日本書紀 巻第三十
高天原廣野姫天皇 十四
・新羅の弔いの使者への詔
五月二十二日、
土師宿禰根麻呂
(はじのすくねねまろ)に命じて、
新羅の弔いの使いの
級飡(きゅうさん)の
金道那(きんどうな)等に、
詔して、
「太政官の卿等が、
奉勅(ほうちょく)し、宣して、
二年に、
田中朝臣法麻呂
(たなかあそみのりまろ)等を遣わし、
大行天皇
(さきのすめらみこと)の喪を告げた。
時に、
新羅は、
『新羅の奉勅の者は、
元來、
蘇判位(そうかんのくらい)を
用いていました。
今、また、
そのようにしたいと思っています』
と。
これによって、
法麻呂等は、
赴告(ふこく)の詔を
宣べることができなかった。
もし、前の事を言うのなら、
昔、
難波宮治天下天皇
(なにわのみやにあめのしたしたしめししすめらみこと)が
崩じた時に、
巨勢稲持(こせのいなもち)等を遣わして、
喪を告げる日に、
翳飡(えいさん)の
金春秋金春秋(きんしゅんしゅう)が
奉勅したことがあった。
蘇判をもって奉勅をするというのは、
卽ち、前の事とは違う。
また、
近江宮治天下天皇
(おうみのみやにあめのしたしたしめししすめらみこと)が
崩じた時に、
一吉飡(いつきつさん)の
金薩儒(きんさちぬ)等を遣わして
弔い奉った。
今、
級飡で弔い奉るのは、
また、前の事とは違う。
また、
新羅が元來、伝え奏するのは、
『我国は、
日本の遠い皇祖の代から、
舳(へさき)を並べ、
舵が、かわかぬように漕ぎ、
仕え奉る国」と。
今、一艘とは、
また、故(ふる)い典より
乖(そむ)いている。
また、伝え奏して、
『日本の遠い皇祖の代から、
淸白な心で仕え奉ってきました』と。
竭忠(まめこころ)をもって、
本の職(つかさ)を、
宣揚(せんよう)しようともおもわず、
淸白(せいはく)を傷つけ、
詐(いつわ)りを求め、
幸媚(こうび)している。
これゆえに、
調賦(みつき)と
別に献(たてまつ)るものを、
並びに封じて還す。
然るに、
我国家は、
遠い皇祖の代からの、
廣く汝等を慈しんだ徳は、
絶やしてはならない。
故に、
より一層勤めて、
より一層謹み、
戰々兢々、
その職任を修め、
法度(はっと)に遵(したが)い奉る者を、
天朝はまた、
廣く慈しむだろう。
汝、道那等は、
勅した所をこれ奉り、
汝の王に宣せよ」
といいました。
・級飡(きゅうさん)
新羅の官位のひとつ
・奉勅(ほうちょく)
勅命を承ること
・大行天皇(さきのすめらみこと)
天武天皇
・赴告(ふこく)
天子の死、災難などを告げ知らせる。 =訃告。死去を知らせること。死亡通知
・難波宮治天下天皇
(なにわのみやにあめのしたしたしめししすめらみこと)
孝徳天皇
・近江宮治天下天皇
(おうみのみやにあめのしたしたしめししすめらみこと)
天智天皇
・一吉飡(いつきつさん)
新羅の官位のひとつ
・舳(へさき)
船の前部。船首
・竭忠(まめこころ)
誠実な心
・宣揚(せんよう)
広く世の中にあらわすこと。盛んであることをはっきりと示すこと
・淸白(せいはく)
汚れなく清らかなこと。清く潔いこと
・幸媚(こうび)
気に入りのへつらいびと
・法度(はっと)
法令。特に、禁止のおきて。禁制
(感想)
(持統天皇3年)
5月22日、
土師宿禰根麻呂に命じて、
新羅の弔いの使者の級飡の金道那等に、
詔して、
「太政官の卿らが、
勅命を承り、宣して。
2年に、
田中朝臣法麻呂らを派遣して、
天武天皇の喪を告げた。
この時、新羅は、
『新羅の勅命を承る者は、
元来、
蘇判の位を用いていました。
今、また、
そのようにしたいと思っています』
といった。
これによって、
法麻呂らは、
天皇の崩御を告げる詔を
宣べることができなかった。
もし、
前例を言うのなら、
昔、
孝徳天皇が崩じた時に、
巨勢稲持らを派遣して、
喪を告げる日に、
翳飡の金春秋金春秋が
勅命を承ることがあった。
蘇判をもって勅命を承るというのは、
それは、前例に違反している。
また、
天智天皇が崩じた時に、
一吉飡の金薩儒らを派遣して、
弔い奉った。
今、
級飡で弔い奉るのは、
また、前例に違反している。
また、
新羅は元来、伝え奏するのは、
『我国は、
日本の遠い皇祖の代から、
船首を並べ、
舵がかわかぬように漕ぎ、
仕え奉る国」と言ってきた。
しかし、
今、一艘のみとは、
また、古い典より乖離している。
また、伝え奏する、
『日本の遠い皇祖の代から、
清白な心で仕え奉ってきました』と。
誠実な心をもち、
本来の職を
広く世の中にあらわすことを思わず、
汚れなく清らかな心を傷つけ、
いつわりを求め、
媚びてへつらっている。
こういう訳で、
調賦(みつき)と別に献上するもの、
並びに封じて還す。
然るに、
我国家は、
遠い皇祖の代からの、
広くお前たちを慈しんだ徳は、
絶やしてはならない。
こういう訳で、
より一層勤めて、より一層謹み、
恐れ戒め慎しんで、
その職責をはたし、
法令にしたがい守る者を、
天朝はまた、広く慈しむだろう。
汝、道那らは、
勅した所をこれ奉り、
汝の王に宣せよ」
といいました。
明日に続きます。
読んでいただき
ありがとうございました。
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