日々のメモ

事業や企業、経済の動きについて分析していくブログ

人工知能の資産価値

2020-11-03 13:24:00 | 分析・観察
企業のデジタル化に関して、議論の最先端にいるリーダーの1人は、本を読んだりニュースを見る限り安宅和人さんだろう。デジタルトランスフォーメーション(DX)を成し遂げ、人工知能を使いこなして未来を変革する企業が活躍する社会を追求していて、その発言を追っているのは視点が増える楽しいことだ。
DXを行い人工知能を使うに至るまでのレベル感についてはそのブログの中で図解していて、初めの一歩にきているのは情報のデジタル化である。

これを読むと未来の競争のためには人工知能を活用しなければいけない気持ちになるが、それでは人工知能にはどれくらいの価値があるのだろうか。
これを市場で見てみるには、人工知能の有無の分かる類似の事業の企業をみるのが一つの指標になるだろう。

旅行サポート事業をみると、
米国で2000年に創業されたtripadvisor社は、旅行情報の閲覧者に対する広告表示で人工知能を適用することにより(Forbesの記事)、旅行を後押しして収益化に成功する企業だ。
Googleが旅行事業を伸ばして競合するというリスクはあるものの、今も時価総額は2000億円を超えている。
一方で旅行代理店を営む企業は、コロナ禍の影響もあるが日本では1980年創業のエイチ・アイ・エス社で時価総額1000億円を下回っているなどデジタル勢に遅れをとっている。

この差は、デジタルを用いてリーチした顧客数、リーチした顧客に提供したデジタルサービスの品質によると思える。アメリカの人口が日本の倍なのでtripadvisorは有利であるが、創業からの時間も考えればtripadvisorはより投資家に応える経営を出来ていると言える。
人工知能の活用を進める経営陣に、投資家の注目は今後集まるのではないかと思う。

レポートバンクでこれまで作成してきたレポートの一覧

AI活用までいかないまでも、その準備段階となるレベルの簡易で低コストな情報デジタル化の考えをまとめたレポート





お墓のデジタル化

2020-09-26 17:33:00 | 分析・観察
この夏、お墓参りにはいきましたか。お墓は手入れされているでしょうか、どれくらい訪れていますか。…

僕は近所にお寺が多いことから、お墓をよく見かけるが、お墓の形や大きさ、手入れ具合は様々だと感じる。そうしたお墓を見るにつけ、これらはどのような意味合いから作られたのだろうかと不思議に思う。特に青山霊園ともなれば、その墓地代は400万円を下らない(記事)。中々の投資であるといえる。どんな効果を期待しているのだろうか?
なかでも墓碑(お墓や、横にある石碑に故人の事績が書いてあるもの)についてはあまりに記載が簡潔で、その存在を特に不思議に思う。

おそらくこの答えは、故人への尊敬や追慕の思いを昇華する効果なのだろう。
・文明の始まりと同じくらいのタイミングで埋葬の文化が起きていること
・人間にだけ見られること
を考えれば、「過去の出来事を尊び学ぶ」という、知性と同じ精神性に源はあって、そ思いを昇華したのがお墓というのが納得感のあるところだ。

そうなると、お墓を作って昇華する目的は
①作り手個人向け…個人的にとっておきたい過去を記念碑のようにしてとどめたい
②作り手以外向け…その人の生き様がどれほど学ぶべき素晴らしい過去であるか後世に伝えたい
という2点に整理できそうだ。

デジタル化という選択肢があり得る今、墓石という存在を物理的に作るのは主に①の目的になるだろう。だから作り手として直接に関わった人々が亡くなると、次第に省みられなくなるのだろう。②の目的を追求するなら、デジタル化の力を使えば、wikipediaのように文章を書き起こし、公開するなり親族の間でやりとりすると良いのではないか。もしお墓で追求するとするならば、通行人の目を引くくらい大きく、墓碑は分かりやすく十分長くしなければならないが、それは観光地になるレベルのお墓でも困難である。

これらを考え合わせると、お墓は①の意味だけを残して、世代の移り変わりと共にお墓の代謝をしながら文化として続き、②についてはデジタル化をするのだろう。大型のお墓・墓碑は今後減るのだと思う。(あるいはQRコードをつけて事績に誘導する墓碑になるのだろうか)
お墓はすでに伝達の意味では本やデジタルに超えられている。Wikipediaほど事績を伝えるお墓は存在しないだろう。裏返して言えば、お墓の作り手の②の願いはデジタルによって強化され、より良く叶えられる世の中になってきている。

ちなみに僕は夏に祖母から先祖の話を聞いて文章に起こし、LINEのノートで家族に共有したら「初めて知ったよ!」と驚かれ喜ばれた(大学教育の普及に力を入れたエピソードなど出てきて先祖の努力に思いを馳せたりした)。
在宅の長引く時期、お墓参りという一つの外出もこれまでほど気軽に出来ないこの時期に、お墓の「デジタル化」をしてみてはいかがだろうか。

レポートバンクのレポート一覧


銀行経営の比較

2020-09-06 14:18:00 | 分析・観察
アメリカには、5000行程度の預金取扱金融機関が存在するらしい(Forbes記事)。
日本は約560行程度である(預金保険機構の公式サイト)。

