見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

自立のためのサイン・アウト(その2)

2007-09-27 22:29:38 | 欧州
わからない。どうしてわざわざ書類を出す必要があるの。神を信じる信じないは個人の自由でしょう。
「そう、でも書類を出さないと、永遠に教会に税金(tax)を払い続けることになるから」とアルト。
フィンランドでは、政府の税金や組合の費用と同じように教会が自動的に給与から収入に応じた額を「tax」として控除するという。だから、サインアウトして教会からの脱会意思を示さない限り徴収される。労働組合費のようだ。
「クリスチャンといっても、今では教会の日曜ミサに行く人も少なくなった。信心深くない人も多いけれど、税金を引かれることについては黙っている」「結婚式は教会でやりたいから、という理由で信者に留まっている人もいるしね。教会の存在の必要性は認めているという人たちも」
ますます、消極的参加理由は日本の労働組合加入に似ている。教会が所得控除をするのはフィンランドだけだろうか。
「でも、僕がサインアウトしたのは、税金にこだわったからじゃない」とアルトが再び真顔で強調した。「自分が知らないことで規定されたくない。自分が判断し、自分で考えたものによって自分を縛るのはいいんだけれど。自分が自立するために、自分に与えられた選択をしたということなんだ。」とゆっくりとした英語で、しかし淀みなくアルトは語った。
「僕は、見えない神ではなくて、実在するものを信じたい。人とか、森とか、生きているものとかね」とアルト。そういえば、今日はローマのどこに行ったのかと聞いた時、「とてもいい場所があって、ずっとそこで過ごした」と言って彼が地図に示した場所は、中心部の遺跡群からはなれた小高い丘の公園地帯だった。
両親には以前からサインアウトの意思を伝えてあるけど、敬虔なクリスチャンである祖母には言えないでいる、とアルト。「それに、実際にサインアウトしたことはまだ親にも言っていない」。
サインアウトについては興味深い。が、宗教的な問題はとてもセンシティブだ。私のブログに書いてもいいかと聞くと笑顔で「OK」と言い、再び真顔になって付け足すように言った。
「サインアウトしたといっても、日常は変わらない。何も変わらないとわかっている。でも、サインアウトしたという行為そのものが、僕にとって大きな意味を持つんだ」と静かに語り、そしてケーキを一口食べて「美味しい」と少年のような笑顔を見せた。


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2 コメント

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元気そうで何よりです (badboy)
2007-10-03 22:04:59
>クリスチャンといっても、今では教会の日曜ミサに行く人も少なくなった。信心深くない人も多いけれど、税金を引かれることについては黙っている」「結婚式は教会でやりたいから、という理由で信者に留まっている人もいるしね。
私を含め日本人の多くが無宗教ですが、寺の檀家を積極的に止める人はあまりいません。フィンランドの教会と同じような理由で檀家を続けている。
そればかりか日本においては、坊主(僧侶)でさえ、本来の意味で仏教徒と言える人はほとんどいない。葬式仏教の職業人と呼ぶと、侮蔑的すぎるでしょうか。
アルトさんの無垢な純粋さと若さに嫉妬しそうです(^^;
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日本の仏教 (ワイン)
2007-10-06 04:44:00
以前、B型パパイヤさんから仏教についてのコメントをいただきましたが、同じ仏教でも、日本と東南アジアの仏教とはもちろん違うように、寺の在り方も全く違いますね。去年、永平寺に行ったときは、葬式仏教というイメージとは違うと確信したのですが、地方の個人経営(?)のお寺がそうなりがちなのは寂しい限りです。その日本の寺の存在意義について、常に世に問いかけている風変わりな住職が、bodboyさんのお膝元にいますが。
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