見出し画像

冬のソナタに恋をして

大晦日の夜に 二人だけの放課後 高校生⑧

大晦日の日、ユジンは鏡の前で白いマフラーをするか、マスターイエローにするか考えていた。今日はチュンサンと2回目のデートだ。授業をサボって南怡島に行ったのを入れると3回目になる、自然と笑みが溢れるのを抑えられなかった。
結局白いマフラーを結んで、全身を白コーデでまとめた。
そして、あーだこーだ言う妹のヒジンに適当な事を言って、待ち合わせのツリーの下に向かった。
空は真っ暗になり、今年最後の夜が始まる。ユジンはチュンサンが
「大晦日の夜に伝えたいことがある」と言ったのを楽しみにしていた。わたしも同じ事を伝えたい、お互いの想いが一緒だと良いな。降りしきる雪の中で❄️幸せな気持ちで待ち続けた。
そして心は、授業をサボって南怡島に初めて行った日に戻っていた。


あの日、ユジンはチュンサンに「初めて」という曲をピアノで弾いてもらった。チュンサンからの初めてのプレゼントだった。
そのあと、ピアノの講堂でチュンサンが外を覗いていたと思ったら、くるりと振り向いて言った。
「なぁユジナ、他の方法で借りを返してくれない?」
あの甘い微笑みに逆らえる人がいるのかしら。ユジンは思わずコクリと頷いた。
もっとも、チュンサンはユジンを探し回るサンヒョクを見つけて、当て付け半分で誘ったのだったけれど。
チュンサンは校庭を突っ切って、校門の方に歩いて行った。途中、2人を呆然と見ているサンヒョクと目が合ったが、「話しかけるな」という冷たい視線を送り、彼を黙らせたのだった。見せつけてやりたい、傷つけてやりたい、そんな気持ちもあったのは否定出来ない。
ユジンはそんなこととは知らずに、チュンサンの後を嬉しそうに追った。
学校を出たらすぐにバスが来た。2人は初めて出会ったときのように、一番後ろの右側に座った。ユジンはチュンサンがどこに行くのか知りたくて、チュンサンの顔をしばらく見つめていたが、何も言ってくれないので、諦めて前を向いた。そして、昨夜の暴行騒ぎで痛めた首すじの湿布を剥がして、前の椅子のカバーが剥がれた部分を補修するように貼り付けた。すると、チュンサンもクスリと笑って、ほおに貼った絆創膏を剥がして、その横に貼った。2人は顔を見合わせて同時に吹き出してしまった。そういえば、二人がおそろいのばんそうこうと湿布を貼っているから、詮索好きのチェリンが怪しむような眼で見ていたっけ。
ユジンは笑ったら暑くなってしまい、そっと窓を開けた。冬のキリッとした冷たい空気が入ってきて、ユジンの髪をそよそよと揺らした。髪の毛はチュンサンの鼻先をかすめていく。彼女の甘い香りが心を揺さぶる。ユジンの香りは、母親がいつもつけているスミレの香水をもっと優しくしたような感じだった。懐かしくていつまでも嗅いでいたくなるような柔らかい香り、、、。チュンサンの胸は知らぬ間にドキドキした。


2人はバスを降りて、フェリーで南怡島に向かった。青い湖面がユラユラと揺れて、微妙な距離の2人を映し出していた。
南怡島に着くと、まずメタセコイヤの並木道を歩いた。夕暮れ前の西日が落ち葉🍂や道を黄金色に輝かせていた。
チュンサンは
「影の国に行った男の話を知ってる?」
と急に話し始めた。
「知らない」
「でもさ、その男に誰も話しかけなかったんだって」
「それから?」
「寂しかったんだって。それでおしまい!」
ユジンは思わず笑い出した。
「なんだよ?」
「面白いんだもの。だってはじめはあなたって、笑わないし、いっつもひとりだし、社会に不満がある変な人だと思ったの。でも違うのね」
チュンサンはユジンの率直な話しぶりに、つい笑ってしまった。ユジンの髪の毛が黄金色の光の中で、キラキラと輝いて美しかった。
 
