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肺炎の解説
http://www.google.co.jp/gwt/x?gl=JP&wsc=tb&u=http://www.nsknet.or.jp/katoh/pneumonia.html&ei=z4bJULHUD5CvkgXrqYDoAg&ct=pg1&whp=30
肺炎
乳児死亡の3大原因の一つと云われたくらい恐れられていた肺炎は、抗生物質が登場してからはその死亡率がかなり減少しました。しかし、肺炎は乳幼児ほど罹りやすく重症となる場合もあり軽い病気ではありません。また、ウイルス性肺炎も乳幼児では多く、時には致死的な場合もあります。現代の肺炎はカゼなどのウイルス性の上気道炎を引き金に、細菌の二次感染による細菌性肺炎が普通にみられるパターンです。
このページでは小児科医院(診療所)で普通に見られる肺炎を解説します。したがって、例えばカリニ肺炎や真菌性肺炎などの特殊な肺炎は除外しました。
肺炎は原因別には次のように分類されます。ここでは★印の付いた日常重要な肺炎を説明します。
日常、多くみられる肺炎の病原体には細菌、ウィルス、マイコプラズマ、クラミジアなどがあります。
A. 細菌性肺炎
★インフルエンザ菌性肺炎
★肺炎球菌性肺炎
★黄色ブドウ球菌性肺炎
その他の細菌性肺炎:A群溶血性連鎖球菌、レジオネラ菌、肺炎桿菌など
B. ウィルス性肺炎
★RSウィルス肺炎
★パラインフルエンザウィルス肺炎
★インフルエンザウィルス肺炎
★アデノウィルス肺炎
その他のウィルス性肺炎:麻疹ウィルス、水痘ウィルス、サイトメガロウィルスなど
C. マイコプラズマ肺炎
D. クラミジア肺炎
★クラミジア・トラコマチス肺炎
★オウム病
★クラミジア・ニューモニエ肺炎
E. ニューモシスチス・カリーニ肺炎 ・・・免疫不全疾患に発生しやすい
F. 真菌性肺炎 ・・・基礎疾患を有する人に発症しやすい
G. 嚥下性(吸引性)肺炎・・・主に誤飲でおこる、高令者に多いの部分は少し専門的ですが、できるだけ読んでください。
A. 細菌性肺炎
細菌性肺炎には細菌感染が直接の原因である原発性のものと、ウイルス性の上気道炎が引き金になった細菌の二次感染によるものとがあり、原因菌として主なものにインフルエンザ菌、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などがあります。
1. インフルエンザ菌b型(Hib)性肺炎:
生後6ヵ月から4才の乳幼児の細菌性肺炎の原因の第一位を占めます。冬に多く、5才以後の発症は少なくなります。
ヘモフィルスインフルエンザ菌は細菌であってインフルエンザウィルスではありません。ヘモフィルスインフルエンザ菌感染症には全身型(深在性)感染症と粘膜型(表在性)感染症とがあり、全身型感染症の95%は最も強いヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)でおこります。
全身型感染症ではHibは鼻咽腔から血流に入り、身体各部に広がり菌血症となります。その結果、肺炎のほか多くの臓器で炎症をおこします。
肺炎は発熱で始まり、咳は次第に強くなりますが、肺炎症状は他の細菌性肺炎とほぼ同様です。しかし、敗血症を併発することがあり要注意です。
胸部レントゲン写真では気管支の走行に一致した境界不明瞭な浸潤影が認められます(気管支肺炎、または小葉性肺炎あるいは間質性肺炎)。
粘膜型(表在性)感染症では菌血症を伴うことなく中耳炎、副鼻腔炎、反復性の気管支炎をおこします。
