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冬のソナタに恋をして

迷子



明け方眠ってしまったらしいチュンサンは、明るい陽射しを感じて、隣に眠っているはずのユジンの姿を探した。寝ぼけながら隣の布団を探ってみるが、ユジンの姿はどこにもなかった。


チュンサンはドアのところまで這って行ってそっと引き戸を開けた。すると、もうまぶしいぐらいの日が昇っていて、チュンサンは目を細めて外を眺めた。真っ白な日の光の中に、笑顔で振り向くユジンの姿が見える。

「起きたのね。今日は何する?ほら早く起きて」ユジンは寝そべっているチュンサンの手を一生懸命引っ張って起こそうとしたけれど、全くその気がないチュンサンの様子にあきらめてしまった。

そこで、つぎに戸口で体育座りする彼の横にお尻をねじ込んで一緒に座ってみた。チュンサンが頬杖をつくとユジンも真似して、二人は顔を見合わせてにっこりと微笑みあった。

それから手をつないで堤防の上をそろりそろりと歩いたり、浜辺をスナック菓子を法張りながらじゃれあって歩いた。今日も空は晴れ渡り、海面はキラキラと光っていた。




たくさんのカモメたちが空を飛び回り、イカが風に揺られて、洗濯物のように見える。それはひなびた海辺の町の風景そのものだった。何をするわけではなくても、町を散策するだけで、日頃の疲れやしがらみがほどけていくような錯覚に陥ってしまう。夕方、二人は活気に満ちた市場に再びやってきた。市場にはイカ焼きや魚焼きだけではなく、ホットクやチヂミ、トッポッキにキンパやビビンバ、スンデに天ぷらまで売っている。二人は屋台で軽く夕食を済ませて、そのあとも手をつなぎながら街をぶらぶらしていた。

「今から何する?」チュンサンが聞いた。

「どうしよう?」ユジンが楽しそうに答えた。

「今日は何でもユジンの望みを聞いてあげる」

「なんでも?!」ユジンは喜びの声を上げた。

「うん」

しかし、ユジンは信じられないという顔でチュンサンをにらみつけた。チュンサンの方をバシッとたたくと

「ちょっと、カンジュンサン。おかしいわね。どうしちゃったの?」

「別に」

「やっぱり変よ。あやしい。」

「今日だけ特別。だから何でも言ってみて。」

「本当に何でも?」ユジンの顔が輝いた。

「じゃあ、我はあそこにあるプンオパン(タイ焼きを模倣したフナ焼き)が食べたい!買ってまいれ。」とおどけた口調で命令した。チュンサンはびっくりして言った。

「さっき夕食食べただろ?」

「あのね、プンオパンは別腹なの」ユジンはふくれっ面をして答えた。

チュンサンは笑ってしまった。

「かしこまりました。どうぞお待ちください。」

「早くしてちょうだいね。」

チュンサンは急いでプンオパンを買いに走っていった。ユジンが暇そうにぶらぶらしていると、独りの老女がやってきた。

「お嬢さん、ちょっとこれを一緒に運んでくれないかしら?すごく重いのよ」

ユジンは少し迷ったが、おばあさんを助けてあげようと急いで荷物を持つのだった。しかし、数分するとチュンサンがプンオパンを片手に、待ち合わせの場所まで戻ってきた。そして慌ててユジンを探し始めて他の方向に探しに行ってしまった。今度はユジンは待ち合わせの場所に戻ってきてチュンサンを探すものの、彼の姿はどこにもなかった。チュンサンは完全にパニック状態になってしまい、ユジンの姿を求めて街を走り回った。袋の中のプンオパンはすっかり冷めてしまい、チュンサンの体は寒さで少しづつ冷えてきたが、それよりもユジンがどこで何をしているかがとても心配だった。すると、ユジンが金物屋の前をぶらぶらと歩いているのが見えた。ユジンはきょとんとした目でチュンサンを見ていたが、チュンサンは知らず知らずのうちにいら立ちをにじませた口調になってしまった。