ユジンは急に思い出したように、道に置いてあった倒木の上を平均台を渡るように歩き出した。ユジンは、いつも何かの上を渡るのが好きだった。目線が高くなり、バランスをとるスリルがたまらない。
「あなたは友達が必要よ。もっとみんなと仲良くなればいいのに」
とイタズラっぽい目で言った。
「いらないよ」
「友達の作り方を教えてあげるわ。簡単に作れるのよ。一歩ずつ歩みよるの。お互いによ。ほら、右足、左足、右足、左足、、、。」
そのとき、危なっかしい足取りで歩いていたユジンがバランスを崩した。チュンサンは微笑みながら
「ほらつかまれよ。一歩ずつ歩み寄るんだろ?」
と言って手を差した。
ユジンがためらいながらおずおずと手を差し出すと、チュンサンがその手をぎゅっと握った。温かくて力強くて大きな手だった。
ユジンはいつもサンヒョクが同じシチュエーションで手を差し出すのに、
「わたしは好きな人としか手を握らないの」と断り続けていた。それなのに、チュンサンの手をこんなに簡単に握っているなんて、、、。チュンサンの端正な顔立ちを見ながら胸のドキドキが止まらなかった。
 
夕暮れ時まで、自転車に2人乗りして、林の中を走り抜けた。後ろの席で、幸せそうな顔で目を閉じて、両手を広げて風を感じているユジン。そんなユジンを見てチュンサンも優しく微笑みながら自転車を漕ぐ。冬に入る直前の秋の終わりの一瞬の輝きの中、2人は長い間自転車に乗り、沢山笑った。こんな幸せな瞬間がずっと続きますように、2人はそっと祈った。
 
もうすぐ、船が出るというとき、黄金色に輝く湖岸を2人は歩いていた。
「チュンサン、探してた人は見つかった?」
「うん」
「誰なの?」
「父親。でも、思っていた感情と違った。なんか、もっと感動するとか、嬉しいとか込み上げるのかと思った。でも、向こうも覚えてないみたいだし、それが残念で寂しかった。僕は父親を憎んでいるのかな」
ユジンは可哀想で胸が痛んだ。わざと明るく振る舞って、
「憎んでいても何でも、父親が生きてるってことは良いことよ。とにかく生きてさえいれば、、、」
チュンサンはユジンの父親が病死している事を思い出し、胸がチクリとした。
2人ともそれぞれの想いを胸に船に乗り込んだ。
そして、夜になってユジンのうちにやっとたどり着いたら、仏頂面のサンヒョクが、ユジンの荷物をもって待っていたのだ。しかも、ユジンはその日が父親の命日供養だと忘れていて、ずいぶん慌てる羽目になった。
次の日学校をサボって南怡島に行った2人が登校したら、黒板にハートマークが書いてあって、ウエディングマーチまで歌われてしまった。クラス中二人のうわさでもちきりだったのだ。おまけに、ゴリラ先生に1ヶ月の落ち葉焚き当番まで命じられたんだった。ゴリラが
「カンジュンサンがユジンを誘ったんだろ」って言ったから
「違います。わたしが行きたかったんです」って言って、皆んなに冷やかされたなぁ。
まるで遠い日の出来事みたい。
 
ユジンは我に返って思った。あの日は最高に楽しかったな。大人になったらチュンサンと2人であの日の自分たちを笑顔で振り返りたいな、と思っていた。
いつのまにか腕時計を見ると、大晦日が終わろうとしている。約束の時間はとっくに過ぎているのに、ユジンの胸の中で大きな不安が膨れ上がる。この前チュンサンの家に行ってから、連絡をとっていないのも気になる、、、。チュンサンがどうか来ますように、ユジンは祈り続けた。
 
その頃チュンサンと母親のミヒ、タクシーの運転手は、アメリカ行きの飛行機に乗るため、雪道を走っていた。今夜は渋滞がひどくて、嫌に時間がかかってしまう。
チュンサンはアメリカ行きを決意したものの、ユジンにさよならを言いたくてたまらなかった。そして、大晦日に伝えると言ったあの言葉も言っていない。ユジンは一人でツリーの下で待っているだろう。寒くて凍えていないだろいか。ふいにポケットに手を入れると、ユジンのピンクの手袋に触れた。これも返すはずだった、、、。チュンサンは堪らなくなり、タクシーが停止した瞬間、ドアを開けて飛びだした。ミヒが後ろで何か叫んでいるが、全く耳に入らなかった。夢中で反対方向のタクシーを止めて、春川への道を戻って行った。しかし、途中で渋滞につかまってしまった。このままでは大晦日が終わってしまう。急いでタクシーを降りて、チュンサンは走り出した。
街中がカウントダウンに入っている。
急げ、急げ。心は焦るばかりで、渋滞した車列を縫うように道路を渡った。
その時、目の前を眩しい光が照らした。大型トラックだった。あっと思う間もなく、光がチュンサンを飲み込んだ。心の中で最後に叫んだのは
「ユジナ」という言葉だった。トラックがチュンサンの身体を跳ね飛ばし、チュンサンは宙を舞った。白い雪が積もる地面がみるみるうちに赤く染まっていった。
 
