの棚を作り、
その棚ごとに酒船を置いて、
酒船ごとに、
その何度も繰り返し醸した濃い酒を
置いて待つように」
といいました。
そこで、
足名椎・手名椎神は、
命令にしたがって、
そのように準備して待っていると、
ヤマタノオロチが、
まことに言葉の通りにやってきました。
酒船一つ一つに、
自分の頭を垂れ入れて、
その酒を飲みました。
ここに、
ヤマタノオロチは、
酒を飲んで酔っ払い、
その場に伏して寝てしまいました。
そこで、
速須佐之男命は、
その腰に差した十拳剣を抜き、
そのオロチを、
切って散らかすと、
肥河は血の川にとなって流れました。
そして、
その八つの尾を切った時に、
御刀が欠けてしまいました。
それを不思議に思い、
御刀の先で刺し割って見ると、
都牟刈之大刀が在りました。
そこで、
この大刀を取って、
尋常ではない物と思い、
天照大御神に申し奉り献上しました。
これは草那芸之大刀です。
続きます。
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ありがとうございました。