正月休みが終わった日、ユジンはチュンサンにどんな顔をして会えばいいのか考えながら登校した。
「チュンサン、しばらく待ってたのよ」と拗ねてみる?それとも
「実は私も用事があって行けなくて」にしようかな。あれから電話がないのも、かなり気になっていた。
しかし、教室のドアを開けると何かがおかしかった。みんな一様に泣きじゃくっていて、しかもチラチラとユジンの方を見るのだ。どの顔にも気の毒そうな表情が読み取れる。
すると、チンスクが泣きじゃくりながら言った。
「チュンサンがね、チュンサンがね、死んだんだって。交通事故で。」
チェリンはユジンを睨みつけて泣き出し、サンヒョクは天を仰いだ。ヨングクは呆然としている。
「うそっ、うそでしょ。ねぇ、うそだよね?誰か嘘って言って」
ユジンは涙がハラハラと溢れ落ちるのも構わず、大声で叫んだ。でも、みんな俯いて押し黙ったままだった。
ユジンはチュンサンのうちに行ってみようと教室を飛び出した。サンヒョクが追っかけてきた。
「まてよ、ユジン」
「チュンサンのところに行かないと。ねぇ行かせて。ああっ、わたしチュンサンの顔も声も思い出せない、、、」
チュンサンのことを私だけでも覚えていてあげないと、いつか話してくれた影の国の住人になってしまう、、、。ユジンは泣きじゃくって崩れ落ちた。
ユジンはその日から3日間学校を休んだ。ショックで何も食べられず、布団をかぶって泣きながら一日中寝ていた。母親もヒジンも、そんなユジンを何も言わずにそっと見守っていた。
4日目に登校すると、学校はいつも通りになっていて、みんなは普通に笑っていた。チュンサンの机の上にポツンと白い菊の花が置いてあった。みんなが腫れ物をさわるように、ユジンを扱うのがたまらなく嫌だった。

放課後ヨングクの提案で、南怡島の湖岸で、チュンサンのお葬式をすることになった。5人はバスに乗って湖に向かった。バスの中で誰も全く話をしなかった。
湖岸は完全に凍っていて、死と静寂の世界に支配された氷の国のようだった。5人は桟橋に立った。チュンサンの持ち物で燃やす物がないので、ヨングクがカバンからノートを取り出して紙を破って分けてくれた。順番に燃やしながら、それぞれチュンサンの事を思い出し、冥福を祈った。
ヨングクは
「カンジュンサンさよなら」と叫んだ。
チェリンは泣きじゃくり、ユジンに怒りをぶつけた。そんなチェリンをチンスクが抱きしめた。サンヒョクは心配そうにユジンの顔を見つめていた。
ユジンはうつろな目をして静かに湖面を見つめていた。泣きもせず、怒りもせず、ただ静かにそこに立っていた。チェリンが叫んでいても、全く聞こえていない様子だった。
帰り道でサンヒョクが心配してユジンを家まで送って行った。サンヒョクは
「我慢しないで泣けよ」
と言ってくれかたが、ユジンは
「大丈夫」
とうっすら笑って家に入って行った。

ユジンは髪の毛を束ねて、洗面所で顔を洗ったて、自分の部屋に入った。すると机の上に茶色の包みが置いてあるのに気がついた。
チョンユジンさま
カンジュンサンより
と書かれている。それはチュンサンから遅れて届いたクリスマスプレゼントだった。
ユジンは震える手でそっと包みを開けて、中身を取り出した。一本のカセットテープだった。ゆっくりとデッキに入れて、再生ボタンを押すと、懐かしいあの曲が流れてきた。「初めて」だった。チュンサンが弾いてくれたらしい。放送室で、レコードをくれるといったのに、
「あなたに弾いてもらう方がいいわ」と言ったのを覚えてくれていたのだ。
ユジンの目からみるみる涙が溢れ、制服のスカートや手の甲にポタポタと落ちた。涙は止まることがなかった。
初めてバスの中で会った日のこと
2人で塀を乗り越えたこと
授業をサボって南怡島に行ったこと
初雪の日のファーストキス
次々と思い出が蘇った。
演奏旅行ばかり行っていたお母さん、
チュンサンを覚えていないお父さん、
わたしが彼を忘れてしまったら、誰が思い出してあげるのだろう。
やがて曲が終わると
「ユジナ、クリスマスおめでとう。クリスマスプレゼントだよ」と言う言葉も録音されていた。その楽しそうな笑い声を聞いてしまうと、ますます涙が溢れてきて、ついに机に突っ伏して嗚咽をした。

大晦日の日にチュンサンからの言葉を聞きたかった。そして、自分の言葉も伝えたかった。
「愛してる」と。
ユジンはチュンサンに会いたくてたまらなかった。一度溢れ出したこの想いは、きっと永遠に止まらないだろう、たとえ時が過ぎようとも。