 
 
一方ユジンは、カウントダウンの声を寂しく聞いていた。身体は凍ってしまいそうなほど寒い。その一瞬フワッと風が吹いて
「ユジナ」というチュンサンの声がしたような気がした。ユジンは振り返ったが、賑やかな人混みの中にチュンサンの姿はなかった。
そのうち、新年の花火が次々と打ちあがった。ユジンは止まらない涙を拭いもせず、ぼんやりと滲む花火を見つめていた。
こうして1992年の大晦日が終わった。
 
 
 
 

コメント一覧

kirakira0611
@usagimini さま、ありがとうございます😊返信が遅くて申し訳ありません。
高校生バージョンはいいですよね。
わたしも好きです。そうですね。チュンサンはユジンの底抜けの明るさと、人生に前向きなところと、自分と同じ父親がいない境遇と、無条件に肯定してもらったところに惹かれたのだと思います。
冬のソナタの100日間というメイキング映像を観ました。監督はもともとメイキングをきちんと撮っていて、わたしは普通のを買いましたが、ヨンハさんファン用にヨンハバージョンもあるようです。ヨンハさんがいろんな人を撮って笑ってる映像が好きです。
そのときにリヤカーの映像を観たと思います。わたしの中でヨン様は硬派な感じでしたが、当時のヨン様ファンのブログを観ると、彼女がコロコロ変わってるというか、現場で手を出してるようなので、それがちょっとミニョンさんのイメージと違って残念です。若いからしょうがないんでしょうけども。
いろいろ裏話ができると嬉しいです。
またいろいろ教えてくださいね。
確かに、このあと出てくる自転車は2人こぎタイプですね!ちゃんと観てみますね。
usagimini
こんばんは。やっぱり高校生編は何度読んでもいいですね。
改訂版?アップしてくださってありがとうございます。
kirakira0611さんはご存じと思いますが、自転車二人乗りで、ユジンが両手を広げるシーンは、実はどうしてもヨンジュン氏がふらつくので、仕方なくリヤカーに乗って撮影したって、そのメイキング映像もついでに思い出せてたのしませていただいています。後々ミニョンと、チュンサンの記憶探しで自転車に乗った時は、ハンドルが2人分ある二人乗り自転車でしたね。

それと、チュンサンは、父親がいなくて自分は不幸のどん底にいると思っていたのに、ユジンにサラっと「生きているんだからいいじゃない。」と、不幸を否定されたのが、ユジンを好きになる大きなきっかけだったと、私は思っています。
冬ソナって考えると、奥が深いですよね。
長々お邪魔してすみません。
kirakira0611
@hikari33 さま、ありがとうございます😊
読んでいただきまして、ありがとうございます。
嬉しいです。
文を補うために、写真を入れてみました。
ヒカリさんにとっては懐かしさ、わたしにとっては新鮮ですね。
良かったらこれからもよろしくお願いします!
kirakira0611
たんぽぽさま、ありがとうございます。
わたしもツアーに行きました。メタセコイヤ、綺麗ですよね。
また、よかったらご覧ください。
そう言っていただいて、嬉しかったです。
kirakira0611
@masatoshi_2008 さま、ありがとうございます。
うちも母がハマってましたが、もうストーリーを忘れたみたいです。何を質問しても?です。
あんなに観てたのにぃ。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
たんぽぽ
始めまして。京のたんぽぽと言います。
冬ソナ、昔々私も大ファンでした。ナミ島のメタセコイヤの並木道、チュンチョンのロケ地も行ってきました。
お話を読みながら懐かしさで胸が熱くなりました。(^-^)
hikari33
初めまして、私もハマりました。
冬のソナタに恋をして、まさにそんな感じでしたから、、読みながらあの時の感動を思い出しています。
masatoshi_2008
初めまして。冬のソナタ母親が当日大好きで、100回以上はみてると思います!
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「冬のソナタ 1.2.3話 高校生」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事