「ユジン!どこへ行ってたんだよ」

「おばあさんに、、、おばあさんに荷物運びを頼まれてしまって、、、戻ったらあなたがいなかったから、、、」ユジンはびっくりしながら答えた。

「ちゃんと待ってなければだめじゃないか」チュンサンはとても怒っていた。ユジンにはそれが何でなのか全然わからなかった。


「そんなに怒らないで、、、あなたが見つけてくれるでしょう?」

「僕がいなくなったらどうするんだよ。さあ、行こう」チュンサンは怒った声のまま、くるりと背を向けて歩き始めた。ユジンは怒りをにじませた背中を見ながら、いぶかしく思った。チュンサンは何をそんなに怒っているんだろう?

チュンサンはずんずん歩きながら、言いようのない不安を覚えていた。ユジンがたった数十分いなくなっただけで、どうしようも不安が込み上げてきた。ユジンは、こんなに無防備で無垢なまま、自分がいない世界で、生きていくことができるのだろうか。チュンサンはユジンのことが心配でならなかった。しかし、それはチュンサン自身も同じことで、ユジンのいない世界で、ちゃんと生きていけるか自信がないという自覚はなかった。


ふたりは海辺の松林で休憩をした。チュンサンは今起きたことに動揺してしまい、ひとり煙草をくゆらせていた。ユジンはそんな彼を見つめてため息をついている。そしてふと胸元に手をやって気が付いた。

「チュンサン、あのね、この間ネックレスを落としたら、星が取れちゃったの。そのせいできっと道に迷ったのね。急いで直さなくちゃならないわ。」

すると、チュンサンはユジンを見てぽつりと言った。

「そのネックレス、返してくれる?」

「どうして?」

「僕が直してあげるから」


チュンサンはユジンの首からそっとネックレスを外した。夕日を浴びて、ポラリスのネックレスはキラキラと輝いていた。

「でも、直したらすぐ返してね。宝物だから」


チュンサンはかすかにうなづくと、ネックレスをそっとしまった。心の中でユジンに謝りながら。『思い出はすべて回収しなければ』チュンサンは心を鬼にするのだった。

コメント一覧

kirakira0611
@orai さま、今年もお世話になりました。
来年がより素晴らしい一年になりますように。
orai
こんばんは。
今年一年ありがとうございました。
良いお年をお迎えください。
kirakira0611
@knsw0805 さま、サボってる間にメッセージをありがとうございます😊
今年もステキなブログをありがとうございました。いつもおおらかで、頭が良くて、行動力があり、枠にとらわれない方なんだろうな、と読ませていただいてます。
わたしのつまらないブログを読んでいただいてありがとうございます。最近体調がすぐれずにストップしてます。やりすぎるところが良くないところ。ぼちぼち来年もよろしくお願いします。
良いお年をお迎えくださいね♪来年もよろしくお願いします。
kirakira0611
@joiede_ktfp さま、いつも応援していただいてありがとうございます😊
嬉しいし、励みになってます。
年末になり、仕事納め間近で駆け込み相談が多くて、疲弊中です。プラス婦人系疾患が見つかって、ブログおやすみ中です。正月休みで充電ささたら復活でしょうか。今からはクリスマス料理とサンタ準備を始めます。
いつも優しいお人柄に癒されてます。ありがとうございます😊しばらくしたらまたお会いしたいです。
良いお年をお迎えください。
また来年もよろしくお願いします。
knsw0805
kirakiraさん、おはようございます。

お元気ですか?押しボタンいつもありがとうございます。「冬のソナタ」を時々休まれて日記風な記事を書かれることがありますがその記事を見ていますとkirakiraさんは超真面目な方だなと推察しています。考えてみればあれだけの難しい資格を勉強されて取得される、しかも学生でなく仕事や家庭生活をしながらですから凄い人だと思いますし、冬のソナタを最後まで続けると言う根性は人並み外れていますね、kirakiraさんなんかは政治家になれる方だと思います。私が参謀なら必ず当選させます(笑)75歳おじいちゃんの戯言と思ってお許しくださいね(笑)

