古事記 上つ巻 現代語訳 二十二
古事記 上つ巻
天の石屋・速須佐之男命の悪行
書き下し文
(天の石屋)尓して速須佐之男命、天照大御神に白したまはく、「我が心清く明かし。故、我が生らす子は手弱女を得つ。此れに因りて言さば、自ら我勝ちぬ」と云して、勝佐備に、天照大御神の営田の阿を離ち、其の溝を埋み、亦其の大嘗聞こし看す殿に屎麻理散らす。然為れども、天照大御神は登賀米受て告りたまはく、「屎如すは、酔ひて吐き散らすこそ我が那勢の命、それほど為つれ。また田の阿を離ち、溝を埋他のは、地を阿多良斯登許曽我が那勢の命、如此為つらめ」と詔り直したまへども、猶其の悪ぶる態止まずて転たあり。天照大御神、忌服屋に坐して、神御衣織らしめたまふ時、其の服屋の頂を穿ち、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて堕し入るる時に、天の服織女見驚きて、梭に陰上を衝きて死ぬ。
現代語訳
天の石屋
しかして、
速須佐之男命(はやすさのおのみこと)は、
天照大御神(あまてらすおおみかみ)に申し上げて、
「我が心が清い明かしです。故に、我が生んだ子は、手弱女(たおやめ)を得たのです。これによって言えば、自ずと我の勝ちです」といい、
勝佐備(かちさび)して、
天照大御神の営田(つくりた)の阿(あ)を離ち、その溝を埋め、
また、その大嘗(おほにへ)を召す殿に屎麻理(くそまり)散らしました。
しかなれども、
天照大御神はとがめずに述べられて、
「屎如(くそなす)は、酔って吐き散らかしたもので、我が那勢の命は、そのようにしたのでしょう。
また田の阿を離ち、溝を埋めたのは、地を阿多良斯登許曽(あたらしこそ)、我が那勢の命は、そのようにしたのでしょう」
と詔り直しなされたのですが、
なおも、その悪ぶる態は止まず、転たあり。
天照大御神が、忌服屋(いみはたや)にいまして、神御衣(かむみそ)をお織られていらっしゃる時に、
その服屋(はたや)の頂(むね)を穿ち、天斑馬(あめのふちこま)を逆剥ぎに剥いで、堕し入れた時に、
天の服織女(はたおりめ)が、見て驚いて、梭(ひ)で陰上(ほと)を衝いて死んでしまいました。
・手弱女(たおやめ)
たおやかな女。やさしい女
・勝佐備(かちさび)
勝利者らしくふるまうこと
・大嘗(おほにへ)
「嘗」は、営田から収穫された新穀を神に奉り神と供食する祭儀
・転たあり
ある状態が進行して甚だしくなる様
・忌服屋(いみはたや)
斎み清めた機殿。神聖な、機を織るための建物
・神御衣(かむみそ)
神の着用する衣服。また、神にささげる衣服。かんみそ
・梭(ひ)
機織で、横糸を通す器具
現代語訳(ゆる~っと)
天の石屋・速須佐之男命の悪行
そこで、
速須佐之男命は、天照大御神に申し上げて、
「私の心が清い明かしです。
ですから、私は、
たおやかな、やさしい女を成し得たのです。
これによって言えば、
自ずと私の勝ちです」といい、
勝利者らしくふるまい、
天照大御神の営む田の畦(あぜ)を壊し、
その溝を埋めました。
また、
その大嘗をする殿にうんこを散らしました。
しかし、
天照大御神はとがめずに述べられて、
「うんこのようなものは、
吐き散らかしたもので、
私の弟の命は、
そのようにしたのでしょう。
また田の畦を壊し、溝を埋めたのは、
地がもったいないから、
私の弟の命が、
そのようにしたのでしょう」と
詔り直しなされたのですが、
なおも、その悪ぶる態度は止まず、
ますますひどくなっていきました。
天照大御神が、
神聖な、機を織るための建物にいまして、
神にささげる衣服を
お織られていらっしゃる時に、
その服屋(はたや)の屋根に穴を開けて、
天斑馬の皮を逆剥ぎに剥いで、
落とし入れた時に、
天服織女は、
これを見て驚いて、
梭で陰部を衝いて死んでしまいました。