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「信号は、なぜあるの?」

2008年11月24日 | エトセトラ
平成4年11月11日午前8時。
東京都八王子市上川橋(かみかわばし)交差点で、とても痛ましい交通事故が起きました。

妹と一緒に登校中の小学校5年生、長谷元喜(はせげんき)君が、青信号で横断中、同じ青信号で背後から左折してきた8トンのダンプカーに巻き込まれてしまったのです。

病院事務の勤務先から駆けつけた父親の智喜(ともき)さんは、交差点のかたわらで毛布にスッポリと覆われたものを見て、事故の重大さを悟りました。救急車に乗せてもらえなかったということは・・・。
明らかな即死でした。

友達に抱きかかえられている奥さんの手にはしっかりと、保険証が握られていました。
毛布をめくってみようとすると、目を真っ赤にした警察官が止めました。
「お父さん!見ないほうがいい!」
奥さんの絞り出すようなつぶやきが聴こえました。
「この子はちゃんと・・・青信号で渡っていたのよ!」

元喜君は元々、とても慎重で用心深い性格でした。
親に教えられ、学校で習った通りの方法で青信号を渡りながら、命を落としてしまったのです。
「何の落ち度もないのに、命を奪われたのは何故なんだ!」
父親の智喜さんは、やり場のない怒りにふるえました。
無線の交信に夢中で方向指示器も出さずに左折してきた運転手。
業務上過失致死罪に与えられた罰は、たった10ヶ月の服役でした。
それでも長いといって控訴した加害者を、いくら憎んだとしても元喜君は、もう帰ってきません。

智喜さんの意識は、憎しみとは違う方向へ向かいました。
そのための勇気を与えてくれたのは、肩ベルトが引きちぎられた元喜君のランドセルの中から見つかったカードでした。
授業の中で作っていた手書きの「なぞなぞカード」・・・。

「教室のカーテンは何色?」「ドラえもんは、どこから来たの?」
といった質問の中に、こんな一枚がありました。
「信号は、なぜあるの?」
答えは、こう書かれていました。
(信号がないと、交通事故にあうから)
智喜さんは、思いました。
「息子は今ごろ天国で、ウソだ!と、叫んでいるだろう。
信号があっても事故は起きた! ボクは死んでしまった・・・」と。



父親の新しい戦いが始まりました。
「歩行者が渡っている横断歩道へ、左折車や右折車が流れ込む信号のシステムが間違っている!」
このことを訴えるためのパネル展、勉強会、講演会、署名運動。
長谷智喜さんが訴えているのは、車の渋滞緩和のために考え出されたスクランブル交差点ではありません。
交差点の歩行者用信号が青のときは、全方向の車の信号は赤。
車の信号が青のときは、全ての横断歩道が赤。
歩行者と車とをスッキリ分けた「歩車(ほしゃ)分離信号」のシステムなのです。

イギリスではすでに常識となっている「歩車分離信号」。
けれども、日本での普及率は、たったの2%。これが現状です。
警察庁、国土交通省、文部科学省・・・様々な関係省庁への地道な働きかけは、ほんの少しずつですが、功を奏しています。

どんなに注意をしても、交通安全意識を高めても、歩行者と車が、横断歩道を共用している限り、事故は起きる。
智喜さんの胸の中には、今日も元喜君の問いかけが聴こえます。
「信号は、なぜあるの?」



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