とうとう大切なものが誕生した。
前々から妻の出産には何があっても立ち会おうと決めていたが、前の週に四国への出張などが入って正直不安だった。
予定日から2日遅れたものの、携帯電話を寝る前に枕元においていつ電話が鳴ってもいいようにはしていた。
朝携帯のアラームが鳴ったと思って電話を取ろうとして時間を見ればまだ4時。
その瞬間「とうとう来た」と思って電話に出たら陣痛が始まったとのこと。
妻の声には余裕があり、「すぐ生まれるわけじゃないからゆっくりおいで」と言う。
確かにそうだと思って冷静になってシャワーを浴びた。が、気が気でないのですぐに病院へ向かった。
まだ暗い病院へ到着し、通された部屋はたたみの部屋ではなく分娩室だった。
自然分娩用の部屋がいっぱいで空いていないらしく、しばらくはここで待機だった。
妻の顔にはまだ余裕があるが、時折苦痛に顔をゆがめている。これが陣痛か。
実家から妻を連れてきた母は「こんなもんちゃうから。しゃべれる余裕なくなるし」という。
助産師さんが来て陣痛が来る間隔と陣痛そのものの時間を計っている。
まだまだらしい。
そうこうしているうちにたたみの部屋へ通されたが、全く普通の綺麗な個室だった。大学生が生活しているような広さで、水道や棚が置いてある。
この部屋だけを見れば誰も病院だと思わないはず。
通常はこんな分娩台で出産をするが、今回は妻の希望で助産師さんに取り上げてもらう制度にお願いした。
数時間たって陣痛の間隔も短くなり、陣痛も長くなってきている。
妻の顔にも余裕がなくなってきた。
お腹にはベルトを巻いてこの機械で赤ん坊の脈拍と陣痛の程度を測っている。
陣痛が来るとき、赤ん坊の心拍数もかなり上がってくる。
どうやら赤ん坊が下に下りようと一生懸命になったとき、陣痛が来るらしい。
深夜1時の陣痛開始からかれこれ18時間たった夜7時ごろ、いよいよとばかりに助産師さんが青い清潔のガウンを身にまとった。
清潔を要するオペではドクターや看護師が身にまとうガウン。
周りがばたばたし始めた頃に二人目の助産師さん登場。
彼女はつい最近朝8時からやっている小倉さんのとくだねの特集にも出ていた。
テレビに出るのは知っていて妻はテレビへの出演を断っていた。
一人清潔になった助産師さんは心拍数と陣痛のタイミングを見計らっている。
「赤ん坊の頭が見えてきたよ!」と元気付ける助産師さん。
もちろん写真を撮りながらも妻をさすったり手を握ったりして励ましながら。
20回以上最後の「いきみ」を繰り返しただろうか。
「もうだめ!」と力尽きそうだった妻をみんなで励ましながら。
最後は妻の背中を支えながらいきんでもらい、無事に赤ん坊が誕生してくれた。
これが取り上げた瞬間。
「良く頑張ったね!」とねぎらう助産師さん。
俺も涙目になりながら美しい光景を記録に残す。
「ご主人がへその緒を切りますか?」と聞かれ動揺したが「お願いします」と言ってしまった。今は後悔している。
母に抱きかかえられる赤ん坊。
この瞬間涙がこらえきれずに少し出てしまった。
でも妻が先に泣いちゃったから俺は我慢しようと思った。
でも今見ても泣きそうになる。。。
生まれた子は3462グラムの男の子。
体重を計った後、助産師さんが元気かどうか聴診器で心臓の音を聞いている。
カメラを向けるとこっちを見てくれた。
なんて無垢な顔をしてるんだろう・・・。
顔をすっごく近づけながら「お父さんだよ~。声は聞いたことあるやろ?」と返事がないけどずっと話しかけていた。
見れば見るほど変わる表情。
ほんとうに飽きない。
なんで泣いているのかもちんぷんかんぷん。
助産師さん曰く、最初はお腹の中でなんにも不安なくいたのに急に外に出てきたから全てが不安なんです。お乳が欲しいとかおしっこしたいとかで泣くのはもうちょっとして後なんですよ、とのこと。
今回18時間の自然分娩に立ち会ったけど、ほんとうによかった。
人によってははじめから立会いなんてしない、と言う人もいたし、
立会いしたけど二度とイヤって言う人もいた。
けど俺は今回ほんとうにこの体験を妻と赤ん坊と助産師さんたちとみんなで共有できてよかったと思う。
感覚的には二人で産んだ!みたいな感覚があるし、赤ん坊が大きくなって出産の話を自信を持ってしてあげたいと思う。
何より一番大変で頑張ったのは妻だし、心の底から褒めてあげたい。
女性は神秘的で美しいと実感した。
母なる大地・・・とはよく言ったものだ。。。