さて1年間はあっという間に過ぎて行きます。とくに1週間が早くて早くて・・・。12月26日から1月7日辺りまでお休みします。ちょっと早いですがお知らせいたします。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。
joiede_ktfp
kirakiraさん、今晩は。
とても美しく、切ない時間ですね。
無邪気なユジンと苦しみを隠して微笑むチュンサン。はぐれてしまった時の動揺は、なんとも言えない苦しさでせまってきますね。これから二人が向き合わなければならない時間を思うと、改めてミヒさんをせめずにはいられません。

kirakiraさん、公私ともにお忙しい中、ことし一年ありがとうございました。
身体を労って、よい年末年始をお過ごしくださいね。 (まだ少し早いかな。。?)

この後も、blog拝見させていただきます。
kirakira0611
@syousyu-wainai123753 さま、ありがとうございます😊
ポラリスって学校があるんですね。ステキです。
ブログのご紹介ありがとうございました。嬉しかったです。
wainaiさんのお母様との思い出に冬のソナタがあることが嬉しいです。
またステキなブログを綴ってくださいね。
ありがとうございました😊
syousyu-wainai123753
https://blog.goo.ne.jp/syousyu-wainai123753/e/1d6aa7656a7152de28fddeb99e0508e9
此処の、私のブログにて、私の「冬のソナタ」への思い入れの記事と、福祉関係の、丁度、「ポラリス」と言う、看護学校が、私がお世話になって居る(居た)病院、及び、訪問看護ステーション系列の施設なので、そこ、それに絡めて書き、最後に、申し訳ないんですが、kirakiraさんのブログのリンクも張り付けさせて頂き、リンクしてしまいました。勝手な振る舞い、ごめんなさい。
けれども、私の「冬ソナ愛」は、正に二十年振りに、このブログを通して、復活したようなものなので、非常に、私にとり、このブログは、非常に大事な重要なモチーフ、存在として、永遠に、記憶の中に留まり、残ると思います。
それ位、非常な思いで、このブログを見詰めさせて頂いて居ります。只、感謝あるのみです。kirakiraさん、誠に、有難う御座います。
以上。よしなに。wainai
kirakira0611
@syousyu-wainai123753 さま、そうなんですね。
わたしは原語で吹き替えなしで観るのが何語でも好きです。俳優さんそのままの喋り方の方がしっくりきます。基本的に言語が好きなので、音としてそのままの言い回しをコピーしてしゃべるのも好きです。意味は分かりませんけど。
ありがとうございました😊
syousyu-wainai123753
私は、吹き替え版の、萩原聖人と、田中美里版、これが一番しっくりくる、と言うか、これしか見た事がないので、他は判りません。
皆さん、韓国語って、結構ごついというか、あの、冬ソナの世界観にはホントに合ってるのかな、とも思います。
日本では、この二人が、一番しっくりきます。
kirakira0611
@naotomo3451 さま、こんばんは♪
読んでいただいてありがとうございます😊
嬉しいです。萩原まさとバージョンで観たんですね。韓国語を聞いてびっくりしませんでした?
わたしはチェジウさんの声の低さにびっくりしました(笑)
少し忙しくてお休みしますが、また読んでくださいね。
ありがとうございました😊
naotomo3451
切ないですね。私は一度吹き替え版で全部見て、字幕版は忙しくなった時で少し欠落しています。
改めて小説で拝読して記憶が甦って来ました。
これからが、楽しみでありドキドキしています。
お忙しい毎日大変と思いますが、楽しみにしています。ありがとうございます!
kirakira0611
@samsamhappy さま、そうですね。イッチバン綺麗な場面はこの辺と南怡島あたりです。おっしゃる通り!
samsamhappyさんのおっしゃること、よく分かりますよ!毒舌(失礼)が大好きです❤️
ありがとうございました😊
kirakira0611
@breezemaster さま、お返事遅くなりすみません。
わたし、韓国ドラマも料理も全然知りません。プンオパンも調べながら書きました。日本の統治時代に入ったものみたいですね、、、。

