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テート美術館展 光

2023-09-08 16:36:57 | 一期一絵

展覧会のポスターは数種類ありましたが、こちらはターナーの「湖に沈む夕日」1849年頃の作品です。

ポスターには”LIGHT 光”と大きく書かれていて、その言葉の通り、”光”の表現がテーマの展覧会でした。

副題は「ターナー、印象派から現代へ」

 

テート美術館とは・・・これは会場内の休憩室の壁に説明書きが貼ってありました。(ホームページにも同じ解説が載ってました)

Tateは、英国政府が所有する美術コレクションを収蔵する組織で、ロンドンのテート・ブリテン、テート・モダンと、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの4つの国立美術館を運営。

19世紀、砂糖の精製で財を成したヘンリー・テート卿が自身のコレクションをナショナルギャラリーに寄贈したことが母体となり、1897年にテムズ河畔でナショナルギャラリーの分館として開館。2000年にテート・モダンが開館したことを機にテートの名を冠する4つの国立美術館の連合体である"Tate”へと改組したそうです。 

ナショナルギャラリーは日本で言うと国立美術館で、大英博物館(ブリティッシュ・ミュージアム)とは違うそうです。

 

テート・ブリテン・・・16世紀から現代までの英国美術を展示

2006年に撮影

1897年開館。建物の正面入り口にギリシャ風の円柱がついたポーチ(porch 屋根付きの玄関)があります。アメリカならホワイトハウス、日本では東京国立博物館の本館が思い浮かびます。他にもいろんなクラッシックな建物にあしらわれ威厳を表してます。私は長男が通った大学の旧校舎を思い出しました。けれど手狭になったようで通学途中で現代的な新校舎に移転し、とても残念ながら今は取り壊されてしまいました。

テートブリテンのポーチには屋根の上に彫刻もあしらわれてます。頂上に智の女神ミネルバ(ギリシャ神話ではアテネ)、そして両側に写真でははっきりわからないけど動物の彫刻が飾られ、ここは知の殿堂であると高らかに示しています。

 

テート・モダン・・・近現代美術を展示

2016年に撮影

2000年開館。テート・モダンは見たところ古い建物を再利用してるように見えたので、調べたらもとは「パンクサイド発電所」だったそうです。

パンクサイド発電所の設計者サー・ジャイルス・ギルバート・スコットは赤い電話ボックスと「バターシー発電所」の設計もされたそうです。おお、バターシー発電所と言えばピンク・フロイドのアルバム「アニマルズ」のジャケット写真で有名で、そのほかにもいろいろな映画やドラマなどにも出てきます。

役目を終えた名建築を美術館として新たに使用して大切に残す心意気がいいね!

 

などと建物の写真につい気持ちが入ってしまいましたが、本題に戻ります。

展覧会は「Room 1 」から 「Room 7 」まで7章に分かれて展示されてました。一部を除き作品の写真撮影が可能でしたので、手持ちのスマホで撮影した写真を中心に載せてゆきたいと思います。

 

Room1

「光の創造」ジョージ・リッチモンド 1826年

最初に見たとき、ウィリアム・ブレイクの作品かと思いましたが、リッチモンドという画家の作品でした。でも画風はよく似てます。展覧会ではブレイクの作品も2点展示されてましたが、展覧会のテーマとこの作品のタイトルがあっていて、最初に載せるのにふさわしいと思いこちらを載せます。

絵の中で創造主が暗い雲を後退させて輝く太陽を迎え入れているように見えます。

 

「光と色彩(ゲーテ理論)ー 大洪水の翌朝 ー 創世記を書くモーセ」ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 1843年

絵の中に眩いばかりの光を表現したターナー。ポスターになった作品もそうですが光が溢れて色彩は必ずしも本来の色合いではなくなり、人物も物ももはや形が曖昧になっています。ターナーはゲーテの「全ての色彩は光と闇の唯一の組み合わせ」という論理に影響を受けたそうです。

