Farmers Plant Seeds

🤳《不易流行》🤳あしたの詩を唄おうよ…🎵

故郷は遠くにありて・・・忘れかけてた【遠い背景の記憶】原点回帰[15]【雪の記憶】⑧

2022-01-18 | こころの旅



JPEG0042~0051 P-82~P-100
 第二章 [二]を紹介します。

・・・学校帰り汽車での偶然の出会と出来事と互いの身上話から二人の親交は
深まってゆくのである。・・・・・




・・・斜陽を反射してレールが光っていた。レールの光る部分は、二人が歩く
につれて動いて行った。海彦は急がなかった。この二本のレールがどこまでも
つづいていて、どこまでもこうして並んで歩いてゆく。そうであるならばどん
によいだろうと思った。・・・「どこから転校していらっしたんですか?」
 海彦は答えた。少女は海彦が朝鮮から引揚げてきたと聞いて、おどろいて見
せた。「向こうでは大変だったでしょう?」・・・「危なくはなかった?」
 二人は並んで枕木を踏んで歩いていた。腕と腕が、とき折りふれ合った。
「危ないことも多かったし、知っている人も殺されたりした。国が敗けたかな
しみは、ずいぶん味わいましたょ。権力の保護のないみじめさは。その代わり
、戦争の苦しさは知らなかったんだが」・・・少女は「あたしの友だちが、眼
の前で殺されたの。機銃掃射を受けて、並んで伏せたの。飛行機が通り過ぎて
、今のうちに逃げようと体を起こして横を見たら、友だちは身動きもしない。
あわてて声をかけながら抱き起したわ。死んだとはまさか思わなかったわ。弾
があたるなら、両方ともにあたると思っていた。・・・アメリカの飛行機が一
番憎い。・・・ちょうど勤労動員で田植えに行った帰りだったの。動員を命じ
た人も校長も憎かった。」・・・前の方から列車が進んできた。二人はレール
から離れて、線路の脇の小道に避けた。黙り合って、列車を迎えた。列車は
風を吹いて二人の横を通って行った。二人はふたたび枕木の上を歩き始めた。
 思い出したように海彦は自分の名を告げた。そして初めて、少女の名が
志野雪子であることを知った。海彦と同じ学年であった。「ぼくも、戦争が
終わってから、大人の言うことが信用できなくなった。戦争中に言っていた
こともこの頃言いはじめたことも嘘ではないとは言わせない」「敵からも、
同じ国の大人たちからも被害を受けたのだわ。心にヒビをいれられたわけね」
・・・そんなお互いの心中を語らいながら歩いてゆく・・・やがて防止の落ち
た地点に来た。二人は線路の両側の土提や麦畠を探し廻った。が、帽子は見つ
からなかった。・・・雪子はいくらか顔を紅らめて言い難そうに、「あの、
帽子ね。あたしから贈らせて頂きます。明日の朝、寸法をはかりますから」
いいんですよ。そんなに心配しなくても」「いいえ。あたしは最初から贈りた
かったんですもの」・・・・・昨日まで、あの少女とこんなに急激に親しく
なろうとは、まったく考えもつかなかった。空想のなかででもこうまで発展さ
せえなかったのだ。・・・海彦は誰もいない所で、ゆっくりきょうの出来事
を噛みしめてみたかった。・・・・・
・・・学校帰り汽車での偶然の出会と出来事と互いの身上話から二人の親交は
深まってゆくのである。・・・・・
 ※特に印象に残った内容を文中より抜粋転載しました。
 次回は、 第二章 [三]を紹介します。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 故郷は遠くにありて・・・忘... | トップ | 故郷は遠くにありて・・・忘... »
最新の画像もっと見る