2005-09-12
4.オリン・ゲーム(1)
オリン・ゲームは、初級・中級・上級レベルに分かれて、順番に行われる。
参加するのは、スポーツの時間にオリン・ゲームを選択した生徒と、大会へ出てみたい希望者。
競技に参加しない生徒達は、オリン・ゲームの手伝いや、応援をするようになっている。
初級レベルのゲームは、5人1組でスクール内のチェックポイントを通り、ゴールする。距離も短いので、ゲームが終わると、すぐに中級レベルの応援に駆り出される。
中級レベルのゲームは、コメット・ステーション広場がスタート地点。人通りの少ない時間帯に、スタート時間が設定されている。
ゲームでは、問題が出題されるポイントもある。学習意欲を向上させるのが目的なのだが、勉強の苦手なキラシャは、いつもこの点数でチームの足を引っ張っていた。
予選会の成績は、チームのタイムと、3人の問題の正解数が、総合成績として記録に残る。
個人成績としては、チームのタイムと自分の正解数が、単位を取得するための評価の対象となる。
エリアの大会では、タイムの方が重視される。上位20位までの出場権を獲得したチームのうち、上位30位までの選手と入れ替え可能で、新しいチームを結成し、大会に臨む。
オリン・ゲームの開始時間が近づき、大勢の選手がスタート地点に集まった。
時間になると、スターターの先生が合図を送り、チームのリーダーにゲーム用のマップを送信。
マップを受信したリーダーは、Mフォンの先に3Dホログラムで街のマップを広げ、同じチームの3人でチェックポイントを確認する。
今回のチェックポイントは8ヶ所で、そのうち問題が設定してあるのは、広場にある3ヶ所。そして、ゴール地点はスクールのトレーニング場。
出発するのはいつでも良い。チェックポイントを通る順番を決めたら、すぐに飛び出すチームもいるし、じっくり考えて走り出すチームもいる。
同じクラスの子達も、広い通路の両側で、手を振りながら応援している。
キラシャのチームの場合、スタート地点の広場のチェックポイントは後回しにして、少し離れたボックスへ一緒に飛び込み、次の階のチェックポイントへと進んだ。
オリン・ゲームの極意は、なるべく人の少ないルートを探すこと。
Mフォンが混雑情報を伝えてくれるので、わざと寄り道して、ゴールに近いチェックポイントを先に通過することも、上位のチームは積極的にやっている。
キラシャもタケルと組んだ時は、そうやってチームの総合成績に貢献していた。タケルの場合、成績は悪いのに、勝負となるといろんな知恵を出して来る。
「次は、ここの人のいないボックスを使って、2階上のチェックポイントを目指そうぜ。その次は、こっちのチェックポイントだからな」
キラシャとマキの手を引っ張って、走り出すタケル…。
キラシャがタケルの背中を見つめていると、いつの間にかケンの後姿になっていた。
ケンはキラシャの視線に気が付いたのか、ニヤッと笑った。
「オレがタケルだったら良かったのになぁ」
思わず顔を赤くして、足がもつれそうになるキラシャ。
マイクもニターっと笑っていたが、キラシャを見ていたのではないようだ。
「パール イタ。オレ ガンバル!」とうれしそう。
『そういえば、ユウキ先生とジョンとパールが、通路で声援を送ってたっけ。
そうか、マイクは本気でパールにイイトコ見せようとしているんだ…』
パールを探そうと、後ろを振り返るキラシャの手を握って、マイクはあわてて引っ張った。
「タイムだけでも、20位内を目指そう!」
3人は声をかけ合いながら、チェックポイントを目指して、ボックスへと急いだ。
せまい場所のチェックポイントは、通路沿いに設置してあるので、近づきながら証拠のメールを受信すれば良い。
このチェックポイントのメールは、チームが10mくらいまで近づかないと、受信できないように設定してある。
チェックポイントの近くには、ニセモノも設置してある。マップで確認しながら、ホンモノかどうかメールを受信しないとわからない。
広場のチェックポイントでは、問題を受信して答えなくてはならない。この順番をどうつなげて行くかが、勝敗を決めるポイントだ。
常に移動するパトロール・ロボットにも、チェックポイントが仕掛けられている。
このロボットもクセ者だ。ニセのロボットも何台かうろついている。これもメールを受信できる位置まで近づいて、確かめなくてはならない。
キラシャのチームは、せまい場所のチェックを優先して、問題が出題されるチェックをなるべく後回しにした。
このメンバーでは、問題の正解率に期待ができない。早くから問題に取り組んで、落ち込んでしまったら、後を引いてしまうからだ。
4番目のチェックポイントをクリアし、パトロール・ロボット2機が、近くで移動中だとわかった。
「どうする?」とケンは、キラシャとマイクにたずねた。
「パトロール・ロボットは、ホンモノを見つけるのがやっかいだし、後回しにしようか」
タケルなら、自分の判断でルートを決めてしまい、マキがOKを出したら、キラシャが意見を言ってもすぐ却下されていたが、ケンはすぐ2人にたずねてくる。