画中真ん中に岩に突き刺した杖のようなものが見えその後ろにモーセが何かに書き込んでいる様子が見えます。その周りに大きく弧を描いて割れた海が描かれ、その割れ目を渡る人々の頭が小さく見えます。

ターナーがのちの美術に及ぼした影響を、この展覧会を見るうちに実感してゆきました。

 

「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」ジョン・マーティン 1822年

大画面でまるでスペクタル映画のような迫力ある作品。火山噴火で真っ赤に燃える火、溶岩、荒れる海。人間では到底太刀打ちできない自然の偉大な力と予測不可能性、自然への畏怖「崇高」を表現しているそうです。古代の自然災害を想像力を発揮して迫真的に描いていて圧倒されます。

描いた年代はターナーよりも前なのでアカデミックな作風です。でも画面構成や配色など、上記のターナー作品につながる要素を感じました。

 

「トスカーナの海岸の灯台と月光」ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー 1789年

18世紀末の作品。こちらは静かな月夜の入り江。夜空にも輝いてますが海の照り返しにより月の存在を感じて美しい。

 

Room 2

「ハムステッド・ヒースのブランチ・ヒル・ポンド、土手に腰掛ける少年」ジョン・コンスタブル 1825年

ターナーと同時代の画家。雲間から日が柱状に差し込み、丘の上に座る少年にも注いでいます。そしてお日様にあたり反射している草の葉を白い点々を散らして表現してます。

それから額縁がとても凝っているのも印象に残りました。

 

「靄に濡れたハリエニシダ」ジョン・エヴァレット・ミレイ 1889~90年

ラファエル前派の画家で川に流されてゆく「オフィーリア」の作品で有名なミレイ。靄(もや)でしっとり濡れたハリエニシダをかすれた白(に近い)絵具で表現してます。水分の多い空気が光を乱反射して画面中央で輝いてます。どこまでも踏みしめて行けそうな奥行きを感じ、さすが卓越した画家の技巧の冴えを感じます。

 

「私の妻の庭」ジョン・ヤング=ハンター 1899年

豪華な衣装と庭園、そして見事な孔雀に惹かれて写真に撮りました。孔雀がとても美しくて首や胸の緑の羽が輝いていました。芝生は青々としてるけど後ろの木は葉が生えてなくて、この絵の季節はいつなのだろう?相当裕福なお家の方だったのでしょう。額もギリシャ建築のようです。

 

「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」ジョン・ブレット1871年

広々とした海景で、作品も大きく。鑑賞者がいっぱいいました。写真が斜めになってしまったのが残念。小さな船が見える以外は何もないどこまでも海。水がきれいで光の透過の具合で緑色に見えて、明るい空から陽の光が注いだところだけ海が輝いてます。ずっと見ていたい美しい作品でした。

そして一旦溺れるとこんな長閑な海景でも命を奪われる恐ろしさも感じます。

とても美しい作品なので公式ホームページに載っている画像を載せたいと思います。

陽の光や波が動いて見えるのが不思議

 

「ペールオレンジと緑の黄昏 ー バルバライソ」ジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー 1866年

柔らかい色調と描写で、暮れ行く黄昏の光に包まれた港の船を描写した絵と、素朴な作りの額がとても良く合ってます。ホイッスラーはとても我の強い人物だったそうですが、描く作品は優しい色調と筆致で、いくつかのタイトルに音楽用語やハーモニー(調和)という言葉を入れてます。人柄と作品が合わせる事でハーモニーを奏でている。額縁もしばしば手造りしていますが、虫食いや節目など木材の特徴を生かした素朴な作りで、やはり素朴な筆致で「青海波」の模様をワンポイントで入れた作品も見たことがあります。日本の「わび、さび」に感じるものがあったのだろうな。この作品の額は手作りではないと思いますが、やすりを入れるか何か手をくわえているのではないかな?

