092:滑（きじとら猫）

滑らかに口を飛び出す言葉など薄味すぎて信用できぬ

091:砂糖（きじとら猫）

お砂糖を煮詰めたような関係はすでに冷たく固まっている

090:匂 （きじとら猫）

おひさまの匂いにそっとくるまって秋の夜長を待ち受けている

089:無理（きじとら猫）

無理ならば無理でよかった手に入れたものを抱えて途方に暮れる

088:銀（きじとら猫）

「さようなら、路銀の足しに」と渡されたメイプルリーフ金貨がひとつ

087:朗読（きじとら猫）

朗読のおだやかな声こだまして盲人たちの世界広がる

086:メイド（きじとら猫）

何着もレディーメイドを試したが私の身体に合う恋はない

085:富（きじとら猫）

助手席の君の寝顔にささやいた「窓の向こうに富士が見えるよ」

084:世紀（きじとら猫）

滅亡を宣告された世紀末あまりに長い余生を過ごす

083:拝（きじとら猫）

心だけ置き去りにして旅に出る「拝島行」の電車に乗って