見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

わがままなペペロンチーノ

2007-10-05 07:35:48 | 欧州
一般的にローマのレストランでは、①スターター(前菜)②第一の皿(パスタの選択肢も)③第二の皿(肉料理中心)④サイド・オーダー⑤デザート⑥コーヒー等、などの順序でメニューが構成されている。ピツァやスパゲッティは、そのコースの中の皿の一つに過ぎない。一通りのコースと飲み物を楽しむためには、豊かな財布も必要だ。

ローマの物価は驚くほど上がっていた。通貨がリラの時代はこうじゃなかった。今はユーロが強いので、ピッツァやパスタ1つが1,650円前後のレストランばかりだ。1年前は130円代だった1ユーロが、今は160円を軽く超える。ユーロに参入してから物価は上がる一方だと地元のイタリア人は嘆くが、観光や仕事で滞在する日本人はもっとつらい。
が、本場の感動的ペペロンチーノを食べられるのであれば、値段は問わない。ペペロンチーノを食べないとイタリアの旅はスタートしないも同然なのだ。
<各種パスタで埋まるスーパー>

・・・しかし、どのレストランの入り口に掲示されているメニューを見ても、「ぺペロンチーノ」が見当たらない。カルボナーラ、ボンゴレビアンコ、ナポリターナ・・・など知った他の名前は見えるのに、だ。
通りに立つレストランの客引きに「メニューにないが、ぺペロンチーノを食べたい」と言ってみる。「OK,OK」と満面の笑顔で店先テラスのテーブルを案内される。ところが、客引きからバトンタッチした注文取り担当者は、「ペペロンチーノはない。辛いのはアラビタ、それでいいか。」とくる。イタリア人の笑顔も愛想もすばらしいが、言質はいいかげんだ。

レストラン渡り数件目にして、「メニューにないが、すぐに作れる」という注文取りがいた。そうでしょう。オリーブオイルとにんにくと唐辛子だけでできる基本中の基本のスパゲティだもの。
フォークがセットされ、グラスワインが運ばれてくる。
今度こそ。スパゲティの本場、イタリアのペペロンチーノ。
テーブルに座って、スパゲティの運ばれてくるまでのわくわくした気持ち。周囲の人々のテーブルには、彩り豊かな前菜やステーキが並ぶが、私はとにかく、シンプルなペペロンチーノ一皿だ。

待つこと20分、ウエーターがやってきて、白い皿に盛られたシンプルなスパゲティを目の前に置いた。
・・・・・・あれ?
香りがしない。オイルで熱せられたガーリックのこの上もなく芳しい香りが漂ってこない。スパゲティぎりぎりまで鼻を近づけた。ほんのり、微かにニンニクの香がした。嫌な予感を払いながら、ゆっくりとフォークで最初のパスタを口に運ぶ。
・・・う!
辛くない。いや、ほんのり、微かに辛いが、赤唐辛子特有のぴりりと舌に広がる刺激が足りない。唐辛子の赤みがほんの少しパスタに絡まっている程度だ。
・・・・・・そして、決定的だったのは、パスタの歯ごたえ。柔らかい。
どうして?!

悲しかった。特別に注文したのでいけなかったのだろうか。

翌日、気持ちを取り直し、ホステルの主人マルコが勧めるレストランに行った。「高級じゃないが味は確かなレストランだ。パスタのメニューも揃っている」とマルコはウインクしながら自信たっぷりに言った。
<エジプト人マルコ>

歩道テラスにテーブルを出し、多くの客で賑わっているその店へ行き、メニューにはないが、ペペロンチーノはできるかと聞いた。「もちろん、あなたの注文どおりのスパゲティを作るよ」とウェイターは片言の英語と笑顔で言った。そして、「一緒に来て」と店の奥の厨房まで一緒に来るようにと手招きしたのだ。
厨房の前で、ウェイターはニンニクを目の前に出した。イタリア語に片言の英語を交えて話すので明確にはわからないが、どうやら、ニンニクをどのくらい入れたいのかと聞いている。私は「とにかくたっぷり入れてください」とジェスチャーで示す。彼はうなづき、次に、厨房からビンを二つもってきた。一つには細かく粉砕された赤唐辛子、もう一つには日本の赤唐辛子の半分ほどのサイズの赤唐辛子がそのままたくさん入っていた。「どちらの唐辛子がいいか」と聞いているらしい。
私は、丸ごと唐辛子が入ったビンを指した。
ウェイターは満足そうに、そばにいたシェフにイタリア語で何か指示し、そして私にはテーブルに戻るように言った。戻り際、私は通じるかどうかわからないまま「アルデンテ(固ゆで)でお願いします」と言ってみた。シェフとウェイターは「OK,OK」と満面の笑顔で応えた。

そのようにして、その店のペペロンチーノはできあがってきた。
期待どおりだった。つるっとしたアルデンテの歯ごたえ。芳しいニンニクとオリーブオイルの香りと旨み。じんわり額に汗がにじむ赤唐辛子の辛さ。そう、これこそが食べたかったペペロンチーノ。
・・・その食感に満足しながら、ふと思った。好みを指示してつくってもらったペペロンチーノは、果たして本当の本場イタリアのペペロンチーノと言えるのだろうか。本当って何?本場って?

そして、それを最後に、ローマのレストランでペペロンチーノを注文することを諦めた。

<トマトソースも各種勢揃い>

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (uo)
2007-10-19 18:51:23
なるほど、ぺペロンチーノを求めた哀しい旅物語だったんですね。

それにしても、イタリア人て大食いですよね!

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美味しい話にならなくて (ワイン)
2007-10-19 22:07:41
全く期待外れの話ですみません。unoさんの食べたイタリア人男性のペペロンチーノを食べたいです。こんなわびしい話は、つまらないですね。でも、どうもこの旅で美味しいものにはなかなかめぐり合えないのです。期待するものほど難しい。初めての食べ物の方が意外に美味しい。その話はまた。
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