 

「エプト川のポプラ並木」クロード・モネ 1891年

印象派はモネとシスレーの作品が展示されてました。これまでの画家は風景画は戸外でスケッチした絵をアトリエで仕上げてましたが、両者とも戸外で絵を描き仕上げた画家。そのため素早い筆致で、外の光や色の輝きを感じたものを直接作品に生かしてます。モネはターナーの作品に影響を受けて、光に包まれ輪郭が曖昧になり、色彩が多様に変化する作品を発表するようになります。

 

「浜辺の人々、ウォルバーズウィック」フィリップ・ウィルソン・スティーア 1888~89年頃

この作品は戸外で素早くスケッチしたもので、後でそれを元にアトリエで作品を制作したそうです。でもそのアトリエ作品は展示されてませんでした。その場で感じ取ってササっと描いた絵の方が後にじっくり描き込んだ絵よりも生き生きして見える事がありますが、こちらもそうかも。色合いが美しく、光に満ちた浜辺に歩く人々が印象的に描かれてます。

 

 

「去ってゆく冬」草間彌生 2005年

ラファエル前派や印象派の作品が並ぶ部屋の中になぜか現代作家の草間彌生作品が展示されてました。鏡面で作られた立方体にところどころ丸い穴があります。鏡面には周りの作品や壁や人が映っていて意外にその場になじんでました。柵に囲まれて近寄れなかったのですが、丸い穴の中にまた鏡があり、柵の向こうから覗くと私自身が小さく映りました。本当は中を覗くとこんな反射光の無限水玉の世界が広がるそうです。

(ホームページの画像より)

 

Room 3

Room 3 は3作品と少なかったですが。いずれも室内の光を主題としてました。

「室内、床に映る陽光」ヴィルヘルム・ハマスホイ 1906年

ハマスホイの作品は奥さんの後ろ姿のいる室内画もありましたが。私は誰もいないこの作品がいいなと思いました。北欧の夕日が窓から室内に注いでいます。そして何となく人の気配も感じます。

 

Room 4

ここの章は撮影不可でした。が、このRoom 4 こそがこの展覧会の核心だと感じました。

せめて壁に貼られた説明を走り書きでメモしました。それによると

ターナーはロイヤルアカデミーの教授になり遠近法(透視図法)の講義において光の反射や屈折、影の生成を図で説明したそうです。

その講義のために描かれた図がずらりと展示されてました。1つのシリーズはピラネージという画家が描いた監獄の絵の柱や壁の輪郭を単純化して描き、牢屋の廊下を歩く監視員が持つランプの光が柱や棟などにあたりどのように影を作るか。また光源の位置により四角い柱など物体はどの方向にどのような形で影を作るかを説明した図。次のシリーズは金属や半透明の球体がどのように光に当たり影を作るか。また半透明の球体の中に液体が入るとどのように陰影ができるかを白い紙の上に同じ大きさの球体の絵を並べて図にしていました。

その並んだ図は現代美術のように見えました。

光の反射や屈折、影の生成の追及は新しい美術へと発展します。

 

時代は20世紀に入り、光の表現は新しい表現媒体と共にさらに発展します。

モホイ=ナジ・ラースローは四角や丸などの形の色面を構成した作品を描き、19世紀に発明された写真でも作品を発表。1923年、ドイツのバウハウスの教員になります。そこで学んだルイジ・ヴェロネージとケベシュ・ジェルジも写真作品を発表します。

「写真n.145」ルイジ・ヴェロネージ 1940年に制作1970年代にプリント(ホームページより)

いずれも模索中の写真技術で光の効果を試したり、物の形をずらしたり重ねて感光版に写し込み、抽象的な効果を見せる作品でした。

同じくバウハウスで学んだヨーゼフ・アルバースの油絵作品は四角い色面を重ねたように描いて、色の効果により奥行きを感じたり色面が輝いて見える作品を描いてます。

他にもやはりバウハウスで学んだ山脇巌の写真作品も展示されてました。

 

リリアン・レインの1968年の作品はターナーの球体の絵図に感化されたような、液体の入った透明の球体が光をうけて円を描いて動き、壁に陰影を映す装置のオブジェでした。