Hibは肺炎よりむしろ、化膿性髄膜炎の主な病原菌として有名で、重症で神経後遺症の多い病気です。さらにHibは急性喉頭蓋炎という、声帯上部の気管の入口が炎症で腫れて気道が塞がれることにより重篤な呼吸困難を急激におこす病気の原因となります。急性喉頭蓋炎は集中治療を必要としますので早期の鑑別、治療が必要です。最近Hibは抗生物質に対して耐性化(効かない)が進んで治療が難しく、予防接種が現在最良の対抗手段であり、大多数の国では生後2ヵ月から予防接種が行われています。わが国では残念ながら未だに導入されていませんので、予防接種の一日も早い定期接種化が待たれます。
急性喉頭蓋炎はクループ症候群の一つで、別にクループ症候群のページを用意しました。
<肺炎のレントゲン所見による分類>
肺は胸膜に包まれ、右肺は上葉・中葉・下葉の3葉に、左肺は上葉・下葉の2葉に分けられています。肺炎はレントゲン所見から大葉性肺炎と気管支肺炎(小葉性肺炎)、および間質性肺炎とに大別されます。
大葉性肺炎では病変が短期間に一葉全体に拡がり、胸部X線写真で肺葉に一致した均等な濃い(レントゲンフィルムでは白い)浸潤陰影を呈します。さらに、炎症により肺胞腔のガスが浸出液で不透過性となった肺実質に対して気管支が陰性に描出される気管支気像(air bronchogram)、あるいは病変に侵されていないガスを含んだ肺胞の集合したものが周囲の不透過性となった肺実質に取りかまれるとガス泡となって描出されるair alveogramを伴うことが多い。
これに対し、吸入された病原体が末梢の気管支のいずれかに引っかかり気管支周囲の肺胞内に炎症が拡がると、気管支の枝に多数の花が咲いたような淡い周辺が不鮮明な2cm以下の多発性の陰影ができます。これを斑状影と呼び、陰影の大きさが小葉大なので小葉性陰影と呼びます。小葉性陰影は気管支に沿った部分的あるいは肺全体の多発性の陰影で、気管支肺炎(小葉性肺炎)とも呼びます。
肺の気管支や肺胞、血管などの周囲組織を肺の間質と呼びます。間質の炎症である間質性肺炎ではびまん性、散布性で左右の肺が同時に侵されることが多い。侵される間質が気管支璧ではtram lineと呼ばれる路面電車の線路のような陰影が、血管璧では血管璧のボケ像が、肺胞璧ではスリガラス様陰影と呼ばれる微細顆粒影が生じます。間質性肺炎の原因として多いのはウィルス性肺炎と、後述するマイコプラズマ肺炎があります。
2. 肺炎球菌性肺炎:
新生児を除く全年令、特に6カ月から4才の乳幼児が好発年令です。以前より少なくなりましたが、ウィルス性上気道炎の多い冬と通園開始後の5~6月が発病の多い時期です。成人では他の菌による肺炎が稀なため細菌性肺炎の第一位を占めています。
高熱や咳がはげしく、初期(1~2日間)は乾いた咳、その後は膿性の痰咳となる典型的な肺炎です。胸部レントゲン写真では肺葉に一致した均等な陰影を呈することが多い(大葉性肺炎)。
乳幼児では機能的イレウス(腸の内部に食物が滞る以外の原因で腸の通過が障害される状態)により腹部膨満や腹痛をおこすことがあります。また、中耳炎、髄膜炎、副鼻腔炎、心内膜炎などをおこす菌です。
かっては抗生物質で容易に制圧できた肺炎球菌は、近年ペニシリン低感受性菌(PISP,30%)やβーラクタム薬に対して耐性を示すペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP, 20~50%, 中耳炎で最も検出頻度が高い)が増加し、特に十分な髄液中の薬剤濃度が得られにくい髄膜炎では注意が必要となっています。Hibと同じように抗生物質に対して耐性化(効かない)が進んで治療が難しいため、予防接種が現在最良の対抗手段です。
わが国で任意接種として認められている23価ワクチンは65才以上の高齢者向けであって、2才未満の小児には効果がありません。ほとんどの先進国ではすでに生後2カ月から接種できる7価ワクチンの定期接種が行われていて、効果をあげています。Hibと同様に7価ワクチンの一日も早い定期接種化が待たれます。
<抗生物質について>