そしてたしかに田舎の民宿はびっくりしました。今もこんなのあるのかしら?民宿というと聞こえは良いですが、民家ですよね?当時母が観てるのを見て一番びっくりしました。彼氏と泊まるのに、民宿?って(笑)ミニョンのイメージじゃないですね。
冬のソナタはいたるところに小道具や伏線があって、書いていても楽しいです。

年末になって、少しずつ忙しくなったり、精密検査に行ったりして更新が滞りそうです。本当に申し訳ないです。どうぞよろしくお願いします。
samsamhappy
こんにちは。このドラマで好きなのはこのトンへの場面と高校の時の南怡島と別荘の場面のみ😅憎っくきサンヒョクアボジとチュンサンオモニ🤣いつまでも言ってます😭
breezemaster
おはようございます^^

カモメたちが空を飛び回り、イカが風に揺られて、
韓国の田舎の海岸沿い、こんなのんびりしたところがあるんですね。
宿も、鄙びた民宿と言ったところ、
ミニョンと言うといつもお洒落なスタイル、場所もお洒落なイメージをしてしまいますが、
チュンサンになると、ユジンと出会った故郷のような
少しのんびりした雰囲気になるのを感じます。

プンオパン、知らなかったですが検索すると見た目は、
まさに鯛焼きですよね^^;
kirakiraさんは、韓国料理にもお詳しいですか?^^;

「チュンサン、あのね、この間ネックレスを落としたら、星が取れちゃったの。そのせいできっと道に迷ったのね。急いで直さなくちゃならないわ。」
チュンサンが、ユジンを見失ったことから、思う気持ち、
ユジンは、さり気なく壊れたポラリスで、道に迷ったと、
脚本家の展開の上手さ、それをドラマの中の貴重なシーンを
上手く、書いてくれるkirakiraさん、脚本家になれますよ

あぁ、どんどん進んで行く冬ソナの終盤を悲しさとともに、
楽しませていただきました
ありがとうございます。
kirakira0611
@usagimini さま、そうですよね。二人のメイキングでずるっとなってかわいいですよね。束の間の幸せな日でしたね。
このあとがかわいそうで、なかなか書けないでいます。
いつもありがとうございます😊
今日は久しぶりの雨です☔️。
お元気でお過ごしくださいませ。
usagimini
こんばんは。お揃いのセーター着て仲良く並んで座ったのはつかの間で、狭すぎで二人でズルっと落ちちゃうんですよね。メーキングで笑いました。 
で、また二人の間を木が裂いちゃって、ねぇ… グッと切なくなるシーンですね。
kirakira0611
@81sasayuri1018 さま、ありがとうございました😊
朝の楽しそうな2人がとても好きです。重苦しかった昨夜とうって変わり寝ぼけ眼のチュンサンと眩しい笑顔のユジン。しかし、夕方にユジンにとってはわけが分からないケンカ、チュンサンの苦悩、一日で状況ががらりと変わりますね。
これから悲しい別れ、ぼちぼち書いていこうと思います。
ありがとうございました😊
81sasayuri1018
こんばんは。

>チュンサンは何をそんなに怒っているんだろう?

ユジンは、まだ知りませんでしたものね・・・
最後の写真・・・チュンサンの苦悩がありありと出てますよね・・・

>『思い出はすべて回収しなければ』

こういう思い出の品を取っておきたくないという深層には、
あのミヒたち3人の写真みたいにしたくなかったのかな・・・
あとの人が苦しむ羽目になるようなものは、
残したくないというような・・・
特に、この時点では兄と妹の恋愛なのですし・・・
チュンサン、苦し過ぎますよね・・・・・ゆり
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