以降一気に現代美術に入ります。

 

Room 5

この章では抽象絵画やオブジェの作品が並びました。カンディンスキーやロスコなど初期の抽象絵画もありましたが、20世紀後半以降の作品が印象的でした。

「ナタラージャ」ブリジット・ライリー 1993年

ブリジット・ライリーは流れるような線や細かい面や点などで平らな画面が歪んで見えたり揺れて見える錯視の作品を多く発表してます。彼女は若いころにスーラの色彩理論に基づく点描作品に影響を受け、後年古代エジプトの色彩にも影響を受けたそうです。この作品にもエジプトの色彩を感じます。強い色の組み合わせと配分で中央がより明るく輝いて見えます。展覧会の説明書きによると、「多くの腕を持ち、宇宙の踊り手として描かれてきたヒンドゥ教のシヴァ神をイメージ」しているそうです。

 

「ぶら下がったかけら」ペー・ホワイト 2004年

楕円形の色紙の上にパックマンのような形の丸い色紙を貼り、一つ一つはゆで卵を半分に割った断面のように見えます。大量に天井から吊り下げられ床に影を落としていて、まるで空を飛ぶ渡り鳥の群れのようにも見えるし、全体で一羽の飛んでいる鳥のようにも見えます。

 

 

「アブストラクト・ペインティング(726)」ゲルハルト・リヒター 1990年

一度描いた絵を乾かないうちに、大きな定規みたいなヘラでひっかいて元の絵の残像だけを残してます。いつも思うのは映りが不安定なテレビ画面のよう。白が光を発しているように見えました。

 

Room 6

光そのものが表現の材料になった作品が並びました。

 

「カラーサイクルⅢ」ピーター・セッジリー 1970年

同心円に輝く光の作品。次々と色合いが変わりました。

 

「ブリック・レーンのスペクトル2」デヴィット・バチェラー 2007年

まるで光の本棚みたいだなと思いました。写真では白っぽくなりましたが、実際はネオンのように鮮やかな色合いです。

 

「黄色vs紫」オラファー・エリアゾン 2003年

黄色の丸の光と紫の丸の光が近づいたり離れたりしますが重なりません。上からぶら下がったガラスの丸い板が中継して二色が重なるようにしているようです。

 

Room 7

光を材料とした表現は大掛かりになり、一つの世界や宇宙を感じました。

(公式ホームページより)

「レイマー、ブルー」ジェームズ・タレル 1969年

部屋の中に入ると何もなくて、一つの壁の四隅からブルーの光が発してます。その色合いは美しかったです。そして、その部屋から出ていくと、少しの間目の前が全て真っ赤に見えました。これがこの作品の狙いだったのかな

 

「星くずの素粒子」オラファー・エリアソン 2014年

展覧会最後の作品。先ほどの「黄色vs紫」と同じ作者です。隣の展示部屋からズオーンという音が聞こえてましたが、この作品自体は静かで枠組に守られたガラスの多面体に光が当たり壁に美しい姿で映り、ガラスの表面に反射した光が星くずのように周りの壁を照らして、ゆっくりと回転していました。まるで一つの惑星が衛星を引き連れて太陽の光を受けているように見えます。色は使ってないけど、ガラスが光を透過して壁に映るときに屈折してほんのり緑がかって見えるのが美しいと思いました。

 

一通り見回って、草間彌生の鏡の六面体の作品が現代美術のRoomに置かないのが何となく納得できました。美しく磨かれた鏡面は現代美術の強い存在感の中で周りの作品を投影するより、少し控えめな絵画の中にいてその作品を投影してこそ存在感を際立たせているように感じました。

 

アカデミックな絵画から宇宙を思わせるオブジェまで一気にタイムトリップしたような気分になり、見応えがありワクワクした展覧会でした。

 

「テート美術館展 光」は10月2日まで国立新美術館で開催。

その後10月26日から翌年1月14日まで大阪中之島美術館で開催されます。

 


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