2013-03-21
3.どうすればいい?
アニキが立ち去った後の部屋は、しばらくシーンとしていた。
子供達は、何をどうすれば、この状況が変わるのかわからなかったが、
いずれこの部屋のドアが開けば、元の現実に戻らなければならないことは、わかっていた。
大多数の少年達は、宇宙ステーションに戻って、自分の家族に会えるかもしれないことに、安堵の気持ちもあった。
しかし、タケルには自分の行き先がどこなのか、その先が見えていなかった。
このまま宇宙ステーションに帰っても、自分のしたいことが見つかるかどうかわからない。
キララの言うように、地球へ行くことも選択肢のひとつにはあるのだが、
今帰っても、自分の耳が聞こえなくなるという状況は、変わっていない。
「これから、どうしようか?」
思わずタケルがつぶやいた時、少年のひとりがキララに向かって言った。
「ねぇ。タケルの友達が、危険なグループに捕まるって言ったよね。
その子達って、どうなるの?」
キララは、平然として答えた。
「死んじゃうンだよ。
こことちょっと時間が違うらしいから、いつかはわからない。
でも、アタシには、そういうホログラムが見えたよ。
タケルがあの子を助けたいって言うンなら、一緒に行ってもいいけど…
無理だろ? 」
キララは、タケルをちらっと見て、首をすくめた。
タケルにも、キララの言葉は心に伝わったが、タケルはキララの言うことが信じられなかった。
というより、キララにまただまされるような気がして、イヤな気持ちでいっぱいだった。
キラシャが死ぬなんてことも、絶対にウソだと思う。
キラシャは、何でもタケルに報告してくれたし、誰よりタケルのことを心配してくれた。
何かあれば、必ずメールしてくれるはずだ。
あのお祭りのホログラムだって、ホントかどうか、Mフォンで確かめたら…。
でも、よく考えたら、Mフォンはキララが持っている。
悪魔のようなキララが、簡単にMフォンをタケルに渡してくれるわけがない。
しかも、今は宇宙のどこかわからない。
タケルのMフォンは、確か宇宙ステーション用に設定されていたので、今は使えないはずだ。
『困ったな~』
タケルは、心の中でつぶやいて、キララを見やった。
キララは、何かたくらんでいるように、にやりと笑っていた。
「アタシには、わかってるよ。
アンタが、このMフォンを取り返したがってるってね。
それより、もっとおもしろいことがあるよ。
そうだね~
アンタの友達を紹介してもらおうか。
このMフォン作った人。
アタシも、会ってみたいンだ。
これで、地球に行けるかもしれない。
その、やり方ってやつを教えてもらわないとね…」
タケルは、キララの言い方にムッとしながら、言った。
「でも、今はそいつと連絡できないンだ。
宇宙ステーションに戻れば、何とか連絡がつくと思うけど…」
「だけどさ。
そこに着くまでに、アンタの好きな子、死ンじゃうかもよ!
さっきも言ったけど、いくら防衛軍がそばにいたって、敵の数は何倍っているンだよ。
アンタが助けに行ったって、無理だと思うけどさ、アタシが行けば、隠してはやれるからさ。
タケル!
アンタを助けようと思って、言ってやってるのにさ。
アタシのこと、まだ信じないンだね? 」
タケルは、この言葉をどう受け止めていいのか迷った。
『ホントに、どうしたらいい…?』
タケルの頭に、またあの憎たらしいヒロの、人を小馬鹿にした笑いが浮かんだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます