カトマンズの裏路地
質素な茶屋の青い壁
一杯25円のミルクティーは、
昨日30円に値上がりした。
若い店主が今日も微笑む。
昔は違う店主だったが、
元トレッキング・ガイドだった彼が、
店を買い取ったらしい。
棚に置いてある一瓶3000円弱の幻覚性蜂蜜の
マッド・ハニーに目をやった僕に、
「今の時期のハニーの効果は薄いよ」と
爽やかな笑顔で彼は言う。
「春先が一番良いんでしょ」と僕は返す。
何気ない日常会話。
静かに流れる時間。
家に帰ってゆっくりしたいが、
日本に帰りたくは無い。
何処が僕の家なのか。
矛盾が頭を駆け巡る。
旅をしていると、
旅をしているにもかかわらず、
長い旅に出たい気持ちになる。
昔、長旅の果てにポルトガルまで行き着き、
舞い戻ったインドで糞尿と汗にまみれた身体で、
大麻の香りと共にネパールに渡った頃が懐かしい。
あの時は仕事なんて全く考えてなかったっけ。
今では仕事の事ばかりだ。
金の話ばかりで嫌になる。
その嫌な筈な事が頭を巡る。
昨日、旧知のチベット人が持っていた、
古いチベタン・ターコイズを買うべきかどうか考えながら
ミルクティーを啜る。
日本ではそれなりの値段は付くだろう。
値段次第で売れる物でもあるだろう。
しかし、買う気があまり起きない。
損得勘定をするのは疲れる。
月収5万円が良い給料のこの地で、
何万、何十万、何百万、
時には、
何千万円もの大金の売買がされるアンティーク業界。
果たして、
その先には何が待っているのか。
僕にはわからない。
旅を気ままに楽しみたい僕は、
プロのアンティーク・ディーラーとしては失格かもしれない。
長い様で短い時間の中、
一人旅は色々な事を考える。
気持ちの変化も多い。
一人旅はもういいや
仕事だから仕方ないと自分に言い聞かせて、
何年経つのだろう。
でも、他人と一緒に行動するなんて
僕には本当は向いてないのかもしれない。
昔、誰かが僕に言った。
「あなたは野良猫ね。
好きな所に好きな時に1人で行って、
ご飯が欲しい時にだけ寄ってくるのよ」と。
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いつかのカトマンズにて。
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