今年の梅雨は、昨年から初めて耳にする「線状降雨帯」と言う気象現象よって、国内全体に最悪な自然災害と、尊い人命への被害をもたらした。自然とは、こちらの向き合い方次第では、無事生き延びることも出来るし、油断すれば身を危機にさらしてしまう危険性をダイナミックに秘めている。
前々から楽しみにしていた休日のある日、週間天気予報は、きっちりと予測を裏切らず当日は雨である。 しかしこの雨の中、地図とコンパスと雨具を着込み、九重連山黒岳の男池から山懐(ふところ)に入る。頂上を目指すのではなく、雨の中を黒岳の一番低い誰も歩かない山腹を一人8時間かけて一周し歩いたのだ。 長雨が山肌に染み込み、ほんの数ヶ月前まで素っ裸だった深山の木々は深緑の体である。足元には様々な植物達の生命が息吹をたたえている。
この季節の長雨は、母が子供に注ぐ深く屈託のない愛情のような気がしてならない。地中へと深く染み込んだミルク(雨)は、山の体内を潤沢に潤し、森の成長を育み、お互いに調和を保ちながら譲り合い、秩序を保ちながら生を謳歌している。
そこに過ごす、誰にも見られていない健気なその植物達の存在に、日々の喧噪や達成感などが凝縮されていることに気づかされる。日々の営みと生きるということは、瞬間が、永遠なんだ、などと感じた一日でもあったのだ。