
イミニョンはLAでの大学生生活を楽しんでいた。ルックスが良く、頭もよく、いつも明るくて優しいミニョンの周りには、男女問わず、たくさんの友人が集まっていた。
ミニョンはアメリカの学生らしく、良く学び良く遊んだ。
大学では得意の数学を活かして、建物の設計について学んだ。アメリカや世界中の有名な建築物を見に旅行をしては、写真を撮ったり、スケッチをした。シーンとした建物の中で一人きりでいると、まるで母親の腕に抱きしめられているようで、不思議と安らぐことができた。
母親のミヒは、明朗快活なミニョンを深く愛しており、結婚相手のミンジュンにも実の子供のように可愛がられ、精神的に安定していた。
ミニョンの建築家としての才能は相当なもので、有名な教授にみそめられて、毎日研究室に通い、あらゆることを学んだ。そして、有名建築事務所を紹介されて、大学生のときからインターンとして働き始めた。その才能はメキメキと頭角を現して、ミニョンはいろいろなコンクールで賞を受賞するようになった。
大学を卒業してそのままその建築事務所に勤めて四年たったある日、ミニョンは事務所を辞めてフランスの大学でさらに学び直すために旅立った。2年間の予定だった。そのころにはある程度建名の知れた建築家になっていたのは彼の才能と努力所以だろう。

一方で、そんなミニョンにはいつも隣に女性がいた。誰もが彼に夢中になり、彼も女性が大好きだった。自分が好きという前に夢中になられるので、愛情を深める前に男女の関係になることばかりで、愛ってなんだろうと思いながら、日々美しい女性たちと楽しく過ごしていた。もっともその時々で相手を一人に決めてきちんと大好きではいたけれど、深く愛するという感覚が分からずにいた。そう思っている間に、相手に
「ミニョンさんは優しいけれど本当に自分のことを愛してはいない」と別れを告げられることもしばしばだった。または、ミニョンが深く愛してくれるのを忍耐強く待っていたが、耐えきれずに怒って別れる女性たちもいた。心に一筋の痛みは感じたものの、すぐにそれはなくなり、気がつくと次の女性が隣にいるという繰り返しだった。
そんなミニョンだったが、少し気になることは時々頭の中にもやがかかったようになることだった。
それは例えば落ち葉で焚き火をしたときに、ふと
「ハシバミの匂いがする」と思ったり、
空から雪が降ってくるのを見ると胸が締め付けられるような気分になる時だった。
誰かがスミレの香りの香水をつけていると、涙ぐみそうな気持ちにもなった。
また、いつも惹かれるのはストレートの黒髪の背の高い色白の細身の女性で、なぜか懐かしい気持ちになるのも不思議だった。
いつも幸せなのに、何かが満たされない、自分の一部分をどこかに置き忘れてきたような焦燥感を少し感じていた。周りが次々と結婚していく中で、冷めた目でしか女性を見れない自分は、とても冷たい人間で、人としてどこか欠陥があるのではないかと思っていた。このまま一生誰も愛せないのではないだろうか。
その一方で、ルックスもお金も地位も名誉も持っている自分に自信を持っており、それぐらいの悩みはたいしたことはない、とも思っていた。自分が望んで得られなかったものはあっただろうか?
建築事務所に四年勤めて、ついにミニョンは息詰まるような感覚におそわれて、違う世界を見るためにフランスに旅立った。
フランスでもとても楽しい日々を過ごしていたミニョン。どこに行っても彼は人気者だった。しかし、やはり何かが抜け落ちたような気持ちは膨らむばかりで、彼を不安に陥れた。
そんなときだった。もうすぐアメリカに帰るというときに、韓国から来たオチェリンという留学生と知り合った。彼女は初対面でミニョンを見たとき、激しい驚きをしめした。そして、どこの出身か、高校はどこかなど、矢継ぎばやに質問した。しかし、理由を聞くとごまかして教えてくれなかった。一方でミニョンも彼女を見ていると、何故か懐かしい気持ちになり、一緒にいたいと思うようになった。
彼女から韓国の話を聞いているうちに、一度母国である韓国で働いてみるのも悪くない、自分のルーツを知りたいと思うようになっていた。
彼は知り合いのコネを駆使して、ソウルにあるマルシアンという建築会社に理事として勤めることになった。
一方で好意を寄せるチェリンに告白されて付き合っているものの、なぜか今回は慎重になる自分がいた。彼女を大切にしたいというよりも、彼女の背後にある何かが彼の心にブレーキをかけていた。もっともチェリンが自分のことをとても大切に考えているので、すぐに手を出さないのだと考えているとは、つゆほども思わなかったけれど。
2人は数日をおいて別々に、韓国へと旅立った。この選択が運命を変えていくとも知らずに。