大文字屋の憲ちゃん (当面は 石巻 地震) 

RIP 親父 けんちゃん 石巻 地震

20190505 尾籠な話 ポリープ切りました 憲ちゃんと言葉

2019-05-05 21:21:02 | 父からの(への)便り

 尾籠な話ですが…、そんな枕の話ぶりが品を感じさせると気付いたのはおそらく二十代の頃。その言葉自体いつ知ったのか定かでないが、何かの本で読み、ラジオか何かで人が話すのを聞き「ふーん」と思った、そんな記憶が朧げながらある。

*   *   *   *

 今年の1月、大腸の内視鏡検査を某医院で受けた。発端は昨年9月に受けた生活習慣病検診である。レントゲンや胃カメラ、血液検査に異常はなかったが2種類提出の検便の一つに潜血便が認められ、「大腸にポリープや悪性腫瘍がある可能性があるため大腸の内視鏡検査を受ける必要がある」との所見が示された。それが10月下旬。不思議なもので、人間は自分の命が危険に晒されているとなっても、その危険から目を逸らしてしまおうとするところがある。「面倒だ」、「時間がない」、「悪性腫瘍があったらどうしよう」、「二つのうちの一つにしか見つからなかったのだから、たんなる体調不良だろう」。不安とそれを打ち消そうとする(誤魔化そうとする)気持ちとが入り乱れつつ、何とか検査を受けない方向に考えたものである。
 まあ、いつまでも逃げるわけにいかないことにほどなく気づき、結局病院探しを始めたのが11月に入ってから。11月中旬に予約を取ることができた。
 その病院は消化器系専門で、大腸の内視鏡検査の実績が豊富。HPを見ると患者に対する配慮が行き届いている印象で、それが決め手になった。予約制の歯医者以外にここ二十年病院に行ったことがないので、大病院で数時間も待たされるのは勘弁願いたい、こじんまりした予約制の病院ならそんなに待たされることはないだろう、そんなふうに思いつつ受診に向かった。結果的に予約時間から2時間半ほど待たされた。時刻は夕方近くになっていたが、担当医師は今まで患者の施術が続いていたらしく、慌ただしそうな空気を漂わせながら問診を始めた。(後でわかったが院長先生だった。)

 ふだんの便の回数や内容、食事、水分摂取の状況等々を一通り説明すると、医師は、「便の回数が少ないですね。毎日定期的にあった方がいい。便の後半は水っぽくなっていないですか? そうでしょ? 水の摂取が少ないと、便を作るのに腸の上の方から水分が誘導されて便がやわらかくなる。水は一日2リットルは摂ってください。お茶やジュ―スでもいい。塩分を含む汁ものやスープはカウントしません。」とかなり一方的に説明した。
 私はふだん水はほとんど飲まない。飲むと胃液が薄まって消化に悪いような気がするし、水分が少ない方が便もゆるくならず硬い便になると思っていた。便通も2、3日に一度が普通だし、便秘というのは1週間ぐらい出ない人のことで、自分は「普通」の範囲内だと思っていた。ところが医師の話ではどうもそうではないらいしい。それでも、便通は体質によって人それぞれだろうから、この程度の話で自分の便通の情況に問題があると言われてもちょっと納得しがたいなあ、との思いを捨てきれずにいた。
 とにかく大腸の内視鏡検査を受けるということで、その場は食事に関するアドバイス、特に水を一日に2リットル飲むという怪しげな健康法にも思えるアドバイスと検査の準備に必要な下剤や食事制限の手引きの書類などを受け取って帰ってきた。受付では、「内視鏡検査を行った際にポリープ等が発見された場合には切除しますので、その場合には費用が最大3万円程度になります。特に問題がなければ数千円です。」との説明も受けた。
 検査の日にちの予約は後ほど電話で相談して最終決定することにしていたので、数日後に電話で決めたのだが、11月中旬の時点で12月下旬まで予約が埋まっており、空いているのが1月4日以降と言われる。ただし、「3日前から食事制限があるので、実質的に元旦から正月料理やらお酒やらの御馳走はNGになりますが、どうなさいますか」と言われて、正月に美味しいお酒を飲みたいという誘惑に負けた私は1月中旬の日にちを予約したのだった。

 検査の3日前から食事制限が始まった。注意点は以下の通り。

 ●「3日前より避けてほしい食品」
 ・海藻類(わかめ、こんぶ、ひじき)
 ・きのこ類、こんにゃく
 ・繊維の多い野菜
 ・種や皮のある野菜や果物(ゴボウ、玉ねぎ、ほうれん草、長ねぎ、納豆、キャベツ、トマト、なす、とうもろこし、きゅうり、ばなな、みかん、キウイフルーツ)

 ●前日夕食より避けてほしい食品
  ・乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)
  ・油の多いもの(天ぷら、肉、赤身魚、バター製品)
  ・果肉入りジュース・100%野菜ジュース・アルコール類)

