旅する骨董屋 喜八

チベット圏を中心にアンティークや古民芸・装飾品を旅をしながら売買する喜八の、世界の様々な物や人その文化を巡る旅のブログ。

ウズベキスタンの民族衣装チャパンのアンティーク・絣柄シャヒィ

2022年06月10日 | 古い物



ウズベキスタンの民族衣装チャパン※の古いシャヒィのオリジナルです。

今回も古い物を中心に数十枚単位の民族衣装を見ました。

絹×絹の絣柄のシャヒィ(巷ではイカット・【絹×木綿】と混同されがちですが別物)で、
今迄見て来た中で個人的には最高の一着と言えます。




燃え立つ様な絣柄、
輝く色艶、
100年近く経過した古さなど、どれも文句は付けられません。

しいて文句を言うならば値段でした。

シャヒィは新旧、柄、状態など本当に様々で、
概して、今や超高額のチャパンも存在する古いイカットに比べてシャヒィの値段は現実的な位置にいます。

しかし、ウズベキスタンの布専門の問屋にあったこの一着は、
シャヒィとしては高額な値段が付けられていました。

他にもシャヒィもイカットも多数ありましたが、
この一着は値段も柄も品質も古さも質も群を抜いていました。

値段相応の実力だったので仕方がありません。

僕が知る限り、
この知人の問屋の値段は市場価格的に比べて格段に高いとは思えません。
かといって凄く安いとも言えませんが、良い物は揃っています。

まぁ、例えばイスタンブールのグランドバザールのメイン通りの店の値段に比べたら、
破格に安いとは思いますが。

値段はフェアな価格だと思えます。

とは言え安価な一着ではありませんでした。

仕入れても日本では売れないと思い諦めかけていましたが、
カナダ人コレクターが買おうとしてたので仕入れてみました。

なぜなら、この機会を逃すと次はいつになるか分かりません。
現実的な値段で手にできるのであれば持っておいて良いと判断したのと、
シャヒィはこの一着あれば自分的に納得できるだろうとも思ったからです。

僕が訪れたタイミングは良くも悪くも以前は無かった良いチャパンは他にもあって、
もし僕がお金持ちならまとめて買取りたかった。
一番良いのだけ仕入れて力尽きました。




古く珍しいタイプの絣柄。
光り輝く艶。

ウズベキスタンの民族衣装で有名なのは太陽(眼)がダイナミックに配置された迫力ある柄ですが、
それは以前も扱ったので今は上品さと優雅さも素晴らしいと思うのです。




全身
知らない人が見たら日本の着物と思うかもしれないが、全くの別物でござる。




背面も存在感がある。





光り輝く艶があるのが分かるかしら。
写真では輝きがイマイチ伝わらないのが悔しい。
質の落ちるシャヒィでは目に出来ない艶です。




どーん
中央アジアの美しさを静かに主張しております。

これで日本の街中を歩いたらさぞ目を引くだろうが、
分かる人も少ないかもしれない。






ウズベキスタンの民族衣装全般に言える事だが、
裏地はロシアンプリントが圧倒的に多いが、
総じて日本人の趣向とは異なる柄が用いられるが、
この一着は孔雀の羽根?の様な上品な柄の裏地が使われている。
良き。


「これ、凄く良いんですよ」とどんなに言ったところで
僕の悪い点なのだが、いつも比べる物を同時に買わない癖があり、
一番良いと思ったのだけ仕入れてしまうのです。
なので、
どうしても違いと良さが伝わり辛いかもしれません。

通常イカット等の値段は色数を基準に考える場合もありますが、
色味を抑えた渋い雰囲気も素晴らしく、
特にこの一着に関しては色数がどうとかは個人的には別次元の様に感じるのです。

色々様々見て来た、
違いの分かる玄人向けになるのかもしれない。

どうかしら。

どなたか分かってくれるかしら。


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※チャパンという名称は男性用着衣という文献もありますが、
僕の知っている範囲では女性も着用しているのを見かけます。
同じチャパンになりますが呼び名が異なる(ハラト・ウズベク語ではチャパン)とも見解がありますが、
僕の知人のウズベク女性は男女用共にチャパンと呼んでいました。
尚、プルオーバータイプは名称が異なりキョイレック(音聞き)と呼んでいました。


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古いペルシャン絣ヤズド

2021年12月22日 | 古い物



古いヤズドのショールでござる。

「はぁ?何じゃいそれ?」
と言われそうだ。

それ程までに日本では知名度は皆無だろう。

簡単に言うと、
イランの絣の布ですな。

絣またはイカットと言えば、
インドネシアやウズベキスタンが有名だろう。
勿論、日本にも在る。

しかし実は、
イランにも絣は存在します。

名は【ヤズド】と言う。

ヤズドという名称は、
正確にはイランの街名または地域名であって、
その地での絣のヤズドは通称としての通り名。

日本では名前すら知られてないが、
欧米のコレクターならば、オールド・ヤズドは、
知る人ぞ知る絣でおま。

まぁ、英語で検索すれば出てくるでしょう。

現地で知人の卸問屋に一枚のみ残っておりました。





広げると意外と大きい。
大判ショール。





オリジナルならではの力強い雰囲気。
量産品は機械織りが多いなか、完全な手織り。
両脇のボーダーも良い。
写真では伝わらないが、ごく柔らかい手触り。


常日頃、僕が「珍しい布を探してるねん」と知人業者に言ってたら、
「こんなんどーかなー?」と出して来た一枚。

どーやら詳しく聞くと、
以前は3枚程持っていたが、
それらはイギリスの著名なテキスタイル・コレクターの元へと
旅立ったとの事で、この一枚は状態が完品でないので、
たまたま残ったらしい。

試しに旅立った物の値段を聞いたら、
例え仕入れても日本では誰も買わない程の値段であったので、
諦めも即座についたが、一目見てみたかった。

最も、残った一枚は個人的には気に入ったので満足はした。
ダメージだって美しいんだもん。
ダイナミックな柄も良い。
使われている色数だって単色ではない。

トルコ製の新しいイカットのリプロダクト品ならば簡単に買えるし、
それらを作っている業者も知っている。
中には高品質かつ現代的なファッション目線の良い物もあるが、
僕にとっては珍しくはない。
だいぶ以前より目にしていた物達だ。

ウズベキスタンの古いイカットも今まで扱った。
これからも扱うだろう。
オリジナルのアンティーク・ベルベット・イカットも欲しいが、
今や高額過ぎて買えない。

だが今回、
ペルシャン・イカットだとー

しかも古い。

確実に変化球だ。
これは良い。

人と被らない。

民族系をちょっと知ってる人からの
「素敵なウズベキスタンのショールですね〜。ワタクシも持っておりますの〜。オホホ」と
マウントされた時にも、
「いやぁ、これはペルシャの絣なんです〜」と反撃できる。


人と違う物をお探しの方へ。


シルク製です。


イランの絣
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ジョージアの美しい襤褸 アンティーク・キリム

2021年12月10日 | 古い物



襤褸の美は、
日本の襤褸に限った事では無いと個人的には思っていて、
密かに、襤褸の美しさを世界中の布で探している。

チベットの襤褸布に続き、
キリムにもそれを視てみた。
しかも変化球でジョージアのアンティーク・キリム

タイトルで便宜上「ジョージアの」としているが来歴には謎がある。
一見、トルコのアナトリアのキリムかな、とも思えるが、
図柄や雰囲気が若干異なるように感じる。

手に入れたのはジョージアであるが、
ジョージアでも数は少ないが隣国トルコのキリムにも出会える事は出会える。
だが、
このキリムの来歴不明確なところは、
一般の民間人がジョージアの路上で売っていたところにもある。

売り手は英語が全く話せないジョージア人の初老の女性。

その時たまたま、僕はドイツ人の友達と一緒に居たのだが、
彼はロシア語を含む7カ国語を流暢に話せたので、
売り手から詳しい内容を聞く事ができた。
(旧ソビエト領という歴史的な背景からジョージアではロシア語も通じる)

売り手が言うには、
「ジョージアのスヴァネティ地方から持って来たわよ」と言う。

スヴァネティ?

一瞬、僕は「おや?」と思った。

なぜなら僕が知る限り、
ジョージアのスヴァネティ地方での織物文化、キリム等の文化は、
既に失われてしまっている。

そのスヴァネティの古いキリムが何故ここに?

彼女の売っていた他の物を見てみても、
古い台所用品とか皿とか布とか全部ジョージアの物であった。
トルコ物が紛れたのかしら?

素人の売り手がジョージアの物と嘘を付く理由がない。
トルコよりジョージアの物の方が高く売れるという事も無い。
むしろ、トルコのアンティーク・キリムの方が市場価値はあるし、
わざわざトルコからジョージアに、
この状態の襤褸を商売用に持ってきて路上で売る事は考えにくい。

客観的に考えて、
ジョージアに古くから在った物であるのは間違いないだろう。

なので、考えられるのは二通りかしら。

一つは、だいぶ前にトルコから民間人経由でジョージアに流れてきた物

二つ目は、文化が失われる前のジョージアのスヴァネティ地方(またはその他の地域)の古いキリム

個人的には後者であるように思えるが、
来歴は置いておいても、僕が惹かれたのはその姿である。

出会った時には、
これでもかと言うほどに埃まみれで隅っこにグチャグチャに置かれていた。
僕以外であれば、たぶん誰も手にも取らないかもしれない。

ぶっちゃけ、
ほぼゴミの様な見た目であった。

しかし、僕は光る物を感じた。

よく見てみたらボロボロになる程使い込まれ、
補修も施されている。

「美しい襤褸だ」

その圧倒的な存在感に僕は魅了された。

ドイツ人の友達には「え?これを買うの?」と言われたが、
僕にとっては『宝』との出会いであった。




圧倒的な存在感。
広げるとサイズは大きい。









力強い図柄と雰囲気、擦り切れ使い込まれた摩耗感。
頑丈に織られたキリムをどれほどの年月使い込めばこうなるのだろうか。
新しいお土産物とは全く異なる価値観がそこには在る。

人は言うだろう。

「単にボロボロなだけじゃん」と。

だが、
俺は、これこそが美しいのではないのかしら?と想うのです。










手仕事で修復がされている。
修復糸が同一であるので、売る際に修復したのか元々か不明だが、
何故か修復されていない箇所も多い。
そもそも、わざわざ売る為に修復するのであれば、
理由は分からぬが長年放置されていたであろう程、埃まみれの状態では無いとは思う。

因に、キリムの補修は通常は縫い糸では行わない。
新しい糸を繋いで織り直して修復を行う。

現地の美術館のキリムを修復する職人に、
美術館用のキリムを修復している現場を見せてもらった事もあるが、
まずこういった縫い糸での補修は行っていなかった。
この襤褸キリムは、織り直しが出来ない素人が補修したのであろう。
市場に姿を表すキリムとしては補修方法も珍しいと言えば珍しい。
こういった事も日本の襤褸にも共通する手仕事を感じた。


遥々日本まで持ち帰り、
洗い直してみると、白くクスんだその下から美しい姿を表した。
それは、美しいアンティークの襤褸キリムであった。




美しい襤褸

人知れず、ジョージアの片隅の古いキリムに「それ」を視たのでした。



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