『考えてると、時間がロスしちゃうんだけど…』
マイクも判断がつかなくて迷っている。みんな、疲れて頭が働かない様子だ。
「休憩所でドリンクをもらって、考えようか?」
いつもは頼りないが、時々、素晴らしく気の利いたことを言ってくれるケン。
パスボーでも、最近シュートが成功する確率が上がって、少しは自信が出て来たようだ。
3人はボックスを使って、休憩所へと移動した。
休憩所は、ボランティアでドリンクをサービスする大人と、それを手伝う子供達と、選手でいっぱいだ。
下級生達に、「キラシャ、がんばって!」と声をかけられ、急いでドリンクをもらって、一息ついた。
マキのチームは休憩が終わって、キラシャのそばを通り過ぎようとした。
「マキ、何ヶ所終わった?」とキラシャがたずねると、「4ヶ所だよ。問題は全部答えたし、あとはロボットと、3か所のチェックポイントでメールをキャッチするだけ」とマキは余裕で答えた。
「うちも4ヶ所だけど、まだロボットと問題が3つ残ってるンだ。
マイクがあの転校生の応援で、ナンだか異常に張り切っちゃって。ゴールまで持つかな?」
マイクが真っ赤な顔をして、キラシャの口を覆った。
マキは「お先に…」と軽く手を振って、次のポイントへ向かい始めた。
後を追うコニーとカシューは、ちょっとふくれ気味で、イライラしているようにも見える。
ケンはその様子を見て、「マキのペースに合ってないンじゃないかな、あの2人」とつぶやいた。
今日はやけに張り切っているマイク。
「ツギノ ポイント ドコ?」とケンにたずねた。
「ロボットの周りは、どこも人が多いから、残しておいた最初の問題を目指そう!」
ケンの案に、2人も同意した。
「マイク!まだ走れる?」
「OK!」
「よし、じゃあがんばろうぜ!」
3人は手をつないで、混雑していないボックスへ向かった。
2005-09-26
5.オリン・ゲーム(2)
広場のチェックポイントでは、メールと一緒に問題が送られて来る。
「フリーダム・エリアの初代大統領の名前は?」
「ユニバース・エリアで製作された、最大の宇宙ステーションの名前は?」
「クリエート・エリアで生産されている、輸出量の多い食料を3つあげよ」
「ユートピア・エリアで行われている雇用政策を何と言う?」
「MFiエリアのドームで使う、一日の平均エネルギー量は?」
「ヒンディ・エリアで伝えられている宗教哲学は?」
「アフカ・エリアの多民族政策とは?」
「地球から火星までの距離は?」
答えは選択式だから、正解と思う番号にタッチすればよいが、授業の成績にもつながるので、できれば慎重に答えたい。
ただし、チェックポイントには見張りもいるし、視線が問題からはずれるとMフォンが警告を出すから、教え合うこともできないし、制限時間もある。
3人は黙々と、Mフォンの問題の答えを選んで、全部解き終えると、すぐに返信。
2か所の広場のチェックポイントを通過すると、次はロボットを追いかけることにした。
キラシャのチームも、途中でまたマキのチームに出会い、競争してロボットを追いかけた。
でも、受信の結果は「残念でした(^_^;)、ハズレです!」
マキのチームは、早めにハズレに気づいて、近くのボックスへ飛び込んだようだ。
もう姿はない。
「やられたな…」
ケンもすぐにMフォンで、混雑情報を確認。
どうも下の階にいるロボットが怪しい。他のロボットの周りより、明らかに近づいてゆく人数が多いからだ。
3人は下の階へ移動して、ロボットを追った。マキのチームは見えない。
内心あせりながら、子供達に囲まれたロボットへ近づいた。
メールを受信したMフォンから「チェックポイント通過。おめでとう(*^_^*)、当たりです!」のコメント。
後は、ゴール前の広場の1ヶ所だけ。
マキのチームが、まだゴールしてないことを願いながら、最上階の少しゴールから離れた場所を目指し、ボックスへ。
混雑で何秒か待たされたが、無事に転送された。
広場のチェックポイントにたどり着くと、もうゴールへと向かっているチームが見えた。
キラシャのチームも、受信した問題を秒殺で解き、返信すると、勢いよくゴール目指して走った。
トレーニング場の観覧席には、応援しているチームのゴールを待つ子供達でいっぱいだ。
前の方で、ダンが子分を引き連れて走っていた。
何チームかと競い合いながら、団子状態でゴールした。
「何位だろう?」
Mフォンで順位を確認すると、ゴールの瞬間が浮かび上がり、28位という表示が見えた。
「タイムは28位か…」キラシャは、がっかりした。
「…タイムだけでも、20位に入りたかったなぁ」
「惜しかったけどな。まぁ、そう簡単に20位には入れないよ」と、ケンは言い訳した。
マイクの返事がなかったので、あわてて周りを見回すと、ゴールのそばで倒れたまま、動こうとしないマイクがいた。
「だいじょうぶ? マイク…」キラシャは、マイクが息をしているか心配で、のぞき込んだ。
マイクは、寝っ転がったままゼイゼイ言いながら叫んだ。
「キラシャ ヤクソクだヨ!
