今頃の時分
あの夜は満月に近かった。
中空に浮かぶ月の周りにこれまで見たことない非常に大きな円環が霞雲に反射していた。
大きな号のカンバスに描く時は筆の穂先から離れた位置に指を絡め、構図のバランスを取る。
指と言うよりは体全体で描く感じか。
ツレにはその腕をぐるりと一周させて大きい円環を描いた作品がある。
まるで月に腕があってぐるりと一周させたような円環だった。
ずっと井上陽水さんの笑う月を聴き続けていた。
いつもの夜だと信じないと、あまりにも深い傷の痛さに気が付いてしまいそうで。
横たわるツレの手を握った時、閉じた瞼からドライアイスの加減か、はらはらと涙が流れて止まらなかったことも。
ワスレナイ。
ワスレナイ。
月になって慰めてくれたこと
桜を散らして慟哭したこと
ありがとね

白い聖域に私も命を吹き込めるのかな。