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伊藤英明主演、映画《悪の教典》原作を読みました。2012-10-10

2012-11-17 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品


伊藤英明主演、
映画《悪の教典》原作を読みました。
      2012-10-10


映画がどんな風に実写化されるかわかりません。
小説のネタバレを含んでいますので、ご注意くださいませ。すみません。
(記事の最後をすこし修正しました。ご了承ください)



この小説は映画化されるという話題で初めて知りました。
まだその頃、書店には分厚い単行本の上下巻が並んでいて、
これは家でないと読めないな、と買うのをあきらめました。
実はほっとしてもいたのですが。

というのは、貴志祐介さんの本はすさまじく恐ろしいので。

でも、文庫本になっていたではないですか。
買ってしまいました(笑)


貴志祐介《悪の教典》
 (文芸春秋刊)(上下とも 695円+税)


晨光学園町田高校の英語教師、蓮実聖司は生徒や同僚にも人気が高いのです。
ハンサムで覇気があって、生徒からの信望もあつい。
有能な教師なのですが、ひとつ、大きな欠陥がありました。
他者への共感がゼロ。なのですよ。
というか、蓮実にとっては他人も無機物と同じというか。

三人称の小説ではあるのですが、物語は蓮実の視点で進んでいくところが多く、
いやおうなしに蓮実のなす殺人を目撃させられることになります。

彼にとっては都合の悪い人間はささいなことであっても、
排除されるのです。
デスノートの夜神月にとっては《正義》という大儀名分のある殺人ですが、
蓮実にとってはそんなものは一切なく、
自分にとって、そのひとが存在していてもいいかどうか、
自分を脅かす存在でないかどうか、
それのみが殺人を吟味する基準になるわけですね。

上巻では彼がてきぱきと殺人を重ねてゆく、そのことにつき合わされます。
読んでいて、怖いというより、圧倒されてしまうのです。
そんなことでひとを殺してしまっていいの?という。
恐怖のつけいる隙を与えられないというか。

読んでいるうちに、少し混乱しました。
なんで怖くないのだろう、恐ろしくも感じないのだろうかと。
そこで、思ったことは、
殺される対象にたいして、蓮実が殺人に値する憎悪などを感じていないから、
また、殺されるひとがただ普通の日常を送っているだけの人間で、
そこに感情移入をする間もなく殺されてしまうから。
そういうことなのじゃないかと思いました。

あまりにも学校関係者で事故死する人間が多いため、
3人の生徒が蓮実に疑いの目をむけるようになります。
蓮実の前任校での生徒の連続自殺に不審を抱き、調べ始めるのですが・・・。

女生徒のひとりを愛人というかセフレにする蓮実。
男子生徒と同性愛関係を結んでいる同僚教師を強請る蓮実。
蓮実によって教師にたいして抱いていたイメージは根底から覆されます。

なにか校長の弱みを握っているため学校に勤めていられる釣井教諭も
蓮実を疑いはじめるのですが、蓮実の前に釣は無力でした。
しかし、この釣井という無気力な教師は蓮実と対照的な、激情にかられる人物で、
この釣井の視点で過去が語られる部分では戦慄を覚えます。
私は蓮実が恐ろしい小説を読んでいるけど怖くないなこれは。とたかをくくっていたので、
この釣井の独白というか回想は怖くて、悪夢を見ませんようにと願ったくらいです。

後編になって、物語は恐ろしい展開を見せ始めます。
セフレである女子生徒がジャマになった蓮実は彼女をどうにかしようと考えます。
学校では泊りがけで文化祭の準備が行われていました。
そして、蓮実にとって都合の悪い事が重なり、
蓮実は生徒たちをひとりも帰してはならない、という結論に至ります。
ここから片っ端から蓮実が生徒を殺していく、という地獄図となるのです・・・。

読み終わる頃、私は悲しくて悲しくてなりませんでした。
追い詰められてゆく生徒達が危険に瀕したとき、
彼女彼らの視点から地獄絵図が語られるからです。
彼ら彼女らが愛しくてせつなくて、悲しくて、
蓮実への憎悪が募りました。

よく、犯人への共感を覚えたりするではないですか。
なんとか助からないかな、こんなひとでも、などと。
でもこれはもうね、生徒達に頑張れ!ハスミンに見つかるな!と
祈っていました。
ああ、悲しい。

この小説の恐ろしさは、
この小説の結末にあります。
これはここまでしか言えないのですが、
原作をお読みになるか、映画をご覧になるかして、
どうぞ、味わってください。(丸投げしましたけど^^)

(追記)

蓮実の過去には殺せなかった人間がひとりだけいます。
それがどういう人だったのか、
その話はせつないものでした。
すべての他人に共感できず、
殺人をもって、自分のまわりからわずかの障害でも排除しようとする蓮実にも、
にんげんらしい一片の感情は残っていたのではないか、と
思うくだりがあります。
でも、蓮実にはそれが愛情であるとは理解できないでいます。
この欠落は家庭環境によるものでしょうか。
その家庭ですら彼を救えなかったというか、
罪におしやってしまうとは。
やはり彼はサイコパス。
決して彼が関わってはいけない《学校》というものに、
関わってしまったのが周囲にとっての悲劇でした。

主人公にまったく感情移入できないのに、なぜ上下巻を読んでしまうのか。
それは作者の筆力によるものは自明の理ではありますが、
きっと不条理な存在であっても、ついには理解できるだろう、という、
希望(期待)のゆえではないかと思うのです。

巻末にあっと驚く恐怖と拍子抜け?な番外編、
三池崇史監督のあとがきがあります。
そちらもお楽しみに。


**************************************

いやあ、もう、映画の主人公に伊藤英明さん、と聞いて予告編を見てから、
この本を買って、
脳内で伊藤さんが殺人しまくりですよ(笑)
でも、本当に、伊藤さんにぴったりな役だなあと思います。
海猿フリークの方には悪いですけど。
伊藤さん、よかったですよね。
正義の味方のイメージ固定化したら、しんどいですもんね。

というわけで、最後に、映画の予告編を貼っておきます。




あの子をあのひとが演じてて、殺されちゃうとわかってるのはつらいなあ

映画の公式サイトはこちらから


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