 ●食べても大丈夫な食品
  ・主食はいつもの通りで大丈夫。(玄米等×白米〇)
  ・うどん、そうめん、パン、おかゆ、豆腐、お麩、たまご、ビスケット、白身魚などはOK
  ・水分は十分にとりましょう。

  ≪検査前日≫
  ・夕食は夜8時まで済ませる。
  ・常用薬は医師の指示に従い服用してください。
  ・水分はできるだけ多く飲んでください。お茶、水、スポーツドリンクなど透明なもの)。ジュース、牛乳、コーヒー、アルコールは控えてください。
  ・夜9時に下剤の一部をコップ一杯の水に入れて飲む。

 納豆とバナナが食べられないのは少しつらいな、などと思いながら、プチダイエット気分で食事していた。
 問題は当日である。「起床時に水分をとる(コップ2、3杯)」、「朝食は抜いてください」はいいとして、検査までに「2リットルの下剤」を飲まなければならない。これは一度にではなく、1リットルずつ、間に500mlの水もしくはお茶をはさんで、2回に分けて飲むのだが、「ゆっくり時間をかけて」飲まなければならない。その間に、便はどんどん出さなければならない。つまり、トイレと部屋を往復しながら、下剤を飲み続けるのである。便が透明な水のようになるまで続けるのだが、とにかく2リットルの下剤は飲み切らなければならない。これはたんにお腹を空っぽにするためだけではなく、腸内をきれいにして検査で見やすくするためのようである。この時ほど自宅トイレに暖房設備を整えていないことを後悔したことはない。(ちなみに私は自宅で下剤を飲んだが、この病院の場合、早めに行って個室で待機しながら「準備」することも可能である。)
 何とか「透明」になり、午後に病院に向かった。病院でも念のためトイレで排便して、便の色を看護師さんに確認してもらう。「あ、大丈夫ですね、きれいですね!」と明るく言ってもらって妙な気分である。この日も1、2時間待ちがあったが、小さいながらに個室で待機することができた。さほど大きくない病院には、老若男女、どちらかというと「老」の方が多いが、ずいぶんと訪れていて混雑していた。
 順番がきて診察室に通される。施術は初診の先生ではなく別の若い男の先生に。検査に痛みはないらしいが、希望すれば鎮痛剤の投与が可能とのことでお願いすることに。鎮痛剤が打たれ、「それでは始めますね」の声がかかり、私の黄門様の中に何か入ったと感じた瞬間、私は意識を失った。

 「佐藤さん、終わりましたよ。」の声で、我に返る。意識ははっきりしていたが、何がどうなったのかも分からず、ちょっとした目覚めのよい朝のような気分で、看護師さんに促され、待機室に戻る。検査結果について医師から何か言われたかどうかもわからなかったが、待機室から引き上げる看護師さんから「ポリープを3つ取りましたよ!」と明るい声で言われ、ああ、そうなのかとその時は思っただけで、帰宅の途に就いた。くわしい検査結果は次回ということになる。
 1週間後、検査結果は初診の時の院長先生から示された。結論からいうと、ポリープを3つ切除し、悪性腫瘍はなかった。3mmの過形成ポリープ、10mmの若年性ポリープ、5mmの腺腫があったが、いずれも良性で、ただし、一つだけ、放置していたらガン化する可能性のものがあったとのこと。
 ポリープをとったということで、ガンではないのだろうとは思っていたが、まあ、悪性腫瘍はなかったと聞いて一安心である。ただし、ガン化する可能性のあるものがあったということで医師からは「一年後にもう一度同じ検査を受けてくださいね」と念を押された。その時銀縁眼鏡の奥に光る医師の眼に医者の商売人としての顔を一瞬垣間見たような気がした。
 念のため今後の食生活についてアドバイスを求めると、大腸がんは食生活の欧米化、肉や脂肪の摂取と並行して増えてきたので、脂っこいもの、肉類は控えめにした方が良いとのこと。また、便秘はよくないので水をよく飲むこと。一日2リットル。「煙草やアルコールは控えた方がいいですか」と訊くと、「明日から煙草もアルコールも解禁ですよ!」と、「おめでとう!」と言わんばかりに言った。「少し控えたほうがいいですよ」ぐらい言ってほしかったのだが、少なくとも大腸がんにはそれほど影響ないということらしい。これが医学的に一般的な話かどうかは分からないのだが、たとえば煙草が肺がんとの関係を多少なりとも取り沙汰されていることを考えると、とりあえずこのお医者さんは私が大腸がんにさえならなければいいと考えているように思えた。まあ、そんなことはないだろうけれど、と思いながら帰ってきた。それが1月25日である。