細菌性肺炎の治療には通常、細菌の細胞膜を障害して細菌を溶菌、殺菌するペニシリン系、ペニシリンと一部同じ骨格を持つセフェム系などのβーラクタム系抗生物質が使われます。しかし、これら抗生物質を使っている内にβーラクタム系抗生物質を分解してしまうβーラクタマーゼという酵素を産生する株(耐性菌)が出現し、βーラクタム系抗生物質が無効な株が増加しました。これに対し人類はペニシリンを改良したメチシリンやクロキサシリン、セフェム系には第二世代、第三、第四世代のものを開発して対抗してきました。しかし、新しい抗生物質に対して次々に耐性菌が出現して菌と抗生物質との間に際限ない戦いが続いています。
インフルエンザ菌の抗生物質耐性の主な機序はβーラクタマーゼ産生であり、呼吸器から分離されたβ-ラクタマーゼ産生インフルエンザ菌の比率は近年10~20%です。さらに近年、βーラクタマーゼ産生以外の耐性機序による耐性菌(β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性菌=BLNAR)の増加が報告され、時には治療に苦渋することがあります。
3. 黄色ブドウ球菌性肺炎:
1才以下が70%と乳児に多く、先進国では激減しましたが発症すれば進行の早い重症感染症で、最近は院内感染(入院治療中の患者に発症する肺炎で、入院時すでに潜伏感染にあって発症するものを除外するために、一般的に入院後48時間以後に発症したものを指します)が問題になっています。
ウィルス性上気道炎の二次感染によるものが最も多く、膿痂疹(とびひ)などの感染巣から血行性感染により発病する場合もあります。
はじめは上気道感染症状ですが、肺炎をおこすと急変して呼吸困難、陥没呼吸、多呼吸、苦悶状となります。急速に大葉性肺炎から肺膿瘍、膿胸となることもあり、死亡率は現在でも10%で警戒すべき肺炎です。胸部レントゲン写真では初期は小斑点状または淡い均等陰影、次いで気管支肺炎像となり急速に一葉または一側肺全体の大葉性肺炎像を呈し、肺膿瘍、膿胸、膿気胸を合併します。黄色ブドウ球菌は現在有効な薬剤が限られているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が病院で約50%検出されています。
<メチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)>
mec A遺伝子(メチシリン耐性遺伝子)を持ち、メチシリンをはじめとするβーラクタム系抗生物質に耐性を示す黄色ブドウ球菌をメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)と呼びます。最近はその分離(検出)率は全国平均で60%を超えています。さらにβーラクタム系だけではなく、テトラサイクリン系・マクロライド系・アミノグリコシド系などの多くの抗生物質に耐性を獲得している菌株が近年急増してきたため、治療薬を選択することが難しくなってきました。
黄色ブドウ球菌 についてブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群 (SSSS)のページにリンクがあります
B.ウィルス性肺炎
呼吸器感染症の病原ウィルスのうち、RSウィルス、パラインフルエンザウィルス、インフルエンザウィルス、アデノウィルスなどが肺炎を起こしやすいウィルスです。このほかに麻疹ウィルス、サイトメガロウィルス、水痘ウィルスなどが起因ウィルスとなります。ウィルスが判明した場合はそのウィルス名をつけた病名とします。
乳幼児が好発年令で、冬に多く、ほとんど無症状のものから重篤例までさまざまな段階のものが含まれます。さらに細菌の二次感染が加わると、その病像は非常に多彩となります。
胸部レントゲン写真では気管支肺炎、あるいは炎症が肺胞周囲の間質を主体とするため間質性肺炎と呼ばれる所見であることが多いですが、炎症が進行すると大葉性肺炎の所見となることもあります。