アメリカのGDPは日本の4倍ちょっとなので、経済規模から言えば日本はそれほど多すぎるわけではなさそうだ。(investopediaの記事

それでは日本の地方銀行は過当競争に陥らず適切に経営されていて経営効率も良いかというとそうではない。
アメリカの地銀(今では成長の末にメガバンクなみの規模だが)であるウェルズファーゴとUSバンコープの公表財務諸表をみると、日本の地銀よりも
・資本効率(ROEでみる)が良く
・総収益に対する純利益の比率が良く
・従業員1人あたりの給与も1.5倍程ある
ということが分かる。

そしてこれらアメリカの成功している地銀と日本の地銀を比較したとき、どちらもインターネットバンキングや業務のデジタル化、店舗の集約といった施策もあげているなかで、明確な違いはブランドの統一をしながらの合併による一元的な規模の拡大ではないかと考えられた。

合併は本当に力を持つのか、一つ一つの合併で気をつけたことは各銀行の公式サイトでも詳細は分からない。
しかし結果として現在、ウェルズファーゴは約26万6千人の従業員に対して約7300店舗、つまり36人に対して1店舗であり、日本で地銀最大の横浜銀行が約4600人の従業員に対して638店舗、つまり7人に対して1店舗であるのと比べて大幅に店舗数が少ないので、
合併により「重複する店舗」という無駄を省き、効率的なオペレーションを実現しただろうことが想像できる。
結果として、地銀に勤める従業員も地銀の株主も利益を得ているので、これは見事な施策といえる。
日本の地方銀行が、今後効率的なオペレーションを実現していくことを願いたい。

アメリカと日本の地方銀行について分析したレポート

建設のデジタル化

2020-09-02 23:53:00 | 分析・観察
リモートワークが進む中でも、建設工事は続けられている。デジタル化は建設工事の業務を効率化しているが、そこにはどれほどのビジネスチャンスがあるだろうか。

建設業界のデジタル化は、コーポレート部門への間接的なものを除くと、
・設計の情報流通効率化
・調達の効率化
・建設工事の効率化
・建設後のメンテナンスの効率化
をすることで成し遂げられる。
建設業界はGDPの5%台半ばで推移している。実質GDPはだいたい550兆円なので、およそ30兆円が建設業による創出価値(売上-総費用=粗利益)であるとわかる。
(内閣府のデータ

建設大手の粗利益率は清水建設を例にすると13%で、逆算すると売上は約230兆円。

さらに清水建設を例にすると一般管理費に6%ほどをあてており、この割合でいくと12〜13兆円が建設業の一般管理費に流れている。

おおよそ半分は人件費とすると、他の経費は6兆円程度だ。これが建設業の拠出するIT予算の潜在的な最大値だ。
建設業界は、住宅から大型プラントまで、デジタライゼーションによるコスト削減に取り組んでいるため、この最大値に近いところで、何らかのシステム投資をしているのではないかと思われる。
例えばアメリカの巨大エンジニアリング企業(工場や発電所などを作る)であるFluor社(売上も従業員数も、日本の同業トップ三社を合計してさらに2倍にしたレベル。日本の同業トップ三社は、日揮・千代田化工建設・東洋エンジニアリング)は建設データ100件以上をIBMのAIに読み込ませ、最適な工事運営の実施に取り組んでいるという。

大きな資本・人手のかかる工事をAIで効率化することには経済効果も大きいはずだ。職人意識の強い企業ほど、まだまだ効率化余地があるのではないかと思う。
株式の人気は業績の揺れが懸念されてか微妙であるものの、コスト削減を進めることで、建設業界は今後さらなる発展が期待される業界であると思う。

大型建設を手がけるエンジニアリング業界の分析。Fluor社も日本の大手各社と比較している。


オーディオブック事業

2020-08-30 09:18:00 | 分析・観察
本を聴くという習慣はどこまで普及するのたろうか。そして収益を得る機会はあるのだろうか。

本を聴く習慣を、今体験できる最も簡単なツールはAmazonオーディブルだろう。
最初の30日間無料で1冊好きな本を聴くことが出来て、気に入ったら続けてもらうという普及戦略をとっており、多くの人がこの無料体験をしてみたはずだ。

事業戦略として見たとき、この市場は少なくとも日本について電子書籍より大幅に小さいことが見込まれる。
「音から情報を得る」という側面から親和性の高いラジオ事業は、総務省の情報通信白書によれば、6.5%の人だけが利用するメディアである(情報通信白書の「行為者率」から)。
在宅勤務の増加でリスナーが増えたというものの、増加後の人数は首都圏(人口は一都三県で3000万人近い)で100万人に満たない(ビデオリサーチの記事)。

つまり、1億人の6%〜7%程度、多くて700万人ほどが日本の潜在顧客であり、その中での「本を読む」人の比率をネット上の記事に合わせて半数とすると、350万人ほどである。
1億人の半数である「読書をする」人がどれほど電子書籍を読んでいるか全国出版協会のデータをみてみると、その売上は3000億円だ。電子書籍が世に出てから数年たち、もう「潜在」だった市場規模は顕在化していると見て良いだろう。
つまり、
5000万人の潜在顧客→3000億円から、350万人の潜在顧客→210億円というのがオーディオブックの潜在市場規模である。
今後の動向としては、市場規模があまり大きくなく強力な競合の参入はあまり予測されず、先のAmazonオーディブルが既に顧客体験としては完成されていると思うので、Amazonの占有市場となるだろう。

社会の大型インフラ整備のビジネスがどのような動向であるか分析したレポート

損害保険ビジネスの動向を分析したレポート