 今私は一日2リットルの水を飲んではいない。しかし、1リットルは飲んでいるだろう。朝、昼、晩、風呂前、寝る前にそれぞれコップ一杯は飲んでいる。水以外のジュースやお茶を含めれば2リットルにはなるだろう。それで私の腸の調子はというとほぼ毎日いい感じの排便(私にとって「拭かなくてもいいぐらいの排便」がそれにあたる)があり非常に快調で爽快である。(唯一私の黄門様が忙しくてキレ気味であるが。)うーん、水をたくさん飲むというのは、少なくとも結果においては間違っていないようだ。ただし、なぜそうなるのかについてはまだはっきりわかっていないので、そのあたりもおいおい調べていきたいと思っている。院長先生、疑ってごめんなさい。

*   *   *   *

 「尾籠な」という言葉といっしょに思いだすのは憲ちゃんのある言葉である。
 それは、私が小学生の3、4年生あたりのことではなかったかと思う。石巻には羽黒山のお祭りがあり、ある日の夕方、憲ちゃんと私と当時の住み込み女性店員のキヨちゃんとで見物に行くことになった。なぜその顔触れになったのかは不明だが、若い女性といっしょに歩く憲ちゃんがいつになく機嫌が好いように見えたのは気のせいであろうか。
 寿町から曽波神屋さんの前を通り、マルシンさんを過ぎたあたり、祭りの賑わいでさんざめく夕方の裏通り。突如自然が私を呼んだ。「お父さん、○○○したくなった。」その時私がどう言ったかは正確には覚えていない。しかし、とにかく緊急事態である。近くに公衆トイレはない。駅までは距離があるし、羽黒山にトイレがあるかもしれないが、だとしてもあの長い石段を登っている間にアウトであろう。どうするか。少し思案したらしい憲ちゃんは、ある建物の中に入っていった。何となく自宅兼小さな工場(こうば)みたいな建物であった。中にはバンタイプの車がおさまっていて、奥に住まいがあり、その一室の戸に憲ちゃんは「お晩です」と声をかけた。中では4,5人の家族らしき住人たちが食事をしているところであった。住人が不思議そうな顔をして「はい」と戸を開けると、憲ちゃんは「すいません、ちょっとオツージすまさせてもらえるすか」と言った。一字一句正確にこう言ったわけではないと思うが、「オツージ」という言葉は鮮明に私の耳に残っている。そしてそれが何であるのか、私には分からなかった。住人も、何のことだかわからないといった感じで、一瞬間があったが、どうやらトイレを使わせてほしいということだと通じると、ああ、どうぞということで、私はその場所に案内され、無事に用を済ませることができたのである。

 祭りで「お○○○した」との悪夢のような思い出づくりを阻止してくれた憲ちゃんに、まずは感謝せねばなるまい。そしてもう一つ、この「オツージ」なる謎の言葉を私に教えてくれたことに感謝せねばなるまい。
 考えてみれば、私が緊急事態に陥った息子のために、知らぬ家の食卓を訪れ、その場所を使わせてもらうことをお願いするのに、憲ちゃんのように相手を不快にさせず、品さえ感じさせる形でやり遂げることができるだろうかというと、まったくもって自信がないのである。
 人は生きている中でさまざまな言葉に出会う。その言葉がその人にとって目前を通り過ぎるだけの言葉になるか、それとも自分の肉体の一部になるかは、その人の言葉への向き合い方、あるいは、生きることへの向き合い方によるのだと思う。憲ちゃんもそんな言葉に特別に注意を払っていたわけではないだろうが、少なくとも彼の目や耳に入った言葉を、咄嗟の必要のために取り出すことができるぐらいには、言葉を大切にしていたのではないかと思う。

 ポリープ切除とともに、そんなことを考えた次第。


*   *   *   *

付記1
 「尾籠(びろう)」はもともと「痴(おこ)」という言葉に「尾(お)籠(こ)」と漢字をあてたもので、それを音読みしたものである。だから、元の言葉は「痴(おこ)」である。「痴(おこ)」には、「不潔である」「わいせつである」「礼儀をわきまわない」などの意味がある。場にそぐわない不潔なことを話題にする場合に「食事中に尾籠な話になるが…」などと使う。

付記2
 「お通じ」は名詞「通じ」に接頭辞「お」がついたもので、「大便の排泄」、「便通」のことである。 私がこの言葉の意味を知ったのは、便秘薬のテレビコマーシャルでである。

付記3
 冒頭の写真は私の朝食である。現在はチーズをプロセスチーズからナチュラルチーズに、カフェオレに使う牛乳は、低温殺菌牛乳に切り替えている。これまでは体にいいものをどんどん投入するという考え方だったが、今は体の負担になるものを減らすということも考えて食べ物を選ぶことにしている。まあ、歳ですから。

付記4
 5月。新緑の候である。新緑と言えば「小さな恋のメロディ」の「若葉のころ」を思いだす。そういうわけで再生リストを作ってみた。ロケ地の最近の映像やメイキングも。

 

単独で。↓

五月一日 First of May - Bee Gees

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2019 名残りの桜 in 生田 | トップ | 20190526 三好屋さんと坂本く... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

父からの(への)便り」カテゴリの最新記事