パール イッショ イケルネ!
ヤッター!!」
ゲームの補助員がゴールのじゃまにならないよう、吐きそうになっているマイクを車椅子に乗せ、口にタオルをあてて、あわててホスピタルへ連れて行った。
キラシャとケンは、後でマイクのお見舞いに行くことにして、18位で大会への出場権を得たダンに、「おめでとう!」と言って、仲間のゴールを待った。
数分後、マキがコニーとカシューに両脇を抱えられながら、ゴールへと入って来た。
「どうしたの?」と聞くと、「ちょっとね…」とマキが苦笑いした。
コニーとカシューは、口をそろえて不満を言った。
「マキ、早すぎ!」「私ら無視して、急ぎ過ぎ!」
コニーとカシューは、自分達のリズムを持っている。
マキのペースの速さに切れてしまい、ついカッとなって、マキの手を2人でパッと離したらしい。
「マキってさぁ、ひとり決めなンだモン。もう少し、あたしらのペース考えろっての!」
「そうだよ。あたしら、別に大会に出たいわけじゃないンだ。
休憩、短いしさ。早けりゃいいってモンじゃないよ!
やっぱり、ペースってダイジだよ…」
マキは気まずい顔をして、傷ついたひざをのぞき込み、キラシャを振り返って苦笑いした。
キラシャも、マキを見て微笑んだ。
そういや、タケルがチームリーダーで、無茶苦茶引っ張った時は、2人でぶつくさ言ってたっけ。
「タケル!マジ早~。休憩しよ~!」って。
そこへ、ヒロとニール、隣のクラスの賢そうな男の子、3人でゴールした。
ヒロは「もう少し、早くゴールできる予定だったンだけどな。
休憩所で異次元の話を始めたら、止まンなくなっちゃったよ」と言って、ニールと笑った。
サリーとエミリも男の子を引っ張って、戻って来た。2人とも浮かぬ顔だ。
背が高くてやさしい顔をした男の子が、バイバイと言って離れて行ってから、キラシャに向かって、がっかりした表情を見せた。
「あの子とは、合いそうにないね」
「周りに振り回されてばっかりだモン」
サリーもエミリも、自分達を引っ張ってくれるパートナーの男の子を探していたのだ。
同い年の男の子は多いけど、なかなかタイプの子を見つけるのは難しい。
上級コースが始まるまで、最初のパートナー選びは、これからも続くようだ。
中級レベルのオリン・ゲームが終わると、ドームの外でがんばっている上級レベルの選手達を映像で応援した。
トレーニング場には、巨大な3DホログラムでゲームをLIVEで映し出すコーナーもある。
みんな思い思いの場所ですわったり寝転んだり、友達とおしゃべりしたり、ドリンクを飲みながらの観戦だ。
キラシャの部屋の先輩ルディとパートナーのジャン、美男美女2人の映像が映し出されると、ヒューと口笛が鳴り響き、うらやましそうな声援が飛んだ。
でも、やっぱり社会人の方が断然早い。スクールの生徒は、最上級生の8位が最高だった。
今回は、行方不明者もなく、負傷者が多少出ただけで、ゲームは無事に終わった。
キラシャは鼻歌を歌いながら、海洋牧場の準備を楽しそうに始めた。
『タケルがいれば、最高なンだけどなぁ~』
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