昨夜は小雪混じりの季節風が吹き荒れて、氷点下10度の外気はテントの中にも侵入し、早朝目を覚ますと、インナーが水蒸気でバリバリに凍り付いて固くなっている。九州の人間にとっては、この気温は稀であり、起き上がろうにも体が動かせない。シュラフカバーをまとった厳冬期用羽毛シュラフの中は、抜け出せない程とても温かいのだ。
冬の連休を利用し、緒方町尾平鉱山跡地から、ソロで祖母山(1756m)の主稜線上である宮原(標高1402m)まで、標高差800mをゆっくりと十数キロのザックを担いで時間をかけて登り終えると、直ぐに居を構える(冬用軽量テントの設営)。日が暮れるまでの間、簡易ストーブに火を付け、ソローを読んだりジャズを聴いたり、風の音に揺られながら『自身の仕事の質』を問うて見る。『仕事に愛はあるのか、正統性は主張出来るか、俺は間違っていないか』などと。
翌朝テントをたたみ祖母山へと、標高差350mの縦走に出発する。雲一つない紺碧の晴天である。歩き始めてふと立ち止まり頭上を見あげると、すっかり落葉した支枝に凍り付いた霧氷が陽光に照らされて、風に舞いキラキラと、眼の前を舞い落ちていく。その光景は、冬山に登った者にしか味わえない至福な光景である。
四季を通して見慣れた風景も、後ろを振り返ると、雪と風が作り出す幻想的な造形美『シュカブラ』と、うっすらと積もった雪の上に、私のトレイルのみが刻まれていた。